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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第七章 帝国の暗躍

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再会と外交

「お久しぶりです。メイソン卿」

そう言って斎賀露伴は頭を下げ右手を差し出す。

「おう。相変わらずだな。昔みたいに海賊メイスンでいいんだぞ」

メイソン卿はそういって笑いながらしっかりと握手をした。

「昔みたいな気軽な身分じゃなくなってしまいましたからね」

「そうだな。お互いに堅苦しい肩書きが付いちまったな」

メイソン卿は海軍軍務大臣、斎賀露伴はフソウ連合王国駐在大使という共に国を背負った役職に就いてしまっている

昔のような気軽な関係にはもう戻れないのかもしれない。

「しかし、お前さんが駐在大使とはな…」

メイスン卿の言葉に、露伴は苦笑した。

「私もこうなるとは思ってもみませんでしたよ。てっきり死罪あたりだろうと思ってましたからね」

「でも、お前さんは、ここにいる。それもお前さんが愛する国を背負って」

しみじみとメイスン卿が言うと、露伴は笑顔を浮かべた。

「ええ。ある意味、私が望んでいたものの一部が叶いましたよ。彼のおかげで…」

露伴はそう言って遠くを見るような目をした。

メイスン卿は、そんな露伴を目を細めてうれしそうに見ている。

彼は、自分の命の恩人の息子であり、一緒に世界を回った同士なのだ。

その男が、自分の国を支配してくれと言ってきたときには驚いたが、理由を聞いて納得した。

彼は国を、故郷をとても愛していたから、そういう結論に行き着いたのだとわかったからだ。

そして、その分析はその時は正しいとメイスン卿は思った。

しかし、大番狂わせが起こった。

フソウ連合海軍。

そして、それを纏める鍋島貞道という男。

その存在が、彼の計画を粉砕した。

派遣した艦隊が負けたと聞いたときは耳を疑ったし、敵意もあった。

しかし、帰国してきたアーリッシュ王子を見て考えさせられた。

あれほど腐ってやる気を失い、覇気のなかった男が、別人のようになって戻ってきたのだ。

恨んでもいい相手を友と呼び、その男の国と同盟を結ぼうと動くとは予想外であった。

そして、王子は同盟締結までこぎつけた。

それもわが国はほとんど失うものもなく、それどころか頼りになる戦力を譲渡までしてくれている。

今までの他国との外交ではまず考えられない。

長いこと国を閉ざして外交をしていなかったから外交音痴なだけだと言う者もいたが、それだけとは考えられない。

裏があるのかとも思ったが、それも考えつかなかった。

あの『鷹の目エド』でさえ、何度も内容を確認していたからな。

それほどまでに破格の内容だった。

そして、その調印までの流れをざっと聞いてでた結論は、その鍋島という男は、驚くほどお人よしで、甘くて、友情に熱い人物だということだ。

ふふっ。一度、会ってみたい男だな。

そんな事を思っていると、露伴が怪訝そうな顔でメイスン卿を見ていた。

「どうかなさいましたか?」

「いやなに、大丈夫だ」

メイスン卿はそう言って手を離すと、露伴に部屋の中央にあるソファに座るように促す。

言われるまま、ソファのところに行くと露伴は頭を下げてソファに座る。

そして、メイスン卿も向い側のソファに腰を下ろした。

すぐに飲み物とお茶請けだろうか、クッキーののった皿がテーブルに置かれる。

「さて、個人的な近況報告は、今度メシでも食いながらするとするとしてだ。今回、こっちに着いてすぐに呼んだのは、挨拶だけではない。緊急の連絡があるからだ」

メイスン卿の言葉に、露伴は頷く。

「わかっております。もし、個人的な用事のときはこんなところではなく酒場あたりに呼び出されるでしょうし、テーブルには紅茶ではなく酒が出てきますからね」

苦笑して「そう言うなよ」と返しつつ、メイスン卿は崩した顔を元に戻した。

その表情は真剣だ。

それを見て露伴も顔を引き締める。

「これは、本当は重要な機密なのだが、王子や王とも話し合い、当事国になる恐れのある貴国にも知らせておいた方がいいと判断した」

その言葉と同時にすーっと書類が差し出される。

ページはそれほど厚くない。

多分五枚程度だろう。

しかし、それをぺらりとめくって目を通した露伴は、驚き、そしてメイスン卿を見た。

そこには短い報告と二枚の荒い写真が挟めてあり、その写真にはゆっくりと進む軍艦がそれぞれ写っていた。

「こ、これは…」

「どうも帝国は、第三、第四の化け物を完成させたようだ。まだすぐに実戦配備とはいかないようだが、それでも早ければ三・四ヵ月後には間違いなく戦線に投入されるだろうな」

じっと写真を見入る露伴。

彼の知っているフソウ海軍の榛名、霧島に匹敵する艦だと見受けられる。

「それに近々、テルピッツが復帰するという話もある」

「テルピッツ?」

「ああ、帝国の大型戦艦の名前だよ。テルピッツ、ビスマルクというらしい。もっとも、こっちの方の名前はまだわかっていないがね」

メイスン卿はそう言って書類の写真をとんとんと指で叩く。

「厄介ですね。二隻でも手に余るのに、さらに二隻追加とは…」

腕を組み考え込む露伴。

そして、そんな露伴にメイスン卿は、更なる言葉を続けた。

「それでな、前回の戦いの遺恨返しをするんじゃないかと我々は予想している」

「遺恨返し…ですか…」

「ああ。フソウ連合によって東方艦隊を壊滅させられ、重要拠点を機能不全に追いやられたのは、かなりの痛手であり、プライドが傷つけられたらしいな」

そう言って、また別の書類を出す。

「これは…帝国で使われているシアロ語ですね…」

そう言いつつ露伴は書類を受け取り目を通していく。

そして見終わった後、ため息を吐き出して書類をテーブルに置いた。

「よく手に入れましたね」

「ああ。あの国もうちと同じで、いやそれ以上に腐っているからな。こんな機密扱いの書類が簡単に手に入る」

そう言ってメイスン卿は笑ったが、目は笑っていない。

やはりスパイ問題は深刻なようだ。

露伴はそう思いつつ、素直な感想を述べた。

「この書類を見せていただきすごく感謝しております。そして、そちらが言うとおり、この書類を見る限り、わが国に遠征があると考えていた方が良さそうですね」

「やはり、そう取るか…」

「ええ」

短く返事をして露伴は頷く。

「それとな。最近、共和国の動きが活発だ」

「フラレシア共和国ですか?」

「ああ。連中は、帝国寄りの反王国の国だからな。王国内でも、買収されて情報を流していた元兵士や元設計技師あたりが治安警察に捕まっているよ。それに、それだけではなく、フソウ連合にもちょっかいをかける気満々のようだぞ」

「ちょっかいですか?」

「ああ。帝国を破ったフソウ連合にいい顔はしないだろうしな。現に、フソウ連合に最も近い植民地に共和国の誇る新鋭艦隊を派遣したという話だ」

その言葉に、露伴の顔が一瞬だけピクリと反応する。

しかし、すぐに笑顔になった。

「実にありがたい情報ですな。王国の友情に感謝します」

そう言って露伴は頭を下げるが、メイスン卿は気がついていた。

目が笑っていない事に…。

「いやいや。帝国は共通の敵だからな」

そう言ってメイスン卿も笑う。

二人で一通り笑った後、表情を隠して露伴が聞く。

「それで、この情報の対価は何をお望みですか?」

メイスン卿は、露伴を見て思う。

外交官は、愛国心のある詐欺師というが、まだまだとは言えこの男には実に向いているのではないかと。

そして、メイスン卿も表情を隠し答える。

「そうだな。うちとしては、戦力の立ち直っていない今は火の粉がそちらにかかって欲しいというのが本音だ。それに、フソウ連合に正式に戦艦を発注したい」

メイスン卿は蝋で封をされた封筒と薄い書類を渡す。

どうやら封筒の中身はきちんとした発注書で、細かな注文や支払い方法、それに引渡しに関しての書類が入っているのだろう。

結構分厚い。

そして、薄い書類には、簡単な発注内容が記載されている。

「ドレッドノート級戦艦と補修艦、それに輸送艦を含めて十隻ですか…。かなり大きな取引ですね」

「ああ、大きい上にとても重要な注文だ」

そう答えるメイスン卿。

その表情は、かなりの緊張が見られた。

それは仕方ないのかもしれない。

王国は、基本兵器は国産を使うという伝統があるのだが、その伝統を破る事になるのだから。

数段上の性能と戦力の建て直しが急務であったとしても、本音としては破りたくないのだろうと露伴は判断した。

だから、重要な注文といったのだろう。

ならばそれに答えねばならない。

多分、あの男、鍋島貞道ならそうするだろう。

だから、露伴は答える。

「では、わが国はできる限り貴国のご期待に添えるように努力いたしましょう」

「頼む…」

そして二人は笑顔を浮かべた。

今度の笑顔は、心からの笑顔だった。

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