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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第七章 帝国の暗躍

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視察  その2

出発した時間が時間だっただけに、イタオウ地区の中心であるタニの街の沖に着いた頃には夜になっていた。

「今日は、ここで休んで明日の朝五時に上陸だ」

夕食を三島小百合と共にしながら、川見中佐は説明する。

これではどっちが補佐かわからんな。

そんな事を思いつつも、長年諜報部である自分と最近諜報部に来たばかりの一般人とではかなりの差があるので仕方ないということにしておく。

「わかりました。四時ごろには出発準備しておけばいいんですね?」

カレイの煮つけを食べていた手を止めて三島小百合は聞いてきた。

「ああ、その通りだ。それと食事の後、ミーティングをするから一時間ほど時間をくれ」

するとくすくすくすと三島小百合が笑う。

「なんかおかしいか?」

少しムッとしたが、もちろん顔には出さない。

「いえ。そこは命令すればいいんじゃないのかなと思ってしまって。川見さんって優しいのですね」

指摘されてみれば確かにそうだ。

彼女は自分の部下なのだ。

なのに、なんだろうか。

このやりにくさというかモヤっとした感じは…。

ともかく、ここは何か言い訳でも言っておくか。

そう判断し、口を開く。

「何、中尉はまだ軍に慣れていないと思ってな」

するとますます笑われた。

「何かおかしいか?」

「いえ、鬼の諜報部部長であり、海軍の情報を一手に担う情報の長と聞いていたんですけど、優しい人なんだなと…」

「いや……たまたまだ」

なんとかそう言うも、なんかこそばゆいというか照れくさい感じがする。

なんかやりずらい。

そこで話題を変える事にした。

「そういえば、なんで島風で行くって知ってたんだ?」

「どうしてだと思います?」

三島小百合は悪戯っ子のようにニタリと笑い、目を細めて聞いてくる。

「いや、わからんから聞いているんだが…」

川見中佐がそう言うと、三島小百合はすごくつまらない顔をした。

ころころと表情の変わる女だな。

そんな事を思いつつ、料理を口に運ぶ。

「つまんないなぁ。もっとこうね、例えば魔法を使ったのか?とか心を読めるのかとかいろいろあるじゃないですか…」

「そうなのか?」

「いや、違いますけど…」

「なら、どうやって知ったんだ?」

川見中佐がそう言うと、三島小百合はがくりと肩を落とす。

どうも会話が弾まないのが気に入らないようだ。

しかし、男同士ならともかく、女相手に話すというのは苦手なだけにどう話せばいいのかわからない。

ここで気の聞いたことでも言えばいいんだがなぁ…。

「もういいです。それは秘密にしておきます。よく考えてみてください」

なんかそんな事を言い出して会話は途中で途切れた。

彼女は、止まっていた箸を動かし、綺麗に魚の身をむしって口に運ぶ。

上品で丁寧な食べ方だ。

多分、良いところのお嬢様ってことなんだろうな。

そんな事を思いつつ、自然と口から言葉が漏れた。

「すまんな。どうも、話下手で…」

川見中佐の言葉に、少しむすっとして食べていた三島小百合は箸を止めてきょとんとした顔で川見中佐を見た。

そして、くすくすと笑うと「いえいえ。どういたしまして」と彼女は言って微笑んだ。

その後、話らしい会話はなかったし、ミーティングでも仕事以外の事はほとんど話さなかったが三島小百合はずっとご機嫌だった。


翌日の朝三時三十分。

目立たない黒系の色合いの動きやすい私服を着て甲板に登って来た川見中佐は驚いた。

すでに三島小百合が待っていたのだ。

白地のシャツと地味な茶色系の色合いでスカートと上着をそろえている。

確かに前日話したとおり地味な格好のはすなのだが、どうも彼女が着ると別物となってしまうらしい。

派手ではないが、服装が地味な分、彼女の美人さが目立ちそうだ。

困ったなとは思うが、多分、どんな服装をしても似たような感じになってしまうだろうなと想像できたので諦めた。

「驚いたな。もう少し遅くても良かったんだが…」

思わずそう言うと、三島小百合はくすくすと笑って答えた。

「時間はきちんと守れって言われてるんですの。それも余裕を持ってってね」

つまりは、三十分程度は常に余裕を持ちたいらしい。

「そうか。時間を守るって言うのはいい事だな」

川見中佐がそう言うと、「ええ。その通りだと思います」といって頷いている。

なんか初めて意見があった気がした。

すると思い出したかのように三島小百合はポケットから何か取り出して私に見せた。

それはシンプルながら綺麗な銀色の指輪だった。

「これを薬指にはめてください」

「は?どういうことだ?」

思わず聞き返す。

すると三島小百合はゆっくりと説明しだした。

「三島の本家から送られてきたんですよ。護符の一種だそうです」

「護符?何で指輪なんだよ?」

「指輪だったら肌身離さず身につけている事が出来るという配慮なんでしょうね」

うーん…。

三島の…魔女の本家からという事は、多分護符というのは間違いないだろう。

しかし…。

「なんで薬指なんだ?」

川見中佐は思わずそう聞き返す。

すると三島小百合は微笑んで説明しだす。

何が楽しいんだ?

そう思ったが、川見中佐は素直に話を聞くことにした。

「魔術では、左手の薬指と心臓は1本の血管で繋がっていると考えられていて、だから『命に一番近い指』と言われています。だから…」

「命を守る為に薬指に付けろってことか…」

「はい。そうなんですよ。だから、しっかりつけておいてください。サイズは間違っていないはずですので…」

どうやって調べたんだろうか。

そんな事を思ったが、このままでは私がつけると言い出しかねないと思って慌てて自分ではめる。

すると案の定、三島小百合はぶーぶー文句を言いたそうな顔した。

やっぱりか…。

自分の判断が正しかった事がわかり、少しほっとした。

そんな事をしている内に島風と水兵数名がやってきた。

「お早いですね」

「ああ、時間は守る為にあるからな」

「面白い考えですけど、自分はそういう考えは好きですよ」

島風はそう言ってカラカラと笑う。

「それはそうと迎えは大丈夫ですか?」

「ああ、それは問題ない。すでに連絡済みだ」

「でも、それだと相手にわかってしまうんじゃないんですか?」

島風がそう聞いてくると、川見中佐はニタリと笑った。

「それは秘密だ」

「秘密か…。それは知りたいような、知りたくないような…」

島風が困ったような表情でそう言うと、川見中佐が諭すように言う。

「知らなかったほうが良かった事は、この世の中にごまんとあるからな」

「わかりました。そういうことにしておきましょうか」

そんな会話をしているうちにボートの用意が出来たようだ。

水兵の一人が敬礼して報告する。

「準備できました」

「わかった。では、後のことは頼む」

「はっ。沖合いで待機しております。何かありましたら無線で連絡をお願いします」

「ああ。では…」

川見中佐はそう言って先に下りると三島小百合が降りてくるのを下から支えようとした。

「上を見ないでくださいよ」

なんか必死の叫びに近い声に、彼女がやっとスカートをはいていた事を思い出す。

「ああ、見ないから安心して降りてこい」

「本当に、本当ですからね」

「大体、この暗さじゃ見えん」

「そういう問題じゃないんです。だから上を向かないでっ」

念を押されてしまったが、「わかった。わかった」としか言いようがない。

観念したのだろう。

三島小百合がゆっくりと降りてくる。

それを支えようと腰に手を添えるとビクンと彼女の身体が反応したが、そのまましっかりと支える。

そして、ボートに下ろすと座らせた。

「み、見てないでしょうね?」

「ああ、見てないよ」

なんか痴話喧嘩になりそうだったので、水兵に命じた。

「移動を頼む」

「はっ」

水兵がエンジンをかけると、ボートはゆっくりと動き出す。

出迎えのいる合流地点に向って…。

そして、その動くボートの中で川見中佐は今日の予定を考えていたが、まずは行ってみないとなんとも言えないという結論に達した。

要は、状況にあわせて動くしかないと言うことだ。

そこまで考えたが、一つだけはっきりしているものもある。

さっき彼女を下ろす時に、スカートの奥の白いものがちらりと見えたということだけは黙っておく必要があるということだ。

トラブルになりそうな事はスルーするに限るからな。

川見中佐はそう判断したのだった。

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