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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第八章 帝国の逆襲

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もたらされた情報

「大鯨経由での本国からの暗号通信であります」

そう言って大使館付武官が紙を渡してくる。

それを斎賀露伴は受け取りながら思う。

なんかこうもいつも一緒だと監視されているような気分だが、彼は護衛と軍事アドバイザー的役割で派遣された将校であるからかなり優秀なのだろう。

実際、まだほんの少しの付き合いだが、責任感もあるいい軍人だと思う。

そんな事を思いつつ、紙に書かれた内容を目に通す。

一通り目を通した後、斎賀露伴はため息を吐き出した。

そして目の前に立っている大使付武官である安部光吉中尉に聞く。

「これをどう取るかね?」

「意味がよくわかりませんが…」

「だから、王国に助けを求めてるという意味で取るか、ただの情報として知らせると取るかという事だよ」

そう言われ、安部中尉は少し考えた後、セキを一回して口を開いた。

「もし自分でしたら、助けを求めるとは取らないでしょうね。今更助けを求めても、もう遅いでしょうし…」

そこで一旦言葉を切り、唇を舌で湿らせて続きを言う。

「それに、あの長官が助けを求めるでしょうか?」

そう言われて、斎賀露伴は苦笑した。

「確かにな…。あの人は、多分よほどの事がない限り助けを求めないだろうな」

そう言った後、思い出したかのように言葉を続けた。

「それどころか、うまくこの情報を使って立ち回ってくださいなんて言いそうだ」

斎賀露伴の言葉に、安部中尉はカラカラと笑う。

「そうですな。長官ならそう言いそうです」

そして、少し顔を覗き込むようにして聞いてきた。

「大使は、祖国が心配ではないのですか?」

「確かに、この情報を見た限りでは心配だが、今の我々に何が出来る?」

そう聞き返されて、安部中尉は苦笑した。

「そうですな。遠い異国では何も出来ませんな」

「そういうことだ。だから…」

そう言ってニタリと斎賀露伴は笑う。

「この情報をうまく使って、王国に恩でも売る事にするか…」

その言葉に、安部中尉は気持ちよく笑った。

多分、彼自身も祖国の事が心配なのだろう。

だが、王国にいる我々が出来る事はたかが知れている。

だからこそ、そのたかが知れている事をしっかりやろうじゃないか。

斎賀露伴は、そう決意すると、すぐに安部中尉に言う。

「じゃあ、早速情報を活用するとするか…」

「了解しました。行き先は、王国海軍軍務省でよろしいでしょうか?」

「ああ、そこで頼む」

「了解しました。すぐに車を手配します」

そう言って敬礼すると安部中尉は退室した。

その様子を見ながら思う。

鍋島長官なら、きっとこの国難を何とかしてくれると…。


二時間後、王国海軍軍務省の奥まった会議室の一室に、斎賀露伴と安部中尉はいた。

同席しているのは、『海賊メイスン』こと海軍軍務大臣サミエル・ジョン・メイソン卿と第203特別編成艦隊、通称『ミッキー艦隊』司令官のミッキー・ハイハーン中佐だ。

緊急情報を持って来たという同盟国大使と大使付武官を二人は会議室に通し、今秘書が紅茶を置いて行ったばかりといったところだ。

「挨拶は省略するが、構わないかな?」

メイソン卿がそう話を切り出すと、斎賀露伴も「ええ。構いません」と言葉を返す。

「なら、本題に入らせてもらおう。緊急情報とは何かね?」

メイソン卿は、ずいっと顔を近づけて聞いてくる。

それは彼が興味があると言う態度である事を付き合いで知っている斎賀露伴は、咳払いをすると暗号通信で受けた情報を伝えた。

「あるスジからの情報ですが、帝国と共和国が艦隊を動かしたようです」

「ああ、帝国の方は我々も聞いている。小数の艦隊がいくつか動いたとは聞いているが…それか?」

少しがっかりしたような表情になってメイソン卿が言う。

その顔には、そんな事を言いにきたのかというがっかり感が見え隠れしている。

だが、そんな顔は、この情報を聞いたら、一気に変わるだろうな。

そんな事を思いつつ、斎賀露伴は頷きつつ言葉を続けた。

「ええ。その少数のいくつかの艦隊の事です。さすが、王国ですね。もう知っておられましたか…」

そこで、斎賀露伴は一旦言葉を切るとニヤリと笑って言う。

「ですが、それらの艦艇が、無人の島の湾内に集結し、フソウ連合に侵攻を開始したとはご存じないようですな」

興味なさそうな顔だったメイスン卿の顔が、一気に変わる。

それは、隣にいたハイハーン中佐も同じだった。

「そ、それは本当か?」

興奮した顔でそう聞いてきたのは、ハイハーン中佐だった。

そっちの方に視線を向けてはっきりと斎賀露伴は言う。

「ええ。間違いありません。戦艦テルピッツと第三の戦艦の二隻も参加しております。総艦艇数は百隻前後と聞いております」

絶句する二人に、斎賀露伴はさらに追い討ちをかけるように情報を伝える。

「また、共和国領のアルカンス王国の軍港からも共和国海軍の艦艇百隻以上が動いているようですね」

「それも…」

「ええ。間違いない情報です」

その情報を聞き、メイソン卿とハイハーン中佐の二人は考え込んでいる。

そして、念を押すように聞き返す。

「間違いないのかね?」

「ええ。間違いありません。それと、これはおまけですが…」

そう言って、斎賀露伴は笑いつつ言葉を続ける。

「帝国の戦艦ビスマルクは、現在修理中でドックにて動けません。さらに、第四の戦艦も訓練中で、母港を留守にしがちのようですな…」

沈黙がしばし会議室を支配する。

それぞれがそれぞれの思考を回転させているのだろう。

その沈黙は、必要的な沈黙なのだ。

そして、ハイハーン中佐が口を開く。

「フソウ連合は…どうやってその情報を…」

そう言いかけたものの、すぐにメイソン卿の言葉で止められる。

「中佐、それは聞くべきことではない。今、我々が必要なのは、なぜ、その情報を我々に知らせたのだということだ」

そう言われ、斎賀露伴は多分鍋島長官なら言いそうな事を言っておく事にした。

「多分、帝国と共和国の動きを事前に知らせてくれた礼のつもりなのだと思いますよ。鍋島長官なら、多分そんな事を思ってそうですね」

「ああ、確かに…サダ…いや、彼ならそう言いそうだな…」

ハイハーン中佐は、サダミチと言い掛けたのを誤魔化して苦笑しながら言う。

彼をサダミチと呼べるのは、自分とアッシュの特権なのだ。

それをベラベラ他人に言うつもりはない。

ハイハーン中佐の言葉にうなずきつつ、斎賀露伴は言葉を続ける。

「それに彼でしたら、こんなチャンスを逃さないでしょうね…」

そう言われて、メイソン卿とハイハーン中佐の顔色が変わった。

それで満足したのだろう。

斎賀露伴は出されていた紅茶を一気に飲むと立ち上がった。

「情報は伝えましたので、それをどう活用するかは、王国で決めてください。では、失礼します」

そう言って頭を下げると、安部中尉をつれて会議室を退出した。

しかし、二人は、そんな事に気を取られる余裕はなかった。

今もたらされた情報と今知らされた意味を理解したのだ。

「ハイハーン中佐、君の艦隊はすぐに動けるかね?」

メイソン卿の言葉に、ハイハーン中佐ははっきりと答える。

「もちろんです。お任せください」

その言葉に、メイソン卿は頼もしそうにハイハーン中佐を見る。

「よし、わかった。すぐに作戦会議に入る。付いて来てくれ」

「はっ。了解しました」

二人は同時に立ち上がると会議室を出た。

行き先は、軍務省の一番奥にある作戦室だ。

そして、早足で向いつつ、これから今までにないほど一気に忙しくなるという事を二人は薄々感じていた。

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