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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第七章 帝国の暗躍

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日誌 第八十八日目 その2

「もう一つの手を打つとは?」

山本中将が楽しそうな表情で聞いてくる。

なんか試されている気分だが、悪い気はしない。

多分、会議に参加している人たちも聞きたいのだろう。

全員がこっちに興味津々な視線を向けていた。

「まぁ、直接共和国に対して効果があるかどうかはわからないんだけどね…」

そう前置きをして、言葉を続ける。

「海賊対策や救助対策としての連携などを考えて合衆国との演習を行おうと思うんだ」

それだけで、山本中将はピンときたんだろう。

ニヤリと笑う。

「なるほど、なるほど…。演習場所は、そうですな…フソウ連合の南の公海でということですかな?」

「ああ。そうだよ。さすがだね」

この会話で新見准将などわかった者はいたが、まだ何人か怪訝そうな表情の者がいるようだ。

ふと、強い視線を感じて視線の先を見るとすごく悔しそうな顔をしている東郷大尉の顔を見てしまった。

多分、今の会話でもわからないのがすごく悔しいらしい。

でも、東郷大尉は参謀でも艦隊指令でもないんだからさ、わからなくてもいいと思うんだけどね。

あ、今度は拗ねだしたぞ。

東郷大尉…そんな顔しなくても説明するからさ。

僕は苦笑しつつ、周りを見渡して説明を始めた。

「基本、条約は結んだ事を海外に示すが、内容まではあまり細々と公表しないのが常だ。今回はそこを逆手に取る。合衆国との条約はあくまでも通商条約であり、軍事同盟のような強いものではないし、軍事での協力は基本的にはないといっていいだろう。ただし、海賊や救難に関しては別だ。条約内でも互いに援助し合い協力して対策していくとなっている。だから、それを名目にして合衆国海軍と演習をする。もちろん、共和国や他国の目が届く範囲内でね…。それを見て共和国や他国はどう思うかな?」

「あ、つまり、軍事同盟に近い条約内容じゃないかと共和国や他国に思い込ませて牽制するってことですね?」

東郷大尉が納得した表情で頷きつつ言う。

「そう。その通り。多分、そんな事はブラフだと少し考えればわかると思うだろうが、細かな条約内容を知っているわけではないので、もしかしたらという疑惑が残る事になる。そうすれば少しは連中の動きの牽制になればいいかなと思ってね。それに合衆国海軍と連携をとる事は、他国の海軍の現状や国際ルールの確認に役に立つと思うんだよ」

「まさに一石二鳥ですな」

新見准将が笑いつつそう言った後、言葉を続ける。

「で?何の餌を使って合衆国海軍を今回の演習に引きずり込むんですか?」

「引きずり込むだなんて、なんか言い方に悪意を感じるな…」

僕がそういって返事を返すと、新見准将も笑いつつ口を開く。

「いやいや。悪意ではなくて褒めているんですがね」

その言葉に、その場にいた者たちも笑ったり苦笑したりしている。

まぁ、できる限り被害を少なくして勝つ為にはできる限りの事はしたい。

その為には、正当な方法じゃなくても使えるものはどんどん使うつもりだからね。

それを考えればその言葉は正しいのかもしれない。

まさに、関係ない合衆国を引きずり込むわけだから…。

「では、褒められていると思っておこうかな…。さて、合衆国海軍を釣る為の餌だが、艦船を二隻提供する予定だ」

「艦船を提供ですか?」

山本中将が怪訝そうな表情で聞いてきた。

やはり艦隊運営するものとしては、同じレベルの戦力を持つ艦があまりにも海外に出されるのには抵抗があるのだろう。

確かにこっちの有利を切り売りしているようなものだからな。

だから、一応考えている事を伝える。

「ああ、船団護衛を主任務にする護衛駆逐艦ジョン・C・バトラー級を用意する。通商のための護衛艦を欲しているという話もでていたから、船団護衛の艦を売り物で出したいと思っているんだ。そのお試しといったところかな」

僕の説明に、山本中将は納得したのだろう。

実際、大型ドック、中型ドックは、自国と王国注文の艦で使用予定であり、あまり余裕はない。

その分、小型ドックはまだまだ余裕があるため、合衆国では小型艦を中心に売り物にしたいと思っている。

「しかし、二隻とは奮発しましたな」

そう聞いてきたのは、後方支援本部部長の鏡少佐だ。

「一隻でもよかったんだけどね。でも、本気で売り込むつもりだという事を感じさせたかったからという事と、もし運用するとなると一隻では使いにくいだろうからという事を踏まえての二隻とした」

「ああ、確かに。他国の装甲巡洋艦に比べるとスペックが違いすぎますからな」

「それと電探関係は全て外しておく。これは王国に渡したロドニー、ネルソンだけでなくドレッドノート級も徹底させるつもりだ」

「あくまでも切り札は常に我々の手にってことですね」

「ああ、その通りだ。ただ、気になるのは帝国のテルピッツやビスマルクを始めてとする大型戦艦だが、電探をうまく活用しているのかそれを近々確かめておく必要があるな…」

そう言って考え込む僕に東郷大尉が苦笑しつつ声をかけてくる。

「長官、話が逸れていますよ」

「おっと。そうだった。そうだった。ありがとう…。どうも考え込むといかんなぁ…」

そう言って笑って頭をかくと、なぜかそれを見ていた人たちはみんな微笑んだり苦笑していたりしている。

えっと…なんでなんだろう?

まぁいいか。

ともかく話を戻そう。

「そういうことでだ、合衆国との演習には反対の者はいるかな?」

僕の声に、全員が何も言わず首を振る。

どうやら問題ないようだ。

ならば…。

「では、この件に関しては新見准将と南部艦隊指令の南雲少佐を中心として話を進めてくれ。それもなるべく早くだ」

「了解しました」

「それと、広報部」

「はいっ、何でしょうか?」

多分、自分には指名はこないと思っていたのだろう。

慌てて返事をしたためか杵島少佐の声が変な感じなっていた。

周りから苦笑が漏れる。

それが恥ずかしかったのだろう。

真っ赤になりつつ、視線を僕に向けた。

「演習風景を記録映像として残しておいてくれ。それをベースに売り込む為のプロモーション映像を作って合衆国に売り込みをかけるからな。それとは別に国内のニュース用にも編集をして欲しい」

「はいっ。わかりました」

別に注意されるために名指しされたのではないとわかったのだろう。

杵島少佐は、ほっとした表情をしつつも、うれしそうに「任せてください」と自分の胸を叩く。

うんうん。

頼もしい限りだ。

「任せたよ。期待している」

僕はそう言うと、視線を東郷大尉に向けた。

「今回の会議の議題はこれで追わりかな?」

「はい。以上になります」

「では、解散だ。各自よろしく頼むぞ」

僕の声に、全員が立ち上がって敬礼する。

「「「はっ。了解しました」」」

僕もたって返礼をしつつ頷く。

みんな実にいい顔をしている。

実に頼もしい限りだ。

僕は実にいい部下に恵まれたと思う。

さて…、連中はどう出てくるのか…。

僕も気を引き締めていくしかない。

そう自分に言い聞かせていた。

艦船メモ


●ジョン・C・バトラー級護衛駆逐艦

排水量基準: 1,350トン 満載: 1,660トン

全長93.2 m

全幅11.2 m

吃水3.0 m

機関過熱器付水管缶 2缶

蒸気タービン  2基

スクリュープロペラ  2軸

速力24ノット

航続距離6000海里 (12ノット巡航時)

乗員186名 (戦時 200名)

兵装38口径12.7cm単装砲2基

56口径40mm連装機銃2基

70口径20mm単装機銃10基

533mm3連装魚雷発射管  1基


注意)作中では、レーダー関係と対潜水艦用の装備は外しているため記載せず。(実物では、爆雷とレーダーは装備しています)


なお、1/700の模型はPT社から発売中。

二隻入りで、デカールの番号の組み合わせでJ・C・バトラー級83隻を好みで選べます。

出来はさすがPT社という感じでかなりいい。

数をそろえて船団護衛みたいな感じで編成するとなかなかいい感じです。

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