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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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帝国の逆襲  その2

十二月二十四日…。

早朝五時…。

結界の外に集まった共和国艦隊がゆっくりと結界内に侵入していく。

前衛二層は装甲巡洋艦を中心した構成の艦隊、次に一層ずつ戦艦、重戦艦を中心にした構成の艦隊、そして支援艦の艦隊が二層、最後に装甲巡洋艦の艦隊が一層。

それぞれがくの字型に横に並び、実に六枚層に分かれての侵攻である。

第一層の艦隊が嵐の結界に入り、朝方ということもあって視野が一気に狭くなる。

嵐が周りを満たし、侵入した艦艇を拒否するかのように海が荒れる。

しかし、それもそんなに続かない。

嵐の層は、何キロと続いているわけではないのだ。

荒波に負けない機関と荒波に耐えられる艦体を持つ艦艇に関しては結界としての効果はない。

突入した艦艇は、荒波に揺られながらも味方同士ぶつからないように周りを注意して隊形を保ちつつ前進していく。

船員は、誰一人パニックになる事はなく、ただ確実に自分に仕事をこなしていく。

彼らは激しい訓練を繰り返してきた猛者たちばかりだ。

その動きには無駄がない。

まさに共和国軍の精鋭艦隊という触れ込みは伊達ではないのだ。

そして、視界が一気に開ける。

さっきまでの嵐と荒波がなんだったのだというぐらい、あっけなく普通の海になっていた。

「よしっ。前進だ。後方から来る味方艦艇に気をつけろ」

第一層の艦隊が無事嵐の結界を抜けた後艦隊の隊列を編成し、そろそろ第二層の艦隊が結界から出ようとしたときだった。

ひゅるるるるるっ…。

風切り音が響き、艦の周りに水柱が立つ。

「な、何だっ…。何があったかっ…」

慌てて第一層の指揮を任せされていた司令官が状況把握を命じる。

しかし、その指示はもう遅かった。

続けざまに響く風切り音。

兵が返事をする前に、第一層艦隊の旗艦の艦橋は吹っ飛ばされていた。

そして、砲弾はそのまま一気に艦を突き抜け、艦艇を真っ二つにする。

まさに轟沈と言っていいだろう。

旗艦を失い、状況も把握できず混乱する第一層艦隊の後方から第二層の艦隊が結界外に出てくる。

しかし、彼らが目にしたのは、混乱し、壊滅的なダメージを受けている味方の姿だった。

そして、彼らも何かを命じ対策する暇もなく、風切り音が響く度にフソウ連合海軍連合艦隊の砲撃の餌食となっていく。

嵐の結界というベールによりそれぞれの艦隊が連絡がうまく出来ない事に加え、後ろから艦隊が来ているために後退する事もできず、また命令変更もないため結局前進するしかない。

その結果、現状を伝える報告がアランのところに届いた頃にはすでに第三層の艦隊までもが餌食になっていた。

「このままでは、全滅です。作戦変更を…」

その報告に、アランは鼻で笑う。

味方が大損害を受けているというのにである。

「しかし、探査能力に秀でているとは聞いていたけど、まさか結界出てすぐに袋叩きにあうとはなぁ…。連中は、どんな手を使っているんだ?」

「軍師っ。暢気な事を言っている場合ではありません。すぐに命令変更を…」

食いかかるように言う部下に、アランは落ち着くようにゼスチャーをする。

「なに、こっちに戦力を集中させるという事と結界間際の攻撃は予想外だったけど、逆に言えば帝国艦隊が抵抗もなく侵攻できたという事だし、それに…作戦は問題なくうまく言っているよ」

「つまり…主力艦隊を囮に使ったという事ですか?」

「ああ、大軍ほど囮として機能するものはないからね」

笑いつつそういうアランに部下は黙り込む。

「それに我々の目的は、フソウ連合海軍の殲滅ではないんだ…」

そして、実に楽しそうに言葉を続ける。

「我々の目的は、フソウ連合首都の攻略だ。その目的には大艦隊はいらない。必要なのは、護衛の装甲巡洋艦と多数の兵士を乗せた揚陸艦だけだからね」

まるで演奏者のように両手を広げ高々と笑う。

アランの乗る旗艦装甲巡洋艦アルトルーベの艦橋の窓の外に広がるのは、穏やかな海と六隻の装甲巡洋艦に守られた十三隻の揚陸艦と七隻の補給艦。

そして揚陸艦と補給艦に搭乗しているのは、総戦力六千八百人の兵士。

今、本命の共和国首都攻略艦隊は、大きく迂回して結界を抜け、フソウ連合のシュウホン地区最大の都市であり、無防備なフソウ連合の首都でもあるシュウホンへとその刃を向けつつあった。


そして、共和国の艦隊が結界を突破した頃、北でも帝国艦隊がゆっくりと結界から出ようとしていた。

「やっと来ましたね…」

そのノンナの言葉に、アデリナは楽しそうに返事をした。

「ええ、来たわ。ふふふふっ。さぁ、倍返しするわよ。楽しいショーの始まり~っ」

その様子に、ノンナは黙ったまま頷く。

今から始まるのは、アデリナのもっとも楽しい時間なのだ。

変な邪魔はしたくない。

そんな気遣いだったのだろう。

しかし、そんな気遣いに水を差すものがいた。

結界を抜け、視界が一気に広がった瞬間だった。

ひゅーーーんっ。

風切り音が響き、テルピッツのすぐ傍に水柱が立って艦が揺れる。

「何っ」

司令官席に座っていたアデリナが前のめりになる。

「ほ、砲撃ですっ…」

慌てて報告する監視員。

まだ暗いためにはっきりとは見えないものの、前方の海域に大型な艦影と小型の艦影が見える。

「ふふふふっ…。さっそくお出迎えとは…。いいわ、お相手してあげなさい。各艦砲撃用意」

「しかし、まだ、艦隊すべてが結界を抜けたわけでは…」

ノンナの言葉に、アデリナは渋い顔をする。

「そうだったわね。なかなかいいタイミングを狙ってくるじゃない…」

艦艇の周りにいくつも水柱が立つ。

「テルピッツは砲撃応戦。その間に、他の艦艇は隊形を組みなおす事に専念しなさい」

アデリナの命令に、後から侵入してくる艦艇を守るように先に出ていた艦艇がテルピッツを中心に隊列を組みなおす為に動き出す。

そして、テルピッツの第一、第二主砲が、敵に向って砲身を向けた。

「第一、第二主砲、準備完了」

「射撃開始っ」

まるで大爆発が起こったような轟音が響き、テルピッツの主砲三十八センチ砲が火を吹く。

「当てちゃっても構わないからね」

ケラケラと笑いつつアデリナは楽しそうに言う。

「そこは…絶対に当てろとい言うべきでは?」

ノンナが少し呆れ返った様な顔で言うと、アデリナは「そうとも言うわね」と言ってますます笑ったのだった。



艦の周りに特大の水柱が立つ。

「さすがは、三十八センチ砲です。当たれば、たまったものではないですね」

揺れる艦橋にて最上がまるで他人事のように言う。

「おいおい。それでいいのかよ」

的場少佐の突っ込みに、ニタリと最上は笑った。

「ふふふっ。当たらなければ意味はないのですよ」

「まぁたしかにそうだけどな…」

なんか納得できない表情の的場少佐だが、それには突っ込まずに少しでも些細な動きも見過ごさないように敵の動きを見ている。

「なかなか統率の取れた艦隊のようだな…」

「ええ。パニックの一つも起して欲しいんだけどなぁ…」

最上の言葉に、的場少佐は頷きつつもニヤリと笑う。

「なかなか手ごわい相手のようだぞ。どうやら、俺かお前のどちらかがかなり運が悪いようだ…」

そう言った後、少し間を空けて、「いや。運がいいのかもな…」と言いなおす。

要は、手柄を立てるチャンスに恵まれているという事らしい。

その的場少佐の言葉に、最上は苦笑する。

「私は、楽なほうがいいんですけどね…。それにこの場合は、片方というより両方と言ったほうがいいかもしれませんよ」

そう返事をしつつも、最上も敵艦隊の動きを観察している。

もちろん、その間にもお互いに打ち合ってはいるが、距離が離れている事とまだ朝方で薄暗闇ということもあって決定的な命中はない。

しかし、周りに水柱がいくつも立ち、艦が揺れるというのはあまり心臓にいい光景ではない。

だが、今からの事を考えれば、十二分に挑発しておく必要がある。

「そうだな。そういうことにしておくか…」

そう返事を返し、敵艦艇が領海内に入って艦隊編成をある程度整えだすと的場少佐は命令を下す。

「艦隊、砲撃中止。さて…敵を誘うぞ」

「了解しました。ふふふっ。お客さん、いらっしゃい…」

最上はそう言って笑う。

そしてその様子を、的場少佐は頼もしげに見ていた。

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