続きです
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『暗幕開けない』
→古御門の家
古•どうして僕が九條なんかに負けなきゃいけないんだ‼︎
これは夢だ!悪夢だ!
お前のせいだ!
黛•私ですか?
古•君みたいな使えない弁護士は出て行きたまえ!、、、、、、、
じゃあ僕が出てくよ!
(古•舞台から出て行く)
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→院長の家
ピーンポーン
『右側だけ暗幕を開ける』
小•院長〜〜やられました。矢澤に裏切られましたよ。
『残りの暗幕を開ける』
院長?院長!
(院長が倒れているのを発見する。)
(黛•携帯を取り出し、舞台袖へ)
あなたにここで倒れられては困る!
まだ証言して貰わなければならないことがたくさんあるんだ!
ピーポーピーポー……
(院•舞台袖にはける)
(古•院が倒れていた場所で体育座りして顔を隠す)
(黛•舞台に散らばった資料を拾い集める)
黛•古御門先生これ、、、、、
(資料を古に見せる)
古•なんだこれ?
黛•わからないなら勉強して下さい!
始まるんです、医療裁判が
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→法廷
小•(被告席で起立して)本日は近藤院長の本人尋問の予定でしたが、被告 近藤院長は現在病床にあり、回復の目処が立っていません。これは、証人が、倒れる直前まで今日のために準備していた資料です。そこで異例ではありますが、私が証人に代わってこの資料を説明することをお許し願いたい
長•原告代理人?
九•、、、、、、構いません。
長•ではどうぞ。
小•(証言台に資料を持って立ち)
これらは全て、国内外の新薬の使用患者に関するデータです。
これによると本件発生当時、主要7ヶ国において計468人の患者が新薬治療を受けています。その一人一人について、実に詳細な分析が行われています。
その統計結果を要約すると、以下のようになります。
468人のうち、めざましい効果が上がった患者が164人、やや効果があったが47人、効果がなかった・不明が213人、状態が悪化した患者が38人、死亡した患者が6人です。
さらにごく簡単に言い換えるとこうです。
新薬は、治るケースが35%、死亡するケースは1.3%。
同意書に記されていたとおり心筋梗塞が起こる危険性はあるのでしょう、しかしその発生率は、わずか1.3%。
これは他の治療薬に比べてもはるかに小さな数字です。
逆に、35%の治癒率は、きわめて大きい数字といえます。
つまり、この薬は、他の薬に比べて特別危険ということはない、これまでにない素晴らしい薬なんです。
近藤院長は、決して偽ったわけでもだましたわけでもありません。
データに基づく事実を伝えたんです。結果は残念ながら痛ましいものでした。
しかし、近藤院長に、落ち度は何一つありません。
以上です。
長•原告代理人。何か意見はありますか、・・・原告代理人!
九•くだらない!(原告席の机をたたきながら立ち上がる)
データ!統計!治るのが何%死亡するのが何%、全くくだらない!
結局患者を、数字とデータでしか見ていないってことだ!
今あなたが証明したことは、院長がいかに、血も涙もない人間かということ、そしていかに、医師失格かということだ!
小•彼が医師失格ですか?
九•人間一人一人の死に大きいも小さいもない!たとえデータ上は1.3%であっても、本人にとっては、たった一つのかけがえのない命だ!そのことを〇〇院長は全く分かっていない!
膨大なデータを調べたからなんなんだ!(証人台の古美門に詰め寄りながら)
そこに一人一人の人生が書かれているのか!どんな悲しみを抱え、誰を愛し、何を夢見て生きてきたのか、(証言台上の資料をたたき、握りつぶしながら)これを読めば分かるのか!
そういうものと向き合おうとも思っていないんだ!
だから危険な治療でも軽い気持ちで進めてしまう。
死んだとしても、何ら責任を感じずふんぞり返ってる。
冷たい心で、家族の心を踏みにじっても平気でいる。
所詮人の命を、金儲けに使っているだけだからだ!
落ち度がない?笑わせるな、彼の場合はそれ以前の問題だ!
医師として、人間としての資質そのものが欠落している!
病人の悪口は言いたくはないが、あえて言う、最低の医者だ!
小•(九條が丸めて投げ捨てた資料を取り)
医は仁術、確かにその点から言えば、近藤院長は最低の医者かもしれませんね。
権威にあぐらをかき、不遜で横暴で、スタッフと軋轢が絶えず、いい年をして若い愛人を沢山作った。
患者や遺族の気持ちなど意に介さず、死んだらさっさと追い出し、患者の名前すらちゃんと覚えない。
(九條を見つめて)
最低だ。
九•その通りだ
小•最後は、家族からも見放され、広い豪邸でたった一人、助けてくれる者もなく倒れていた。
正に哀れな晩年です罰が当たったんでしょうか。
ですが、彼の書斎は膨大な資料で足の踏み場もないほどでした。
家族に見放された後も、彼はその山に埋もれて、研究に没頭していました。
その姿を思い浮かべるとき、私には彼がこう言っているように思える、「医は科学である」と。
九•科学?
小•難病治療という科学の発展こそが彼にとっては全てだった。
そのために金を集め、実績を上げ、権力を欲した。
(九條をにらみつけながら)
科学に必要なものはデータです、人生でも名前でもない。
医学を前に進めるために必要なことは、遺族と一緒に泣くことではない、直ちに次の患者の治療にあたることだ。
以前彼がこんなことを言っていた、「病院が潰れようと、家族がいじめに遭おうと、そんなことはどうでもいいことだ」と。
そのあとにこう続けたかったのではないでしょうか、「医学の進歩に比べれば」
血も涙もとっくに捨てたんですよ。
(弟の携帯が鳴る)
(全•弟の方を向く)
(弟•携帯を取り出し、電源をつける。
画面のメッセージを見て、下を向き目頭を押さえる。
携帯を机の上に置き、黛の方へ差し出す)
(黛•弟の携帯を取り、画面を見る。
しばらく画面を見た後、弟に携帯を返し、古の方を見る。
椅子から立ち上がる。)
黛•たった今、近藤院長が、息を引き取りました。
(黛•一拍間を置き、椅子に座る)
小•(黛が座るのを確認した後、一度正面を向き、呼吸をする。被告席の弟子医者を見つめながら)
近藤圭吾はきわめて優れた医師だった。
私はそう思います。
九•(一拍間を置く)何が、何が科学だ!
科学なら人を殺してもいいのか!?
小•進歩と引き替えに犠牲を要求してきたのが科学だ。
九•じゃあ犠牲者はどうなる?
小•気の毒だ。
九•それで済ますのか?
小•済ますしかない。
九•残された人間の悲しみはどうなる!
彼がどんな思いで生きてきたと思っている!この先どんな思いで、、、
小•死んだからこそ意味があるんだよ。
九•なんだと?
小•死は希望だ。
九•ふざけるな!
小•その死の一つ一つが医療を進歩させてきた。
現代の医療は、その死屍累累の屍の上に成り立っている。
誰しも医学の進歩のためには犠牲があっても仕方がないと思っているはずだ、その恩恵を受けたいからね。
しかし、その犠牲が自分や家族であると分かった途端にこう言うんだ、「話が違う!」と。
なんで自分がこんな目に遭わなければいけないんだ!誰のせいだ!誰が悪いんだ!誰をつるし上げればいいんだ!
(九•首を横に降る)
(原告を見つめながら)教えてやるよ、訴えたいなら科学を訴えろ!
あなたの奥さんを救えなかったのは現代の科学だ!
九•(原と古の間に割り込む)
そんなこと出来るわけないだろう!
小•だったらせめて狂気の世界で戦い続ける者たちの邪魔をするな!
(2拍間を置く)
もちろん世間には、本当に悪質な医療過誤がある。
それは断じて断罪されなければならない。
しかしこと、この裁判に関しては、医療過誤ではない。
余談ながら、おそらく近藤院長の遺体は今頃、研究機関に運び込まれ、バラバラに切り刻まれていることでしょう。
彼は自分の死後、肉体の全てを臓器移植と研究検体に提供する契約をしていたからです。
科学は、死に意味があるんです。
死こそ、希望です。
長•原告代理人、他に質問は。・・・ありませんか?
(九•一拍間を置く)
九•詭弁だ!
科学なんて言葉に惑わされちゃいけない!
問題は、人間一人一人の命の重さだ!
かけがえのなさだ!
近藤院長はそれを軽んじていたんだ!
(原告席を激しくたたいて)
だから今回の悲劇が起きたんだ!
小•九條和馬先生
(証言台から原告席の被害者に歩み寄る)
(九•古を睨みつける)
近藤院長をつるし上げたところで、彼のの奥さんの弔いにはならない。
我々にできることはせめて、今ある命を慈しむことです。
一日一日が、奇跡なのだと知ることです。
(九•古から目を逸らし、下を向く)
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→家へ
服•それでは勝利を祝って乾杯
小•黛•蘭•かんぱーい
蘭•いっただっきまーす
小•蘭丸くんきみは今回そんなに活躍してないんだから戻しなさい。
蘭•えー大活躍だったじゃないっすか。ね?真知子ちゃん。
黛•どーかな……?
(古•お腹を押さえる)
服•おや?先生どうかなさいましたか?
小•いゃ、どーもこの辺りがチクチク痛むんですよねぇ。
黛•手術したところ?
服•ひょっとして先生。5%のうちに入ってしまったのでは?
蘭•5%って?
黛•盲腸の手術で失敗する確率!
服•再手術ですかな……
小•え!いゃだ!いやだ!
黛•それでは、辞世の句をどーぞ!
小•あの病院 医療過誤で訴えてやる
絶対に
めちゃめちゃ字余り
→倒れる
服•あっ。
ちゃんちゃんおしまい