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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第七章 帝国の暗躍

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日誌 第八十八日目 その1

イタオウ地区視察から川見中佐が戻って来た翌日、フソウ連合海軍本部では臨時幕僚会議が行われた。

重要な情報が入ってきた為である。

参加者は、僕と三島晴海地区責任者代理、それに各部門の代表、後は北と南の方面艦隊からの司令官代理となっている。

要は、フソウ連合海軍関係者とマシナガ地区関係者の幹部が参加したということだ。

そして、出された議題もかなり問題のあるものだった。

まず最初に議題になったのは、川見中佐の査察によってはっきりした帝国スパイのイタオウ地区の潜入と工作である。

視察した川見中佐と三島特別中尉の活躍で、地区支部や一部の施設などの除染、関係者の隔離と治療などが行われたが、元凶である魔女はまだ捕まっていない。

報告を聞いて頭が痛くなった。

魔法の厄介さを実感してである。

もちろん、僕自身も、フソウ連合海軍も魔法の恩恵によって成り立っているとは言え、相手にするとこうもやりにくいとは思いもしなかった。

「本当にやっかいね。超一流の魔術師一人で、下手したら国が傾く事さえありえるからね」

三島さんはそう言って昔起こった事をいくつか例に挙げてくれた。

そして、何よりも不味いのは、相手が敵対する者であるという事だろう。

王国を混乱に陥れたと言われるその魔女が、フソウ連合に来て何もしないわけがない。

絶対に何かをするはずだ。

しかし、今の時点では手が打てない。

一緒に報告を聞いていた他の面子も黙っているだけだ。

しかし、それを責める事はできない。

なぜなら、目的がはっきりしない限り対策の取り様がないのだから。

「困りましたな…」

新見准将が腕を組み考え込む。

「ああ。どれだけ情報が漏れたかもだけど、なにより何を狙っているのかがわからないと手の打ちようがない」

僕がそう言うと、川見中佐が悔しそうに言う。

「自分があの時、確保するなり出来ればよかったんですが…」

その言葉に、三島さんが慰めの言葉を書ける。

「あの子から聞いたけど、あの濃い魔力の中、抵抗して傷を負わせただけでもすごいわ。自分を責めないで」

「ありがとうございます」

三島さんの言葉に、川見中佐は頭を下げる。

しかし、あの川見中佐さえ手を焼いた魔女となると放置は出来ない。

打てないなりに対策をしておく必要がある。

「今のところ出来る限りのことだけはしておこう。何か方法としていい意見はあるか?」

僕の言葉に、まずが作戦本部部長の新見准将が口を開く。

「そうですな。まずはイタオウ地区から出る荷物と人のチェックですね。主要航路の方は、まぁ、出口である港でしっかりチェックしていけば問題ないと思います」

「そうだな。出口さえ押さえておけば航路に関しては問題ないだろう。しかし、問題になるのは個人的な船で移動する場合だな」

僕の言葉に、今度は連合艦隊指令の山本中将が答える。

「その件は、洋上でのチェックで対応するしかありませんから、北部基地に哨戒任務の部隊を派遣して、海上と空からの監視網を強化して対応するしかありません」

「それしかないか…。なにかこう、別にいい手はないものか…」

僕の言葉に、皆黙り込む。

他にいい案がない以上、それでいくしかない。

「わかった。それでやっていこう。南の哨戒部隊を減らすわけにはいかないから、本部の哨戒部隊の一部を北部に派遣。そして、新たな哨戒部隊の増設で対応という事でいいかな?」

僕の言葉にその場にいた全員が頷いた。

よし。今製作中のキットが完成したら、買いだめしておいたT社の小型艦艇セットを数セット作っておくか…。

「あと、陸に関しては、諜報部が中心となって動いていこうと思っています。また陸戦部隊と三島代理から、兵士と魔術師を一部お借りして魔女に動きがあればすぐに対応できる状態を構築していく予定です。また、イタオウ地区の主要施設とそこに勤務する者たちののチェックを実施し、なお、魔女に関しては、発見次第射殺します」

諜報部の川見中佐は淡々と話すが、その言葉に僕は言葉を失う。

まさか発見次第射殺するとは…。

固まってしまった僕の変わりに新見准将が聞く。

「それほどまでに危険かね?」

「ええ。かなり危険です。多分、一般の兵ではかえって操られたりして役に立たないでしょう。ですから、発見次第、射殺します」

冷たいまでの言葉に、僕は聞き返そうと口を開きかけだが思いとどまった。

三島さんが異論を唱えず、直接対峙した彼がそう言うのだ。

対峙した事なく、魔法に関して詳しくない僕がとやかく言う権利はない。

僕に出来る事は、川見中佐の判断を信じ、その行動に責任を負うことのみだ。

だから、ぐっとでかかった言葉を飲み込む。

そして、再度口を開く。

「わかった。川見中佐の判断を信じよう。その件に関しては任せる」

「はっ。ありがとうございます」

川見中佐は敬礼し、表情を引き締める。

「では、その三つを柱とし、イタオウ地区の魔女に関してはそれで対応していくという事でよろしいですか?」

新見准将がまとめ、僕は頷く。

「ああ、それでやるしかないな。各自十分注意を怠るな」

その言葉に全員が頷いた。

「続きまして、王国駐在大使からの情報です」

東郷大尉が、報告書を読み上げていく。

ドレッドノート級戦艦を含む十隻の艦船の発注と、共和国と帝国の動きに関する情報だ。

「まずは、艦船発注の件だが…」

「はっ。すでに一番艦ドレッドノートは長官の委託製造から完成し、引渡し可能の状態であります。次に、二番艦以降ですが、大型ドックにて三隻同時着工を開始。完成は、半年後の予定であります。また、補修艦は、明石型工作艦の簡易製造版を、補給艦に関しては特殊潜水母艦日枝丸をベースに中型ドックにて建造予定であります」

今現場で建造の指揮をとっている為、会議に参加できない東堂少佐に代わり、後方支援本部部長の鏡少佐が報告する。

初めての受注で、確かに外の国と取引するには外貨は必要だが、わが国とのパワーバランスを考えてしっかりとやっていく必要がある。

今後、王国以外の国からの受注に関しては、十分に吟味していく必要がありそうだ。

さて、問題は…。

「しかし、共和国艦隊が動きましたか…」

呟くような新見准将の言葉に、僕は頷くしかない。

艦隊を派遣したという事は、友好関係を築こうと動いた合衆国とは違うという事だ。

王国からもたらされた情報どおり、共和国が反王国親帝国なら、我々フソウ連合に対していい感情があるわけがない。

帝国の魔女が暗躍し、帝国の遺恨返しの件も考えられるという事からも帝国、共和国の二国が協力体制なのは間違いないはずだ。

さて…どうすべきだろうか…。

王国は今、戦力の建て直しに手一杯であり、支援は行うとはいってくれているが、あくまでも情報などが中心となるだろう。

ならば、二対一で戦わなければならないとなると…。

どうしても不利だ。

ましてや、帝国の大型戦艦、テルピッツとビスマルク、それに第三、第四の戦艦がある以上、こっちの増強も急がねばならない。

だが、それだけではまだ駄目だ。

もう一つ手を打つ必要がある…。

ならば…。

僕は決心し、考えている事を口にする。

「まず、戦艦の増強を行う。高速戦艦金剛、比叡の配備をここ一週間の間に実施する。乗組員の選抜は新見准将と山本中将の二人に任せる。無理は厳禁だが、できる限り早く実戦で使えるレベルにしてくれ」

「「了解しました」」

「次に、北部空港の開設にあわせ、北部基地航空隊の編成を実施する。予定としては、予備を含め零戦二十八機、彗星二十六機、天山二十八機、彩雲六機を配備する。パイロットは問題ないな?」

「はい。長官の指示を受け、現在、航空母艦約四隻分のパイロットは確保しております」

新見准将のその言葉に僕は笑う。

「ははは。さすがに一気に四百機近くは無理だな…。こっちの工場である程度生産してもらうつもりだけど、少しずつ増加という感じで手一杯だよ」

「こっちもパイロットをここまでそろえるのに苦労しましたから、長官も苦労していただかないと…」

笑いつつそう返すのは、山本中将だ。

以前、パイロットを千人近く確保して欲しいといった事を覚えていたようだ。

ならば、僕もそれに答えるしかない。

「ああ、がんばらせていただくよ」

「では、共和国と帝国に関しては、戦力の増強と、情報の収集。それに動いた時の監視でよろしいでしょうか?」

「ああ。それで行こうと思う。後は…」

「後は?」

山本中将が聞き返してくる。

「もう一つ手を打とうと思っている」

僕はそう言うと、ニヤリと笑って見せた。

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