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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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共和国海軍艦隊の末路

南部の共和国主力との戦いは、あっという間に決着がつこうとしていた。

それはそうだろう。

相手は重戦艦とか戦艦とか言ってみても、フソウ連合海軍の規格からしてみれば軽巡洋艦程度でしかない上に、主砲の砲径は大きいものの、実際の火力はフソウ海軍の重巡洋艦の二十センチ砲程度であり、射程距離もかなり短い。

また、数の差こそあれど、射程距離外から密集しているところに攻撃を食らったのだ。

抵抗するまもなく、混乱し、磨り減らされていく。

そして、後ろに回り込んだ南方方面艦隊の攻撃が始まったのだろう。

それがますます混乱を招き、共和国主力艦隊は総崩れとなっていた。

その様子を見ながら、山本中将は口を開く。

「残弾はどうなっている?」

「無駄弾が少なかったからね。六割程度ってところかな?」

山本准将の問いに、さらっと榛名は答える。

さすがは艦の付喪神だ。

自艦の事はよくわかるらしい。

「他の艦も同じくらいか?」

「多分ね」

「よし…。なら、この後は第一艦隊に任す。我々第二艦隊は、急いで戻るぞ」

山本中将の命令に、艦橋内がざわつく。

ほとんどの者がまだ早いのではないかと思ったためだ。

しかし、山本中将ははっきりと言い切った。

「ここはもう終わりだ。次の戦場が待っているぞ」

その言葉に部下の一人が恐る恐るといった感じで聞いてくる。

「補給はどうされるんですか?」

「榛名、どうだ?」

山本中将が榛名に聞くと少し考えた後、にやりと笑って答えた。

「弾薬と砲弾は、問題なく次の戦いまではいける。問題は燃料だけど、余裕のある艦は先行し、本島に連絡入れて本島から出た給油艦で補給し、燃料が心もとない艦は移動しつつ補給したらどうでしょう?」

「わかったそれでいこう。通信士、第一艦隊と北方方面艦隊に打電。今の事をきちんと伝えろ。第一艦隊の後の指揮は南雲少佐に任すとな。あと、本部に連絡。作戦についての説明と給油艦の手配を頼んでくれ」

山本中将がテキパキと指示を出していく。

「はっ。了解しました」

通信士が敬礼し、無線機にかじりつく。

その様子を見て、再度、山本中将は声を上げた。

「よし。では各自始めてくれ」

「はっ。了解であります」

打電後、ゆっくりと第二艦隊は動き始め、空いたその隙間を埋めるように、今までは砲撃を掻い潜って接近してきた敵艦のみ砲撃していた第一艦隊の重巡洋艦が距離をつめて順次敵艦隊に砲撃を開始した。

戦線を離脱していく第二艦隊。

そして、その後に続くのは、支援艦隊の補給艦だ。

燃料に比較的余裕がある戦艦、重巡洋艦は速度を上げて先行し、航続距離の短い駆逐艦などが補給をしつつ、補給艦と共に遅れて進んでいく。

(戦艦、重巡洋艦の航続距離が十四~十六ノットで大体七千~一万浬、駆逐艦が大体四千~五千浬である。もちろん、全力運転すればもっと距離は短くなる)

敵艦隊がいくつもに別れて侵攻してきている報告は第二艦隊にも届いていた。

もしかしたら、首都攻略に動いている艦隊以外もいる可能性は高いとも聞いている。

だからこそ、確実に判明している敵を叩かなければならない。

「いいかっ。我々がどれだけ早く着くかで北方方面の戦いの決着が決まる。各自、自分の仕事は確実に、敏速に済ませろ。踏ん張りどころだ」

山本中将の檄が飛び、艦内の士気が一気に上がる。

こうして、決着がつきつつある南方方面の共和国艦隊との戦いから第二艦隊が離脱して北上を始めた頃、本島を離陸した航空隊は、首都攻略を目指して進む共和国の艦隊を発見し、攻撃に移ろうかとしていた。


「本部基地管制塔、聞こえますか?こちら本部基地飛行隊、第101攻撃隊の丸山であります。敵艦隊発見。総数は、全部で二十六。護衛六の輸送艦二十ってところですか…」

「管制塔、了解。近くに他の艦艇はどうか?」

「他の艦艇は見られず。繰り返す。他の艦艇は見られず」

「了解。護衛は無視でいい。輸送船を狙って攻撃を開始せよ。まもなく、第三艦隊がそっちに回り込んでくる」

「了解。これより攻撃に入る。以上」

本部基地管制塔との通信をきると、丸山少尉は周りの味方に無線連絡を切り替える。

「みんな、今のを聞いたな。第三艦隊が来るらしい。しかしだ…」

そこで言葉を切り、丸山少尉は笑いつつ言った。

「第三艦艇の仕事を俺達が済ませてしまおうじゃねぇか」

「「「了解しました」」」

無線で答えない機体も各々翼を振って反応を返す。

なかなかいい感じだ。

「では、始めるぞ。最低でも輸送船の全撃沈。出来れば護衛艦艇もやっちまえ」

丸山少尉の声と共に、攻撃隊はそれぞれ攻撃コースに入る。

九七式艦攻は海面すれすれに、九九式艦爆は高度を取る。

そして、護衛の零戦は現状の高さを維持しつつ、護衛している艦船に近づくと高度を下げて機銃掃射で牽制をする。

甲高い急降下爆撃独特の音が響き、九九式艦爆二十四機が一斉に艦隊に襲い掛かり、それぞれ狙った船に二百五十キロ爆弾を落としていく。

次々と爆発が起こり、火災や崩壊が進み、船が沈もうとしていたが、飛行機による攻撃という事が今までなかった為、艦艇の乗組員達や乗り込んでいた兵士達は奇妙な音に怯え、震え上がり、抵抗どころか逃げる事も何も出来ないでいた。

その結果、急降下爆撃は、実に八割以上という命中率となる。

もちろん急降下爆撃だけでなく、九七式艦攻二十三機(一機は故障の為、途中で引き返した)の雷撃も始まって二十三本の八百キロ魚雷が確実に船を沈めていく…。

やっと護衛の装甲巡洋艦が遅れて反撃の砲火を始めるも、元々艦艇用の砲が航空機に対抗できるはずもなく、結局は小銃などで狙って撃つだけしかできずにほとんど飛行隊に被害を与える事は出来ていない。

まさにわずか十分程度の間に一方的な戦いになってしまっていた。


「なんだ、あれはっ…」

アランは座っていた椅子から立ち上がり、外を指差す。

それはそうだろう。

この世界には、まだ軍用の飛行機は一機もない。

あるとしてもまだ、飛行機と呼べるかどうかといった代物のみだ。

その代わり、この世界では飛行船が発達した。

飛行船は、小回りが利かず、動きがとろい為、偵察や輸送でしか使われなかった。

ゆえに空から襲われるとは誰も考えていなかった。

その為、アランほどの天才でもパニックになっていた。

そして、彼の目の前で、輸送船がまた一隻、また一隻と沈められていく。

彼の計画がガタガタと崩れ落ちていく様を目のあたりにしたのだ。

今まで計画通りにしか進まなかった為、こういう予想外の場面に彼はとてつもなく弱かった。

手をこまねいている間にも被害が増えていく。

そしてやっと彼が命令したのは、撤退する事だった。

「に、逃げろっ。逃げるんだっ…」

錯乱してそう叫ぶと、まるで自分の中に閉じこもるかのように椅子に座って身体を縮めてガタガタと震えている。

そして、口から言葉が漏れた。

「聞いてないぞ…。あんなの聞いてないぞ…。うそだっ…あんなのがあると知ってたら…」

その姿は、戦いに出たときとは正に正反対であった。

だが、それを見ても誰も笑えないでいる。

なぜなら、その場にいた誰もが恐怖と不安に心が塗り潰されてしまっていたからだ。

だから、そんな余裕は誰も持っていない。

なんせ、あのピエールでさえも恐怖に駈られ、主人を見捨てて別の場所に転移して逃げ出していたのだから。

そして、さらに不幸が彼らを襲う。

なんとか飛行隊の攻撃から逃れて逃走していた装甲巡洋艦六隻と輸送艦三隻が、ついにフソウ連合海軍連合艦隊第三艦隊に追いつかれてしまったのだ。

飛行隊にいいところを持っていかれた恨みを晴らすかのように、大和改の主砲五十一センチ砲が火を吹く。

そして、その火力の前に、残った共和国艦隊も逃げる事は出来ず、壊滅するしか道は残されていなかった。


こうして、幾つもの首を持つヒュドラの名を付けられた計画の半分は失敗し、その計画を立てた共和国の軍師と彼の率いる共和国海軍二個艦隊はほぼ壊滅した。

それに対して、フソウ連合側の被害は実にわずかなものだけであった。

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