表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第一章 はじまり、そして始めての海戦(ガサ沖海戦)
13/822

ガサ沖海戦 ある人物の視点から

私の名は、アーリッシュ・サウス・ゴバーク。

ウェセックス王国の第六王子だ。

まぁ、要は王家のあとを継ぐための予備の予備ですらないただの王族の一人でしかない。

そして、私は今、父親である王の命に従いこんな東の端にまで来ている。

東の果てにある未開の地を我が領土とするためと言う名目だが、要は国力を上げる為の侵略でしかない。

それは果たして正しい事なのか。

何度もそう思ったが、今、世界は六つの大きな勢力に別れ、互いを牽制し、我こそはと各勢力が抜きん出ようとしている。

弱肉強食。

それが世界の理であるなら、それは正しい姿なのかもしれない。

しかし、どちらが上か下かの同盟。

利権のみを追求する人々。

自分さえよければ他人がどうなろうと知ったことではない。

そんな思いばかりが先行し、支配する権力争い。

そんなうんざりするほどのしがらみが全てを絡めとっている。

そして、その中で私は弱者でしかなく、父に言われるままこの地に赴いた。

一応、最高司令官の肩書きは持っている。

しかし、私に指揮する権限はなく、ただ見ていることだけしかできない。

そして、何かあった場合、ただ責任のみが私に重くのしかかっている。

要は、ただの使い潰しの駒だ。

私に命を下す冷たい父の目とニヤついた兄弟達の表情のみがあの時の全てだった。

はぁ…。

ため息が漏れる。

「王子、始めますがよろしいですかな?」

形式上聞きましたといった感じのおざなりの言葉が私に浴びせられる。

この艦隊の実質的な総司令官であり、この最新鋭の重戦艦ゴードバルクの艦長が見下すような視線を私に向ける。

「好きにしたまえ…」

私はそう言って、艦内に用意された自分の個室に戻る。

これから行うのは、彼らの欲望のままに行われる襲撃と略奪だ。

以前この地に紛れ込んだ連中は、かなりうまい事をやって虐殺と略奪を楽しんだという話だったから、彼らもそれを味わいたいと思ったらしい。

それに、交渉に来た人物の態度に、自分達が上で何をやっても問題ないとでも思ったのだろうか。

私の目からは、彼は落ち着き、下に出ながらもこっちの様子を窺うしたたかな男という印象だったんだが…。

そんなこともわからないのだろうか。

こいつらは脳までも筋肉でできているのではないかと思う時がある。

本当にうんざりだ…。

それに、王国の海兵である彼らの素行は、私にとって最悪であり、身の毛もよだつものだ。

そして、悔しい事に私には彼らを従わせる力はないし、権限もない。

せめてもの抵抗は、見ない振りをすることだけだ。

はあ…。

ため息が漏れる。

この船に乗って、どれだけため息をついただろうか。

多分、母上が生きていたら「運が逃げてしまいますよ」と注意された事だろう。

しかし、その唯一の肉親である母親も権力争いに巻き込まれ、すでにこの世にはいない。

はあ…。

私には、この世で生きていく価値があるのだろうか…。

身体を動かす才能には恵まれなかったので、何か役に立つかもと勉学には励んだものの、結局得た知識を生かす場も機会も与えられなかった。

ただのお飾りの駒。

責任だけを取るためだけの駒。

それが私なのだ。

轟音が響き、艦がびりびりと震える。

主砲の三十センチ砲が火を噴いたのだろう。

そして、それにあわせるかのように近くでも轟音が響く。

多分、僚艦の重戦艦ヤルドバルクの主砲の発射音だろう。

大砲で脅し、そして重装備した略奪者と化した海兵たちが上陸する。

どうやら大きな街らしく、楽しみだと言っていた海兵たちの言葉を思い出す。

きれいごとを言うつもりはないが、まるで野獣のように欲望のみの連中がわが王国の最新鋭戦艦の乗員とは…。

なんと嘆かわしい。

しかし、何射か続くと思っていた主砲の発射音が止まる。

それどころか、船は動き出し、砲がそれぞれ動いている様子だ。

全ての砲を使った艦砲射撃でもするのだろうかと思ったが、それにしてはおかしい。

そして、何より甲板上が騒がしい。

そう思ったときだった。

「敵襲ーーーっ」

艦内に設置された非常用のベルが鳴り響き、叫び声が艦内に響く。

私は驚き、部屋を飛び出すと甲板へ走り出した。

しかし、それはかなり困難な行為だった。

回避する為だろうか。

船はぐらりぐらりと蛇行運転のような動きをし、艦内が左右に揺れる。

そして、轟音とともに艦のすぐ傍に立つ水柱。

その度に艦が震え、浴びせられるかのように海水が降り注いでいる。

それは間違いなくこの船が砲撃されているという証だった。

今、この艦は戦っているのだ。

私は緊張し、揺れるたびに座り込んでしまう身体を叱咤してなんとか甲板に這い上がった。

這い上がった甲板で目にしたのはこちらに向ってくる灰色に塗り上げられた艦船達だ。

多分、四隻だろうか。

先頭がこの重戦艦と同じくらいの大きさと思われるから、間違いなく戦艦だろう。

そして、その後ろには大きさ的にみて巡洋艦クラスと思われる艦船が三隻。

しかし、それぞれ見たことのない形状だし、全体的に艦の幅が細い。

それに相手の戦艦にはこの艦のような大型の砲塔が見当たらない。

まるでまったく違う設計思想で作られたとしか思えない形状といった方がいいだろうか。

私は各勢力の船に対してもそこそこの知識を持ってはいるつもりだったが、その中に該当する船はない。

私はたまたま首にかけてあった双眼鏡を覗き込む。

軍艦ならばどこかに国旗や軍旗を掲げているはず。

どこの勢力の船か知りたいと思ったための行動だったが、それは無駄な努力になった。

見たこともない軍旗がはためいていたのだ。

白地に紅い丸。

そして、まるで朝日が昇るかのような旗も見受けられる。

あんなにシンプルで、それでいて印象に残る旗を私は知らない。

そんな艦船が、縦一列に並び統率された機敏な動きでこちらに向かってきている。

重戦艦二隻対戦艦一隻と巡洋艦三隻。

王国海軍は六つの勢力の中では最強と言われ、その造船技術は最先端といわれており、この重戦艦は一隻で他の勢力の戦艦二隻と戦えるといわれているほどの艦船だ。

なのに…。

戦力的には有利なはずなのに、素人目でも押されているとしか見えない。

それを吹き飛ばすかのようにすぐ傍で主砲が響く。

振動と衝撃で甲板に叩きつけられる。

しかし、こちらの砲撃は、相手の船に当たるどころか、かなり離れたところに水柱を作るだけだ。

それとは反対に、相手の砲撃は間違いなくこちらの艦の近くに降り注いでいる。

艦の左右に配置されている副砲が火を噴きいくつもの水柱を立てるが、命中弾はまだない。

ある程度動く主砲と違い、左右に配置された副砲は稼動範囲が狭い。

そのため、射撃もばらばらだ。

爆音と煙が辺りを満たす中、一際高い金属音と破壊音が響いた。

その方向に目を向けると後ろに続いていた僚艦重戦艦ヤルドバルクが煙と火に包まれている。

さっきまであった精悍な姿はもうそこにはもうない。

甲板にあるのは、屑鉄と化した建造物と燃え広がっていく火、それに逃げ惑う人の姿だけだ。

多分、艦橋近くだろうか。

あれでは艦橋は全滅だろう。

また、目の前で火にあぶられた為かマストがまるで飴のように曲がり、煙突が崩れ落ちる。

船体もかなり傾いているようだ。

それでも無事な主砲と副砲が火を噴くが、その動きは悪足掻きのようにしか見えない。

そして、その行為を封じ込めるかのように次の砲撃が命中し、主砲が沈黙する。

後はカッターを下ろしたり、そのまま海に飛び込む逃げ惑う人々が見える。

なんだこれは…。

押されているという話ではない。

一方的ではないか。

そう思ったときだった。

この艦の砲撃音とは違う音が響きあたりが煙と炎に包まれる。

それは敵の砲撃がこの艦に当たった証拠だった。

その衝撃で艦が大きくゆれ傾く。

それは一瞬の出来事で、手すりにつかまる暇もなく私は海に放り出されていた。

海面に叩き付けられ、一瞬気が遠くなったが、慌てて漂う漂流物になんとかしがみつく。

冬でなくて良かった。

夏とまではいかないが、かなり暖かいおかげで凍死しなくてすみそうだ。

そんな事を考えてしまう。

そんな私を置いて、重戦艦ゴードバルクはのた打ち回るかのように離れていく。

僚艦である重戦艦ヤルドバルクの姿はもうない。

その現実に私は悟る。

ああ、私達は負けたのだという事を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] スッゴく静かに勝利していった…
[気になる点] 「そんな艦船が、縦一列に並び統率された機敏な動きでこちらに向かってきている」 砲弾が、もう敵艦に届いていると思われる距離なのに、アウトレンジ攻撃をしないのですか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ