幕政改革4
登場人物
老中首座 松平武元 右近衛将監 通称:右近
老中 松平康福 周防守 通称:周防
老中 松平輝高 右京大夫 通称:右京
老中 板倉勝清 佐渡守 通称:佐渡
老中格 田沼意次 主殿頭 通称:主殿
明和7年11月10日 江戸城 本丸 黒書院
会議は踊る……一つの議題を突けば別の議題が生まれ、さらなる混迷へ繋がっていく……。
朝イチで始めた長州対策会議は幕政改革へ衣替えをしたのは周知の通り、税制について話し始めたら食糧管理制度にまで話が飛び火してしまった。
昭和末期から平成初期で食糧管理制度というものは破綻し終了したが、この時代においてはそういうものは存在しない。存在しないから基礎穀物であるコメの備蓄も政策として行われていない。もっとも、一部の藩においては実施されているが日本という国家、幕藩体制という枠組みでは公式なものではない。
逆に考えると天明の大飢饉、浅間山噴火という大災害が10年後に起きると思われる現時点では逆に有効に機能するかもしれない……と、佐渡守殿と周防守殿があーだこーだとやりあっている中で考えをまとめていた私である。
「佐渡守様の言、実行すべきやも知れませぬ。ここ数年の冷害などを考えましても、食糧の管理というのは必須と言えましょう。東北諸藩からの流民も元を正せば、コメへの財源依存が原因。ならば、これを好機と考え、年貢廃止と引き換えに実施致しましょう」
「だが、それでは東北諸藩が財源確保のため必要以上に農民からコメを買い取るのではないか?その結果、飢饉を招くかも知れぬぞ?それは如何に手当致す?」
右近殿が当然の懸念を述べた。
史実における天明の大飢饉は東北諸藩が高騰した米価を頼りに強制的にコメを巻き上げたり、極端な年貢負担率を設定したことで起きた人災の側面が強い。
であるならば、当然のことだが、この世界でも東北諸藩が同じことをするのは容易に想像できる。しかも、ここに居る老中連中も実際に領内での年貢徴収で同じことをしている疑いがあるわけだから他人がやることもお見通しだろう。
「確かに昨今聞き及ぶ東北諸藩の年貢負担率を考えれば……。ならば、東北諸藩にコメ以外の財源を造らせればよいのです。そして、我々にはその経験があるのです。東北諸藩に恩を売り、米価安定と飢饉対策、流民対策を同時に出来れば幕府にとっても諸藩にとっても領民にとっても良いことだと思いますが、如何?」
「ことはそう上手くいくまい……」
「右近様、南部藩には鉄がございます。釜石の鉄を幕府が買い付けるならば如何でしょうか?このように産業を育成してやれば流民を定住させることが出来、経済活動が活発化し、税収につながります」
某鉄道会社経営ゲームの基本中の基本だ。もしくは、私鉄経営の巨人、小林一三の教えというものだよ。ターミナルとニュータウン、ニュータウンと工業地帯、人の流れと集まる場所を造らないと経済は上手く機能しない。
「確かに我が館林藩も製糸工場と鉄道が出来てから経済活動が大きく成長し、城下の商人たちからの運上金が増えておるが……」
「確かに我が高崎藩も荒川水運と鉄道で江戸との流通が活発化して以後、運上金、冥加金の類が増えておる……ならば、東北の大藩ならばあるいは……」
鉄道と水運による直接的利益を享受している右近殿と周防守殿は実例を出されたら頷く他無かった。その恩恵に未だありついていない佐渡守殿と昨年岡崎から浜田に転封されたばかりの右京殿は複雑な表情であった。
「利益を享受しておる二方ならば民部の言を受け入れざるを得ぬな。どうであろう、東北諸藩においては、来年より年貢を廃止し食糧管理制度という名目でコメの買上げと幕府への売却へと制度を改めることにしようではないか?」
推移を見守っていた田沼公が議論を収束するようにそう言った。
「コメを買い取る幕府の財源は如何にする?」
「財源なら買い取ったコメの売却益や運上金、冥加金、富籤利益、芝居小屋利益などを充てればよかろう」
「左様であるな。場合によっては長崎における貿易を増やしても良いのではないか?」
右京殿がまたぶち上げた……。この人達、慣例をぶっ壊すなら好機だと思っているに違いない……。まぁ、長崎貿易の拡大は願ったりだが……。




