日誌 第九十二日目 その2
十二月十五日、午後三時…。
大会議室に集められたのは、飛行隊や艦隊指揮をする軍人たちと艦の付喪神達だ。
彼らは全員テーブルに着き、作戦説明と部隊編成を今か今かと待ちわびている。
僕は全員を顔を見渡す。
そこには、やる気に満ちたすがすがしい顔をしているものばかりだった。
みんないい顔をしているな。
これなら何とかなりそうだ。
僕は少しほっとしてふーと息を吐き出した。
僕の隣に控えていた東郷大尉が、すーっと立ち上がり宣言する。
「只今より、部隊編成を発表する」
そして、会場は水を打ったようにシーンとなった。
全員が息を潜めて、聞き逃すまいとしている。
東郷大尉かゆっくりと響き渡る声で発表していく。
内容は、以下の通りだ。
●連合艦隊 艦隊総司令官 山本平八中将
第一艦隊
第一戦隊 戦艦 金剛 比叡
第五戦隊 重巡洋艦 高雄 摩耶
第六駆逐隊 駆逐艦 電 天霧 狭霧
第二艦隊
第二戦隊 戦艦 榛名 霧島
第六戦隊 重巡洋艦 妙高 羽黒
第七駆逐隊 駆逐艦 早波 秋霜 秋雲
第三艦隊
第三戦隊 戦艦 大和改
第七戦隊 重巡洋艦 古鷹 青葉
第八戦隊 重巡洋艦 鈴谷
第九駆逐隊 駆逐艦 睦月 如月 長月
支援艦隊
第三警戒隊 水上機母艦 瑞穂
第四警戒隊 水上機母艦 秋津洲
第五警戒隊 水上機母艦 千早
第一補給隊 給油艦 速吸
第二補給隊 給油艦 能登呂
第一支援隊 病院船 氷川丸
第八補給隊 特設給油艦 國洋丸 厳島丸
第三護衛隊 海防艦 御蔵 三宅
第四護衛隊 海防艦 鵜来 沖縄
第五護衛隊 海防艦 奄美 粟国
第六護衛隊 水雷艇 鴻 鵯
第七護衛隊 水雷艇 隼 鵲
第八護衛隊 海防艦 丙型1号 丁型2号
第九護衛隊 海防艦 丙型3号 丁型4号
第十二護衛隊 海防艦 淡路 能美
●北方方面艦隊 艦隊司令 的場良治少佐
第四水雷隊 軽巡洋艦 最上
第一水雷隊 軽巡洋艦 大井 木曽
第一駆逐隊 駆逐艦 白露 時雨 村雨
第二駆逐隊 駆逐艦 夕立 春雨 五月雨
●南方方面艦隊 艦隊指令 南雲石雄少佐
第二水雷隊 軽巡洋艦 北上 龍田
第四駆逐隊 駆逐艦 吹雪 綾波 暁
第五駆逐隊 駆逐艦 不知火 雪風 天津風
これに、飛行隊として本部空港に配備されている部隊と、北部基地空港に配備されている部隊が参加する。
●本部基地飛行隊 総計102機
第101飛行隊 零戦二一型 12機
第102飛行隊 零戦二一型 12機
第101攻撃隊 九九式艦爆 12機
第102攻撃隊 九九式艦爆 12機
第101雷撃隊 九七式艦攻 12機
第102雷撃隊 九七式艦攻 12機
第101爆撃隊 連山 6機
第102爆撃隊 連山 6機
第201爆撃隊 一式陸攻 6機
第202爆撃隊 一式陸攻 6機
第203爆撃隊 一式陸攻 6機
●北部基地飛行隊 総数84機
第103飛行隊 零戦五二型 12機
第104飛行隊 零戦五二型 12機
第103攻撃隊 九九式艦爆 12機
第104攻撃隊 九九式艦爆 12機
第105攻撃隊 九九式艦爆 12機
第104雷撃隊 天山艦攻 12機
第105雷撃隊 天山艦攻 12機
参戦参加艦艇及び飛行隊の発表のあと、会場は沈黙が支配していた。
その様子を全員が自分の役割を把握しようとしているように僕は感じた。
そして、東郷大尉のあとに僕は立ち上がり、作戦を説明する。
「敵は、北から帝国艦隊、南から共和国艦隊の攻撃が行われると推測される。連中の事だ。多分、侵攻してくるのは時間を合わせてやると思う。こっちをパニックにしたいと思っているだろうからな。だから、こっちは出鼻を挫く」
そう言って、黒板に広げられているフソウ連合の全地図を指揮棒で指しながら説明を始める。
まずは、南の海域を指す。
「まずは、戦力的に劣る共和国から叩き潰す。結界を抜けて領海内に入り次第、、連合艦隊、第一、第二艦隊で待ち伏せして射程距離外からたっぷりと砲弾をご馳走してやれ。その砲撃を突破してくる連中は、駆逐隊で始末する。そして、その間に南方方面艦隊は、大きく戦場を迂回し、領海外に出て、共和国海軍の後ろから砲雷撃戦を開始する」
「挟み撃ちですな…」
僕の説明に、新しく部隊に配備された戦艦金剛の付喪神が呟くように言う。
「その通りだ。そして、敵が戦意を喪失し、撤退が始まったら、連合艦隊は、簡単な補給をして、北部の帝国に向い、後の掃討戦や捕虜などの回収は、南方方面艦隊に任せる」
「はっ。了解しました」
南方方面艦隊指令の南雲少佐が立ち上がり、敬礼する。
「うん。任せたよ」
そう言って僕は頷く。
そう、この時点での負けは予想していない。
多分、戦力的に見て間違いなく勝てるだろうからだ。
しかし、問題はこの後である。
「南部戦線で共和国を潰している間、北方方面艦隊と航空隊は帝国艦隊の足止めをやってほしい。被害が出るとは思うが、踏ん張って欲しい」
「もちろんです。お任せください」
そう言ったのは、北方方面艦隊司令の的場少佐だった。
「頼むぞ。何回か確認を取ってみたが、帝国側は電探を活用していない。だから、作戦としては、北部は島が多いので、それをうまく使った攻撃でなるべく被害を少なくするといった戦法を実行して欲しい。また、必要なら、敵の侵攻を限定させる為の機雷敷設も許可する。敷設艦も貸し出そう。また、飛行隊は、なるべく相手の足を止めるように機関を狙う攻撃をして時間を稼ぐように。敵を懐深くに誘い込み、徹底的に叩くぞ。また、第三艦隊は、共和国の戦いには参加せず、帝国の戦いにすぐに向ってほしい。理由はわかっているな?」
僕の問いに、大和改の付喪神がニタリと笑って言う。
「いくら速度が速いとは言っても、高速戦艦と一緒では足手まといですからな。それに、帝国のテルピッツとの戦いで我が力を活用なさりたいのでしょう?」
「その通りだ。第一第二艦隊が間に合いそうにないときは、第三艦隊単独で戦う事になるぞ」
「望むところですよ。ふっふっふ…やっと出番だな…。腕が鳴るぜ」
大和改はぐっとガッツポーズをとる。
大和改なら、テルピッツ相手でも不利になることはないだろう。
「では、連合艦隊第三艦隊は、北方方面艦隊司令の指示に従って動いてくれ」
「了解しました、長官。失望はさせませんぜ」
大和改の言葉に、僕は頷き微笑んだ。
「後は、連合艦隊で帝国艦隊を殲滅だ。絶対にテルピッツと第三の戦艦は逃すなよ。間違いなく沈めるんだ」
こうして、大まかな作戦説明が終わる。
最後に激励の言葉を贈り、そして作戦会議は終了した。
もっとも、この後は、現場単位での作戦会議があるのだが、それは作戦を遂行する者同士で行って、僕は参加しない。
ほとんど全員が退出した大会議室に僕は残り、ざっと部屋の中を見渡す。
もうそこにはさっきまであった活気と熱意はもうない。
ふう…。
肩から力を抜き、口から溜息が漏れ、僕は椅子に座り込んだ。
作戦としてはうまく行くように思うが、所詮は机上の空論だ。
実際にやるのとは大きく違い、些細な行き違いやミスが大きな失敗に繋がってしまう。
それが怖かった。
それに、いやな事ばかり考えてしまう。
顔には出さないようにしていたが、いつもいつも不安が鎌首をもたげてくる。
そんな僕の前にすーっとコーヒーが差し出された。
視線を向けると東郷大尉が微笑んで僕を見ている。
「お疲れ様でした。大変でしたね」
「いや、大変なのは現場の人たちだよ。僕は考えるだけだからね」
僕はそう言ってコーヒーをすする。
「いえ、私はそうは思いません。長官は、いつも自分よりも周りの人の方が大変だって言われていますけど、そんな事はないと思うんです。どうやったら被害が出ないようにするかいつも考えていらっしゃるじゃないですか。それに責任はいつも自分が取るからって言われてる。そんな長官が大変じゃないって事はないと思うんです。ですから、少しは力を抜いてください。楽にしてください。私に何が出来るかはわかりませんけど愚痴ぐらいは聞きます。だから、無理はしないでください。私、すごく心配です。」
真剣な眼差しに、僕は苦笑した。
そんなに僕は無理をしていただろうか。
多分、僕自身が以前ブラック企業に勤めていたことからそういうのが麻痺してしまっているのだろう。
「東郷大尉がそんなに僕の事を心配してくれてうれしいよ。わかった。今度から愚痴でも聞いてもらおうかな」
僕のその言葉に、東郷大尉は笑って言った。
「はい。その時は、お酒とおつまみも用意しておきますね」
そう言われて、最近、お酒を飲んでいない事を思い出す。
「そうだな。この戦いが無事終わったら、一緒に飲むか?」
「ええ。約束です」
そう言って右手の小指を差し出す。
指きりだ。
この世界も指きりがあるとは知らなかったな。
そんな事を思いつつ、僕は指きり約束をした。
東郷大尉の微笑みに癒されながら…。




