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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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日誌 第百一日目  その1

上がってくる簡単な作戦実施の途中経過報告を聞き、僕は少しほっとしていた。

南方方面艦隊と連合艦隊第一、第二艦隊は、共和国を確実に殲滅しかけていたし、北方方面艦隊もうまく帝国艦隊を翻弄し、足止めに成功している。

だが、うまくいっているとはいえ北方方面艦隊の負担は小さくない。

やはり数の圧倒的な差と、火力の差は大きい。

それを、地の利と練度で何とかしているというのが今の現状だろう。

それに、作戦的には順調でも、何かの拍子に流れは大きく変わることもある。

ほぼ勝利が見えてきた南部の共和国の戦いに比べると、いつ戦局が変わってもおかしくない。

だが、現在、帝国艦隊の後ろに回る為に移動中の第三艦隊が現場に着けば、今のような時間稼ぎの作戦から帝国艦隊に攻勢をかけられる作戦へと移行する事ができるだろう。

それにまもなく、航空隊の攻撃も開始される。

そうすれば、北部の帝国艦隊との戦いもある程度落ち着き、戦局はより覆りにくくなるだろう。

そう思っていたときだった。

秘書官の東郷大尉が血相を変えて長官室に飛び込んできた。

普段なら、必ずインターフォンできちんと一報入れて入ってきた彼女がだ。

そして、入ってきた彼女の顔色は真っ青になっていた。

そんな彼女を初めてみる。

よほどの連絡なのだろう。

報告を聞く前の僕は、その程度の判断しかしていなかった。

しかし、彼女の報告を聞き、僕は彼女の慌て振りの理由を知る。

それは予想外の報告だった。

「た、大変です。西方警戒中の二式大艇の哨戒部隊から緊急電です。『ワレ、シュトホウメン ニ ムカウ テキカンタイ ヲ ハッケンス カズ オヨソ20』以上です」

「……。ちょっと待て…」

思考がうまく回っていない感覚だ。

それと同時に、嘘だろう?そんな馬鹿な…という気持ちが思考を塗りたくっていく。

ブラック企業に勤めていて失敗した時でも、ここまでになった事はない。

だが、それでもパニックにはならなかった。

多分、一人ならパニックになっていただろう。

目の前に、真っ青になって身体を震えさせている東郷大尉がいなければ…。

何をやっている。

しっかりしろ、僕がパニックになってどうする。

自分自身に言い聞かせて、思考を落ち着かせた。

そしてゆっくりと考える。

要は、敵は数に物を言わせて、いくつかに艦隊を分けて侵入したという事か?

いつそんな事ができる…。

潜水艦による監視を行っていたはずだ。

だが、そこで思いつく…。

潜水艦の監視は、遠方から秘密理に行っている為に完全ではない事に…。、

恐らくだが、監視しにくい夜間に無灯火でやられたのだ。

それに、数が多すぎる為に、少しぐらい数が少なくなっても気がつきにくい。

しかし、なぜ艦隊を分けた?

戦力分散は、愚の骨頂でしかない。

しかし、敵もそれはわかっているはずなのにそれを実施した。

戦力が減るという事は、海戦での勝率が落ちるという事。

それはつまり、フソウ連合海軍と戦い勝つ事が勝利条件ではないと言うことだ。

なら、敵の目的は…。

報告を思い出し、はっとする。

敵の目的は、首都を占拠して一気にフソウ連合という国を屈服させるつもりなのだ。

確かに今の陸軍戦力では、あっという間に占拠されてしまうだろう。

つまり、上陸された時点でこっちの負けとなってしまう。

いくら海戦に勝ったとしても、首都を落とされてしまえばこっちの全面敗北となってしまうのだ。

だが、なぜその作戦を思いついた?

そこまでフソウ連合の軍の問題点などの情報は流れていないと思ったが…。

そこであるピースがぴたりとはまる。

そうか…、魔女か…。

魔女の情報から、フソウ連合の軍の歪さを知ったからということなのだろう。

他国を圧倒する海軍力とは反対に、警察機構程度の力しかない陸上戦力。

今、訓練中の陸軍はたいした抵抗も出来ず問題にならないと判断したのだ。

ならば、どうしても海上で決着をつける必要がある。

僕は頭の中で、的場少佐や北方方面艦隊の面子に頭を下げる。

すまん…。

僕の手落ちだ。もう少しだけがんばってくれ。

「東郷大尉、至急、第三艦隊宛に作戦変更の指示を送ってくれ。哨戒部隊からの報告を付けて『首都方面に向かう敵艦隊の殲滅を命ず』だ。」

「はっ。了解しました」

慌てて飛び出そうとする東郷大尉に声をかける。

「待った。それと第三艦隊が間に合わない可能性もあるから、本島の飛行隊も共和国艦隊の攻撃に向わせるように…」

僕の言葉に、東郷大尉が驚愕の表情になる。

「ということは…」

「北方方面艦隊の増援は、第一、第二艦隊が共和国艦隊を潰してからになる…」

「では、北方方面艦隊はかなりの時間を現有の戦力で戦わなければならないと言うことですか…」

「ああ。かなり不利な戦いになるが…首都が落とされてしまったら意味がない…」

「そんな…」

両手で口を覆って絶句する東郷大尉。

だが、そこで僕の言葉は終わらなかった。

嫌な予感しかしないのだ。

敵が数の有利を使って戦うつもりなら…。

「それと、急いで各方面の哨戒部隊に、警戒を厳重にするように連絡してくれ」

僕の言葉に、東郷大尉が身体を震わせている。

僕の言っている意味がわかったのだ。

「それって、まだ別の艦隊が…」

東郷大尉はなんとかといった感じで聞いてくる。

「ああ、可能性がある。さっきから嫌な予感しかしないんだ…」

僕は、本当なら言いたくない言葉を口にする。

なぁに、予感なんて人の思い込みが生み出したものだ。

そう言って笑い飛ばしたかったが、それは出来なかった。

僕は大きく息を吐き出す。

そして声を張り上げ命じる。

「伝達を急げ。一刻を争うぞ」

その声の大きさに、東郷大尉がびくりと大きく身体を震わせて、真っ青な顔ながらもすぐに直立不動になった。

そして、敬礼して、命令を復唱する。

「了解しました。第三艦隊と本島飛行隊には、攻撃目標の変更と作戦指示を…。各方面哨戒部隊は、警戒を再度厳重に実施するように伝えます…。後は…」

「北方方面艦隊には、僕が伝えるよ」

言いづらいだろう事はわかっていたから僕はそう言った。

北方方面艦隊司令の的場少佐は、彼女の親友の彼氏なのだ。

いくら仕事とは言え、今回のような非情な命令を伝えるのは心中穏やかにいられないだろう。

だからそう口にしたのだが、キッときつめの表情で睨みつけられた。

「長官、それは私の仕事です。長官は、今の現状を正確に把握し、より良い結果になるように思考してください」

「でも…」

そう言いかける僕の唇に東郷大尉の右手の人差し指が当てられる。

「駄目です」

短くそう言うと、やっと微笑む。

真っ青な顔での微笑など、本当の微笑ではないとわかってはいたが、それでも僕はその微笑に見入ってしまっていた。

気がつくと、唇に当てられていた指先が離れ、再び敬礼する彼女の姿がある。

「北方方面艦隊にも、作戦変更の件を伝達いたします。では…」

東郷大尉は、はっきりとそう言うと駆け足で長官室を出て行った。

その後姿を見ながら、僕は彼女が言ったように、今の状態を打破する為に思考をめぐらす事に専念する事にしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アクリルの戦況表示版とか領土全体の俯瞰出来るジオラマに戦力配置表示とか司令部要員とか参謀本部員とか居ないのが不思議です? 長官室では無くて連合艦隊作戦本部等で多くのスタッフと戦況をリア…
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