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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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北方方面艦隊の奮戦

「いいかっ、付かず離れずだ。連中に無駄弾を撃たせちまえ」

的場少佐の命令に最上は苦笑する。

「それが難しいんですけどね…」

そう呟くも後方の第四、第五砲塔を時折撃ちつつ、普段からは想像できないほどノロノロと進む。

もちろん、後ろから帝国艦隊が喰いついてきているのを確認しつつだ。

テルピッツ単艦なら三十ノットを誇るものの、他の艦船の最高速度は、二十ノット前後だ。

単艦で突出するわけにもいかないため、艦隊全体の速度としてはせいぜい出せて十五ノット程度だろう。

だからこそ、距離が離れすぎないように低速で動いているのだ。

そして、敵はこっちがわざとノロノロ後退しているとは思っていないようだった。

まさに思う壺である。

「さて…そろそろだが…」

的場少佐が艦橋の窓から見える島の位置と海図を確認する。

帝国艦隊は間違いなく的場少佐の用意した舞台に引きずり込まれつつあった。


「えーいっ、ちょこまかとっ…」

アデリナはイライラして艦橋で叫ぶ。

艦隊を編成し、敵を追い詰める為に追尾を開始してから二時間近くたつ。

その間も、なかなか距離は縮まらず、さらにこちらの砲撃は当たらない。

それに比べて、敵の砲撃で帝国は装甲巡洋艦二隻に被害が出ている。

航行に支障が出るような酷い被害ではないものの、チマチマ攻撃されては逃げられを繰り返されて、まるでからかわれている気分を味わって、アデリナだけでなく帝国艦隊の誰もがイライラしていた。

そんな中、ノンナだけが無表情のまま、黙って敵艦隊の動きを見ている。

そして、すっとアデリナに進言する。

「お嬢様、罠の可能性があります。少し距離を開いて落ち着かれてはいかがでしょうか…」

その言葉に、思うところがあったのだろう。

はっとしたような表情になった後、アデリナは頷くと口を開く。

「そうね。少し熱くなり過ぎたわ。まだ戦いは始まったばかりだからね」

そう言って目を閉じると落ち着かせるように自分の胸に手を当てて深呼吸を数回をした。

そして速度を落とすように命令しようとした時だった。

監視員から報告が入る。

右横の島影からフソウ海軍の艦艇が出現したのだ。

戦艦クラス一隻、装甲巡洋艦三隻の計四隻だ。

その艦艇たちは、帝国艦隊に腹を見せるように並行して移動しており、帝国艦隊に速度をあわせて砲撃を開始した。

小口径の砲の為、致命傷にはならないが、命中し、被害が出ている艦もあるようだった。

「待ち伏せね。でもそんな少数で私たちを倒せるとでも思っているのかしら。すぐに艦隊右翼の部隊に対処させなさい。あれだけの数ならすぐに沈められるでしょう。我々は、前方の艦隊を追うわよ」

冷えかけていた熱気が再び燃え上がってしまい、追撃を命ずるアデリナ。

そしてその命令に従って艦隊の右翼が砲撃しつつ動き出す。

その数は、重戦艦二隻、戦艦六隻、装甲巡洋艦十隻の十八隻。

四隻相手には十分すぎる数だ。

現に敵の艦艇は、たいした被害も受けていないのに離脱を始めている。

その数に恐れたのだと誰もが思ってしまった。

しかし、それは間違いであったとすぐに知る事になる。

なぜなら、敵艦隊に対処する為、動き出していた右翼艦隊が次々と爆発し、轟沈していったからだ。

「な、なにっ…。今の…」

唖然として沈み逝く味方の艦艇に視線が釘付けとなるアデリナ。

今まで見た事がない現象だ。

致命的な砲撃が当たったわけでもないのに…。

まさか、機雷か?

しかし、観測員からそんな報告は来ていない…。

原因がわからず、混乱するアデリナ。

そんなアデリナに囁くようにノンナが言う。

「恐らくは…魚雷でしょう…」

「ぎ、魚雷?嘘でしよう?航跡なんて出てなかったわよ」

そういうアデリナにノンナが報告する。

「北方艦隊壊滅の戦いにおいて、北方艦隊の生き残りの報告で、航跡の出ない魚雷によって攻撃を受けたというものが上がっておりました。多分、それと同じものなのでしょう…」

「でも、あれは、監視員が航跡を発見できなかっただけではないかって結論がでてたじゃない…」

「ですが、今の現象は、そうとしか思えません。それとも、お嬢様にはそれ以外の原因がわかりますか?」

そう言われ、アデリナが噛み付くように反論する。

「帝国だって完成させていないのよ。それを東洋の小国が…」

「ですが…それ以外に説明できません。それに…我々はまだこのテルピッツの事だって完全にわかっていないのですよ。それを考えれば、帝国以外にもこのテルピッツに匹敵するものが存在してもおかしくないのではありませんか?」

その正論に反論できず、アデリナは黙り込むしかない。

確かにそう考えれば辻褄があうのだ。

しかし、プライドがそれを許しそうにはなかった。

帝国の技術は世界一なのだという思い込みが、強かった為に…。

だが、そんな事を考える間も時間は進む。

「司令、よろしければ指示を…」

テルピッツ艦長が恐る恐るだがそう声をかける。

それでやっと我に返ったのだろう。

今本当にやらなければならない事をアデリナは実施した。

「全艦、速度を落とせ。崩れた艦隊編成を整えよ。また一部の艦を漂流する兵たちの救助に回して。後、被害報告をっ」

「はっ、了解しました」

テルピッツ艦長が敬礼し、命令を各艦に伝える。

「ノンナ、ここらあたりの海図を…」

ノンナが海図をアデリナに素早く渡す。

アデリナはそれを受け取った後、ざっと見てため息と一緒に呟く…。

「不味いわね…」

そして、今、帝国艦隊がいる場所である地点をトントンと指で叩く。

その場所は、多数の島々に囲まれた場所であり、まさに待ち伏せに最適な場所である。

敵にはこっちの動きはまる見えで、こっちは敵の動きがわかりにくい…。

アデリナは、自分の迂闊さに苦虫を潰したような顔になっていた。


島影から待ち伏せしていたのは、野辺大尉が乗艦する軽巡洋艦木曽と第一駆逐隊の駆逐艦白露、時雨、村雨の三隻だった。

「よしっ、各艦砲雷撃戦開始だ!!」

野辺大尉の号令と同時に、各艦が命令に従い行動する。

メインは、砲撃ではなく、四隻の二十八発の酸素魚雷だ。

今までの海戦で、駆逐艦の主砲では敵の戦艦や重戦艦相手では致命傷になりにくいため、日本海軍が得意とする雷撃をメインとした戦法に変更したのだ。

もちろん同時に砲撃も行っており、敵から見たら航跡が見えにくい為、ただ砲撃だけをしているように見えるだろう。

「よしっ。敵艦隊から高速離脱するぞ」

一気に速度を上げて敵艦隊から離れる。

俗に言う一撃離脱である。

戦果を確認したいという心境に駈られるが、それは命令されていないし、作戦行動に反する。

ましてや、敵との絶対的な数が違いすぎるのだ。

危険を曝す事は避けなければならない。

「いいか。戦いはまた序盤だ。無理するな。それと移動しつつ次発装填を始めろ。回り込んで、もう一射して上野の艦隊と交代して補給をするぞ」

「了解しました。各艦に伝達急げ」

木曽が野辺大尉の命令を実施する為に各部に連絡する。

その様子を見つつ、野辺大尉は続けて命じた。

「それと敵の動きを監視中の水偵に問い合わせるのを忘れるな。敵の動き次第では、すぐに取って返すからな…」

「了解です」

そう返事をした通信士が報告を読み上げる。

「水偵から戦果報告きました。細かな艦種はわからないそうですが、沈没四、破損六は確実だそうです」

その報告に、一気に艦橋内が盛り上がる。

一気に士気は倍増と言っていいだろう。

「よしっ、幸先いいぞ。しかし、油断するなよ」

「「「おう」」」

そう命令しつつも、野辺大尉は今ここで戦える事の喜びに打ち震えていた。

そして思う。

もしかしたら、俺ってこっちに配属されてラッキーだったのかもしれないと…。

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