日誌 第二日目 その4
覗き込んでくる三島さんに紙を渡した後、伝令に来た兵士に聞く。
「艦隊の方には?」
「すでに連絡は終わっております。作戦通りに実施すると返信もきております」
「そうか。なら、敵の動きを逐一艦隊とこっちに入れるように。あと、広報部の杵島大尉に指示項目プラン弐で動くように伝えてくれ」
「了解しました」
兵士はそう言って敬礼すると二式大艇から降りていった。
恐る恐る機長が「発進してもいいでしょうか?」と聞いてくるので「任せる」と返事をした。
そして、三島さんを見て微笑む。
「三島さん、予定変更になるかもしれませんから、その際はよろしくお願いしますね」
僕の笑顔を見て三島さんが苦笑する。
「つまりは、予定変更の際の細々な厄介事は私に押し付けるという事かしら…」
「嫌だなぁ。押し付けるだなんて…。適材適所ってやつですよ。やっぱりそういうのは今までやったことがある人がやったほうがいいですから。それになにより僕はそういうのはやったことないですしねぇ…」
「くうっ…」
なんか三島さんが悔しさに震えている。
多分、かなり面倒な事になるのだろうが、やってもらうしかないわけで…。
ともかく、これで事態が大きく動く事になるのは間違いない。
他の責任者との顔合わせに向う間、逐一敵の動きの報告が入ってくる。
どうやら、こっちの予想通りの動きのようだ。
ただ、どこまで踏み込んでくるかは予想できないし、いつ砲撃するのか、或いは襲撃するのかはわからない為、細かい事は艦隊司令の山本准将に任すしかない。
もしかしたら、明日の午後に予定されている本番会議の前に衝突するかもしれない。
いや、その可能性はとても高いのではないだろうか。
敵の動きの報告を聞き、そんな事を考えていた。
そして、僕の乗った二式大艇は、夕方前には本会議のあるシュウホン地区の中心シュウホン島に到着する。
着水してゆっくりと港に入っていくと、港には出迎えが待っていた。
抗戦派の代表達だ。
港に付けられ降り立った僕らを彼らは歓迎してくれた。
そして、二式大艇を驚いた表情で見上げている。
「いつ見ても、こんな鉄の塊が空を飛ぶなんてのは信じられないな」
「本当だな…。しかもスピードも速くて船で何日もかかる日程が、一日もかからずに行けるというのは羨ましい限りですな」
そう言いつつ、二人の男性が前に出た。
一人は太目の中年男性でちょび髭がなかなかユーモラスな感じで、もう一人は反対にほっそりとやせているひょろりとした印象の中年男性だ。
「ようこそ、シュウホンへ。お待ちしておりましたぞ、マシガナ地区代表責任者三島殿」
そう言いつつ、太目の男性が手を三島さんに差し出す。
それを握り返しながら、三島さんは笑って言った。
「私は、もう責任者を辞任しました」
その言葉に二人の顔が固まる。
「後任は、こちらの鍋島さんが責任者になっております。なお、彼はマシガナ地区海軍総司令長官も兼任しております」
二人が互いの顔を見合わせている。
まさに聞いてないよぉって感じだ。
それにその顔には三島さんへの好意が感じられる。
まぁ、もてそうだからなぁ…三島さんは…。
そんな事を思いつつ、僕は苦笑しつつ右手を差し出す。
「そういうことになってしまいました。マシガナ地区責任者兼海軍総司令長官の鍋島です。お見知りおきを…」
僕の言葉を聞き、二人は互いの顔を見合わせた後、太目の男性が手を握る。
「これは失礼しました。私は、ガサ地区責任者の角間だ」
次にひょろりとした方の男性が握手を返す。
「私は、カオクフ地区の新田です。よろしく」
そして、二人の視線は、僕と三島さんを行ったり来たりしていたが、我慢できなかったのだろう。
角間さんが驚いた表情で聞いてくる。
「君達は結婚でもしたのかね?」
つまり、結婚して地位を譲られたとでも思ったのだろう。
確かにありえる話だ。
しかし、今回はそんなことはないわけで…。
僕は慌てて違うと答えようと口を開きかけるも、先に三島さんがニコリと微笑んで答えた。
「ご想像にお任せしますわ」
え?!
唖然とする僕を無視して会話は進んでいく。
なんか知らない間に話がどんどん大きくなっていくのを目の前で見せられているといった感じだ。
口を挟もうとするものの、三島さんが実にうまく僕に口を挟ませない。
そして、誤解がある程度大きくなった後、自分の頭をポンポンとたたきつつ新田さんが笑いながら言う。
「こりゃ、なかなか手厳しいですな…」
そして僕に囁く。
「いやはや、三島さんに見染められるとは実に羨ましい…」
「い、いや、それはですね…」
僕がそう言いかける前に、三島さんがまたすーっと割り込んできて微笑む。
「野暮な事は聞いては駄目ですわよ」
その対応に男性二人は笑うしかなかったようだ。
もちろん、言い訳と言うか誤解を解けなかった僕も笑うしかない状況だ。
そして、僕の後ろにいた東郷大尉は不機嫌オーラ全開であった。
案内された港の近くの大きな建物の会議室には降伏派以外の地区責任者が集まっており、僕が部屋に入ると全員の視線が僕に集まった。
実に居心地が悪いが仕方ない。
なんせ、誰も知らない人物が重要な会議に参加するのだから視線を向けられるのは当たり前といえば当たり前だ。
雰囲気は、あまり良くないといった中、会議が始まる。
まず最初に三島さんが責任者の変更の報告があり、そうして本格的な話し合いが始まった。
最初こそ、静かに始まった話し合いだったが、それは裏を返せば荒れるほどの意見がないということであり、妙案がないと言うことでもあった。
そして、一時間程度が過ぎ、やっと僕の発言の順番が来た。
東郷大尉に頼んで作ってもらった資料を全員に配って説明を始める。
まぁ、資料はぶっちゃけ言うと我が海軍の戦力をわかりやすく示したものでだ。
もちろん、あえて大雑把にして細かい数などは伏せてあるものの、いかに十分な戦力があるかをわかりやすく記載してある。
それを見てもらいつつ、十分に外の国に対抗できる戦力はあるという事を僕は説明した。
そして一通り説明が終わり僕が座った後、まず立ち上がって発言したのは中立派の責任者だった。
「もらった資料を見たがこんな戦力があるわけがない。その根拠を示していただきたい」
資料を指で叩き、声を上げる。
すごく神経質そうな印象を受ける人物だ。
それに、質問がいきなり直球のど真ん中である。
僕の後ろに控えた三島さんが囁く。
「最南に位置するキザヤミ地区の責任者よ。何度か外から進入した連中に小島の村なんかを襲われているから、どっちかというと抗戦派寄りね」
「なるほど…。ここで根拠を示したらこっち側に間違いなく来るってことですね」
「そういうこと…」
僕はゆっくりと立ち上がって全員を見回した後、最後に目の前の意見を言った男性に視線を向けた。
「根拠ですか…。難しいですねぇ…。どうすれば納得していただけるでしょうか…」
少し芝居がかって言ってみる。
その瞬間、目の前の男性が怒り狂ったような視線を僕に向けた。
「嘘だというのかね?」
「嘘とは言ってませんよ。でも、どういう風にすれば納得していただけるかというのがなかなか難しい…」
すると、僕の後ろに座っていた東郷大尉がすーっと立ち上がった。
「長官、どうでしょうか…。実際に艦隊を見ていただければ納得されるのではないでしょうか?」
東郷大尉の方に視線を向けて、僕は感心したように頷く。
「ああ、そうだね。それはいい意見だ。それがいいかな」
僕はそう言った後、視線を会議出席者に戻した。
「では、皆さんを夕食にご招待いたしましょう。そこでわが海軍の戦力の一部をお見せする。それでよろしいですかな?」
「ふんっ。面白いっ。見せてもらおうか、若造っ」
まず話に乗ってきたのは、質問してきた男性だった。
そして、次々と参加意思の声が上がり、あっという間にその場にいた全員が参加することが決定した。
「では、東郷大尉、秋津洲に参加人数の連絡を…。それと山本艦隊司令長官に例の準備もお願いしておいてくれ」
「はいっ。了解しました」
東郷大尉に指示を出した後、僕は参加者に向って微笑んだ。
「では、今から我が海軍主催の夕食会にご招待いたしましょう。ご期待ください」




