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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第七章 帝国の暗躍

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金の姫騎士と銀の副官 その3

アレサンドラ軍港。

そこは帝国が誇る最大級の軍港である。

一時期は王国と双璧とまで言われた艦数を誇った時期もあり、その数多くの艦を維持する為にこの軍港は巨大化し、膨張し続けた。

だが、帝国は衰え、今や帝国の艦数は全盛期の実に半分に満たない。

港にも空きが目立つ。

それは帝国が衰えているといわんばかりのようだ。

しかし、それがどうしたというのだ。

今や帝国は最強の力を持っている。

数は確かに力だ。

しかし、いくら数が大事と言っても個々の力が弱ければ意味がない。

より巨大な力一つにねじ伏せられるのがオチだ。

そして、その結果が前回の王国との戦いだった。

目の前に集まった三隻の戦艦を見て、黄金の姫騎士と呼ばれる女は、それをつくづく感じていた。

戦艦テルピッツ。

四万トンを超えるこの巨艦は、今やっと傷が癒え戦いの場に復帰した。

先の戦いではかなりの砲弾を食らっても深刻なダメージは受けず、敵の重戦艦や戦艦を蹴散らした、まさに力の象徴たる艦だ。

そして、戦艦シャルンホルストとグナイゼナウ。

テルピッツほどではないにしろ、それでも四万トンに近い排水量のこの戦艦も、間違いなく圧倒的な力を持っている。

「ふふふ…」

アデリナの口から笑いが漏れた。

ゾクゾクした刺激が背筋を走り、身体が震えるほどに喜びに満たされている。

これに勝るものはいくつかを除き、ほとんどないだろう。

もっとも、それでも自重している方だ。

ここにあとビスマルクがそろっていたら、多分、この程度では済んでいないだろう。

ともかく、それほどまでに彼女は高揚していた。

そんな上官をノンナは後ろから冷めた目で見ている。

いつもの事だとわかっているのだ。

艦を愛し、艦に愛される。

それが彼女の運命だと…。

そしてノンナはため息を小さく吐き出す。

本当はこういう時に声をかけたくはない。

こういうお楽しみの最中に邪魔されるのが、この上官は一番嫌いなのだ。

また小さなため息を吐き出す。

しかし、これは伝えなければならないことなのだ。

仕方ない事なのだと自分に言い聞かす。

「お嬢様、お楽しみのところを失礼します…」

その瞬間、今まで楽しそうだったアデリナの顔が不機嫌そうなものに変わる。

「ノンナ…。わかってるんでしょうね…」

その声には怒気が含まれており、至高の時間を邪魔された恨みで膨れ上がっている。

「はい。ですが、これはお耳に入れておかないと…」

ノンナは無表情でそう言うものの、すぐにパーンという音が響く。

アデリナがノンナの頬をぶったのだ。

そして、熱を冷ますかのようにふーと息を吐き出すとアデリナはノンナに向って口を開く。

「で、なに?」

「はい。艦艇の修復は完了したのですが、補充兵が間に合っていません」

「何?それってどういうこと?」

アデリナがノンナに突っかかる。

「お嬢様の希望通りのレベルの兵を集めたら、他の艦艇に支障が出ます」

ノンナの言葉に、絶句するアデリナ。

「なによ、それ。そんなに高いレベルもとめてないわよ。なのに…」

「テルピッツのみの補充なら何とかなりますが、新しく配属になった二隻の分の四千名は大半が新兵になります…」

ノンナの言葉に、アデリナは驚きを超え、呆れ返ってしまっていた。

「なによそれは…予備役は?」

「はい。予備役も招集しましたが、足りません。それに大半の予備役は東方艦隊再建の方に回されるそうです」

「それって…つまり…」

アデリナの声が震える。

「はい。三隻同時の運用は現時点では無理です」

「どうにかならないの?」

「帝国自体が疲弊しきっていますし、今回の二隻で資材も予算もかなり消費していますから、どうしても兵教育が軽視されているようです」

ノンナの言葉に、アデリナは目の前の壁を思いっきり蹴り上げた。

ズポンだからいいものの、スカートだったらそれこそ周りの男達は目が離せなくなっていただろう。

「あー、もう、最悪っ、最悪っ、最悪っ。今こそ、生意気なフソウ連合を潰して帝国の地位をゆるぎないものにするチャンスなのにっ」

ドンッ、ドンッ、ドンッ…。

何度も何度も蹴り上げる。

しかし、さすがに疲れたのだろう。

膝に両手を乗せて前かがみになるとはあはあはあと荒い息をして肩を上下させる。

「収まりましたか?」

ノンナがいつもと変わらない感情のない声で聞く。

「収まるわけないじゃないっ。どうするのよ、次の作戦はっ」

噛み付くようにノンナに言い寄るアデリナ。

それをノンナは平然とした態度で受け流す。

「作戦は遂行するしかありません。命令ですから…」

「でもどうするのよ。兵がいなければどうしょうもないじゃないっ」

「そうですね。手がないわけではありません」

ノンナの言葉に、アデリナが驚いた顔で聞き返す。

「何っ、何っ、なんなのっ」

「三隻ではなく、二隻で出撃するという事です」

「つまり、使える兵を三隻に分けるんではなくて、二隻に集中するってことよね」

「そうです。もちろん、完璧とはいえませんが、新兵の比率を下げる事で練度の低下はある程度防げるでしょう。また、もう一隻は、その間に練度を上げるという事になります」

「ふむ。火力が落ちるけど、それしかない……かな…」

悔しそうな顔でそういうアデリナに、ノンナは声をかける。

「なに、勝てばいいのですよ。そうすれば、今度は四隻全艦で王国を潰しにいけますよ」

その言葉に、機嫌が直ったのだろう。

陽気な声でアデリナは聞き返す。

「そうね。勝てばいいんだわ。ふふふっ。ノンナ、艦艇の準備はどれくらいかかりそう?」

「そうですね。補充や軽い訓練などを含めて一週間程度は見てもらった方が…」

ノンナの答えに、満足そうに頷くとアデリナは口を開く。

「編成や細々なところは、ノンナに任せるわ」

「はい。了解いたしました。お任せください」

ノンナはそう返事をして頭を下げる。

それで満足したのだろう。

アデリナは楽しそうに告げる。

「じゃあ、私は事務室でお茶でも飲んでくるから、後からいらっしゃい」

「はい…ありがとうございます」

アデリナはそのまま立ち去る。

一人残ったノンナはすーっと視線を窓に向けた。

その先に浮かぶ三隻の船が目に入る。

その目には哀れなものを見るような悲しみがあった。

「あなたたちにもわかるわよ、あの女の事がそのうちにね…」

それは、まるで同僚に愚痴を言うような感情が混じっていた。

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