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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第七章 帝国の暗躍

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牽制  アカンスト合衆国アーサー・E・アンブレラ特使の場合

ここは、フソウ連合の外交の玄関口として準備されているマシガナ地区のナワオキ島。

そのナワキオ港に停泊しているアカンスト合衆国豪華客船ミッシルフール。

現在、島の方に大使館を建造中の為、その間はこの船が合衆国大使館代わりとなっていた。

もちろん、護衛の装甲巡洋艦三隻もすぐ近くに停泊している。

そんな客船の豪華な奥の一室にその男はいた。

「フソウ連合からの連絡はなんだったんだい?」

アーサー・E・アンブレラ特使は読みかけの本から視線を上げて戻ってきた秘書に声をかけた。

秘書は、内容の書かれた手紙を渡しつつ簡単に説明する。

「はい。出来れば早い時期に海賊対策や救助対策の合同演習を行いたいと…」

その表情には困惑の色が強く出ていた。

その顔をちらりと見て、手紙の中身を確認するとアーサー特使は苦笑して口を開く。

「えらい気が早いね。条約締結してからあまり時間がたっていないというのに…」

その言葉に頷きつつ秘書が言葉を返す。

「はぁ、そうですよね。ただ、向こうとしては、国際的な海運ルールや公海での対応方法などの事をよくわかっていないので、早めに合衆国と共同で演習を行い、勉強させて欲しいと。その代わり船団護衛に適した護衛駆逐艦二隻を引き渡す用意があると言って来ています」

秘書の予想外の言葉に、アーサー特使は再度手紙に目を通すがそれらしい事はかかれていない。

「なに?護衛駆逐艦?手紙には何も書かれていないが…」

「こちらが委譲書です。あと、簡単な艦艇のスペックカタログがはいっております」

慌てて秘書がもう一つの封筒を差し出す。

一緒に出せばいいものを…。

アーサー特使はそう思いつつも黙ってそれを受け取ると、すぐに中身を確認する。

確かに以下の条件を飲んだ場合は、護衛駆逐艦二隻を委譲すると記入されているな。

えっと、こっちはスペック表か…。

「これはこれは…」

自然とアーサー特使の口から呟きが漏れる。

ふむ。わが国の装甲巡洋艦より、はるかに高性能のようだな。

しかし、このサイズが駆逐艦か?

我々の感覚なら、装甲巡洋艦クラスのサイズだぞ。

ならば連中の規格の巡洋艦や戦艦はもっとでかいって事になる。

なるほど、王国に譲渡したとされている戦艦が大きなわけだな。

そして、それからわかる事は唯一つ。

やはり、フソウ連合の造船技術は我々よりはるかに優れているというべきだな。

しかし、そんな技術の一部をこんな簡単に譲渡する意味はなんだ?

確かに言われたような理由もあるだろう。

しかしだ。

条件が良すぎる上に、性急過ぎないか?

もう少し落ち着いてからだもいいと思うのだが…。

そこまで考えて、アーサー特使の頭の中に浮かぶものがあった。

「ふふふ…。そういうことか…。なるほどね。フソウ連合海軍の中にもなかなか腹黒いやつがいるじゃないか」

そう言ってアーサー特使はニヤリと笑う。

意味がわからず、秘書が聞き返す。

「どういう事でしょうか?」

その質問に、読んでいた本に書類を挟めて閉じ、そのままソファの上に放り投げて姿勢を正すとアーサー特使は秘書の方を見た。

「今回の件を急がせる理由は、フソウ連合としては共和国や帝国に牽制をかけるために合衆国を使ってやろうって魂胆だろうな」

「魂胆ですか?」

ますますわけがわからないといった顔の秘書に、アーサー特使は説明を始めた。

「ああ、わが国と条約を結んだ事は他国も知っているがどの程度までかは発表されていない。だから、それを利用して、他国に…、この場合は共和国だろうが、大きく勘違いさせる腹なのさ」

「勘違いですか?」

「ああ。軍事関係まで含めた条約を結んだんじゃないかと思わせたいらしいな」

アーサー特使の説明に、納得いかなかったのだろう。

秘書が否定する。

「ですが、この条約は通商条約です。軍事までは…」

その言葉に、アーサー特使は意地悪そうな顔になる。

「それがわかっているのは、当事国の偉い人たちや当事者のみだ。他国の者は知らないからな。だから、勘違いしてしまう恐れがある。いや、この場合は、勘違いさせるのを狙っているな。それでなくても、判断に勇気が必要になるな。下手したら、合衆国まで参戦してくる恐れがあるってことだからな」

「ですが、我々が内容を発表してしまえば…」

しかし、それでも納得いかなかったのだろう。

秘書がさらに言うものの、アーサー特使はニタニタ笑ったままだ。

「確かに発表する事も手だが、果たして発表を信じると思うかな?」

その問いに、秘書は初めて納得できたという顔になった。

「あ…確かに…。実際には裏があって…とか深読みしそう…」

「それを狙ってるんだろうな。なかなかしたたかだな」

「それでは、断るので?」

秘書がにやりと笑って聞き返す。

多分、秘書はアーサー特使が断る事はしないとわかっているのだろう。

まぁ、長い付き合いだしな。

だから期待に答えてやる。

「よせやい。きちんと条約で結んであるんだ。無下にはできまい?それに護衛駆逐艦二隻は美味しいからな。騙された振りをするさ」

そう答えて、両手を軽く上げてどうしょうもないなという感じでジェスチャーする。

そして、苦笑して言葉を続けた。

「もっとも、この発案者は、合衆国が騙された振りをするって言うところまで計算してるだろうがね…」

その言葉に「まさか…」という秘書だったが、アーサー特使の顔を見て黙り込む。

その顔から、彼が本気であるとわかったからだ。

そして、彼が本気で考えていたことは大抵当たる事も…。

ふう…。

秘書はため息を吐き出す。

せっかく共和国赴任が終わったというのに、また気が休まらない日々を過ごすかもしれないと思って…。

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