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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第七章 帝国の暗躍

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魔女 対 諜報員 その2

「さぁ、誓いなさい。私の駒になると…。私のお人形の一つになると…」

あたりを漂う甘い香りが強くなっていく。

ゆっくりと川見中佐の口が開く。

「私、川見悟はあなたに…あなた様に…忠誠を…」

そこまで言った時だった。

無表情だった川見中佐の顔がにやりと笑う。

「誓うわけないだろうがっ」

飛び出すように駆け出すと、一気にアンネローゼの手をひねり押さえつける。

とっさの出来事にアンネローゼはされるがままだった。

「さて、観念しな、魔女」

押さえつけられたその痛みでアンネローゼは我に返った。

「う、嘘っ…。私の魔法が…効かない?」

その問いに、川見中佐はぼんやりなりかける意識をはっきりさせる為だろうか、頭を振りつつ答える。

「いいや。効いたさ。だがな、悪いがあんたは私の好みではないんでね。アンタみたいな男を堕落させそうな性悪女は、お袋一人で十分だ」

そう言いつつも、川見中佐は自分が魔法に打ち勝てたのはそれだけではないこともわかっていた。

本当にさっきまで術中にかかりかけていたのだ。

甘い香りと会話に混ぜた呪文と暗示。

それは間違いなく川見中佐の心も意識も蕩けさせ崩壊させかけていた。

しかしだ。

跪いた時、ちくりと痛みが走った。

それは左手の薬指からだった。

そして、耳元で聞こえたのだ。

三島小百合の声を…。

本当は何も聞こえていないのだろう。

ただの幻聴なのだろう。

しかし、川見中佐の耳には聞こえたのだ。

「しっかりしてください、中佐」という悲鳴のような悲しい声が…。

そのおかげで、蕩けきっていた意識は、まるで惚けた事が嘘のようにはっきりと動き出し、魔法に抵抗する事がで来た。

しかし、それでも完全ではない。

まだ漂う甘ったるい匂いが、思考を惚けさせようとしている。

くそっ…。

女を抑えつつも、何とか意識を保とうと頭を振った。

そんな状態の為だろうか。

普段ならすぐに気が付くはずなのに、気が付くのが一瞬遅れた。

陰から男が飛び出してきたのだ。

川見中佐も銃を構えるが、相手の方が早い。

ぱっと目の前が光に包まれる。

閃光弾だ。

その光に川見中佐は目を庇い、無意識のうちにアンネローゼを抑えていた手が緩まる。

その隙を待っていたのだろう。

アンネローゼが川見中佐の腹に蹴りをいれ、逃げ出す。

とっさに腹をかばい、そして再びアンネローゼを押さえ込もうとした瞬間に今度は男が殴りかかってきた。

「くそっ」

それを左手でガードして、銃をアンネローゼの背中に向けて発射する。

しかし、撃てたのは一発だけだった。

かすったように見えたが、アンネローゼの動きは止まらない。

一気に倉庫の奥に向って走っている。

次を撃とうとしたが男の手が拳銃を奪おうと飛びついてきた為に撃てなかった。

普段なら、この程度のやつなどあっという間に潰してアンネローゼを射殺できるはずなのだが、身体が思ったように動かない。

さっきの魔法の影響だろう。

ええいっ。動けっ、この野郎っ。

思ったように動かない身体を叱咤し、男を蹴り上げて引き離すと躊躇なく銃を撃つ。

今の自分に男を確保できる余裕はない。

ならば、さっさと始末して、あの女を追わなければ…。

男を始末すると川見中佐はふらりと歩き出すものの、身体はゆらゆらと揺れて視界はガクガクと小刻みに消えたり映ったりを繰り返す。

それでも後を追おうと一歩ずつ歩き出すも、川見中佐の意識はがちゃりと電源が切れたかのように真っ暗闇になったのだった。


「うううっ…」

ゆっくりと瞼を開く。

真っ暗だった視界がうっすらと光によって満たされていく。

まぶしいな…。

第一印象はそれだった。

そして、ぼーっとなっていた意識がゆっくりと動き出す。

私は…どうしてしまったんだ?

目に入ってくるのは知らない天井と光が灯されているランプだ。

顔をゆっくりと動かすと、どうやらここは支部前のアジトのようだった。

窓からは夕日だろうか。

赤い色の光が差し込んでいる。

つまりは、少なくとも丸い一日は過ぎているということだろう。

「あ、気が付かれましたか?」

近くにいた諜報部の隊員がこっちに寄ってきて聞いてくる。

確か彼は、ここで見張っていたやつだったな。

そんな事を思い出しつつ、身体を起こそうとする。

ずきり…。

頭の中に痛みが走り、川見中佐は無意識のうちに顔をしかめた。

「無理しないでください。まだ、魔力酔いが残っているという事ですから…」

「魔力酔い?」

「三島特別中尉の話ですと、濃度の高い魔力の中にいるとたまにそうなるそうです。まぁ、二日酔いみたいなものだからしばらく安静にしておけば、大丈夫だそうです」

「そうか…」

そう言いながら少しずつ記憶が戻っていく。

そしてなぜこうなったのかを思い出し、川見中佐は慌てて聞いた。

「おい、あれからどうなった?あの女はっ」

「落ち着いてください。まずあの女ですが、我々が踏み込んだときはすでに逃げられてしまっていました。一応、証拠を探してみましたが、めぼしいものは発見されませんでした」

「そうか…。あの時、もう少ししっかりしていれば…」

川見中佐がそう言うと、隊員は苦笑した。

「何言ってるんですか。あんな気分悪くなるほどの魔力の濃い中でよくやったって、三島特別中尉、驚いてましたよ。それに、あの後の処理は、全部彼女が仕切ってますよ。さすが、中佐の副官ですね。実に優秀だ」

「あのあとの処理?」

気になって川見中佐が聞くと、隊員は細かく説明した。

まず彼女が行ったのは、本部に連絡して飛行艇で魔術関係のエキスパートを送り込むように要請する事だった。

そしてすぐに投入された二十人の魔術のエキスパートは、三島小百合の指揮の下、次の事を実施した。

まずは、魔力汚染された場所の除染。

これは、あの倉庫だけでなく、支部を含めて実に二十箇所になったという。

そしてそれだけでなく、支部などには魔術に対しての結界の構築まで実行した。

次に、魔法によって洗脳されたり、人形のようになってしまっている人間に対しての呪詛解除。

こっちは場所と違いかなり大変らしく、時間がかかる為にマシナガ本島に患者を移送して本格的な治療を行う事になった。

また、その間に長官や他の諜報部の面々と相談してこの支部に派遣される代わりの諜報部員の手配だけでなく、魔術師数名の出向要請まで済ませたという。

わずか丸一日でそこまでするとは…。

思わず感心していると、隊員はそんな川見中佐を見てニヤリと笑った。

「どうです?ますます惚れたんじゃないんですか?」

「そうだな。惚れ惚れする働きだよな」

そう答えて、なんか会話がおかしいぞと川見中佐は気がついた。

そして、隊員がその違和感を決定的にする言葉を口にする。

「さすが、出来る男は出来る女を嫁にするんですね」

その言葉に、川見中佐の思考が完全に止まった。

え?

誰が、誰の嫁だって?

しばらくの沈黙の後…川見中佐は口を開く。

「えっと…君は、彼女と私が結婚していると?」

「ええ。だっておそろいの結婚指輪してるじゃないですか」

「いや、これはだな…」

何とか説明しようと口を開こうとする川見中佐だが、隊員は続けて話す。

「やっぱり仕事柄、副官だし、同姓だと問題あるから別性を名乗っておられるんですよね?」

もう、完全に誤解されているようだ。

いかん。

なんとか誤解をとかなければ。

焦るものの、何をいったらいいのだろうか。

そう思考しているとドアが開いた。

ドアの向こうには、少し疲れ気味の表情の三島小百合の姿がある。

そして、彼女の目が川見中佐を捕らえた。

「いいところにきた、三島特別中尉。私と君の関係を…」

きちんと彼に説明して欲しいと川見中佐が言葉を続ける前に、三島小百合が飛び込んできた。

川見中佐が慌ててしっかりと受け止めると彼女にしっかりと抱きつかれてしまう。

「心配しました。本当に心配したんですから…」

拗ねるようにそう言って抱きつかれて泣かれる。

こういう場合はどうすればいいのか。

しかし、この迷いは失敗だった。

川見中佐があたふたとしている間に、隊員はニタニタ笑いをして部屋から出てドアを閉めたのだ。

要はお二人の邪魔はしませんよと気を利かせたつもりなのだろう。

「あ、ああああっ…」

引き止めようとする暇もなかった。

わざわざ気を効かせなくてもいいからっ。

そう叫びたかった。

そして、川見中佐は痛感する。

また誤解されると…。

そして段々と外堀を埋められていく感覚になっていた。


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