幕政改革3
登場人物
老中首座 松平武元 右近衛将監 通称:右近
老中 松平康福 周防守 通称:周防
老中 松平輝高 右京大夫 通称:右京
老中 板倉勝清 佐渡守 通称:佐渡
老中格 田沼意次 主殿頭 通称:主殿
明和7年11月10日 江戸城 本丸 黒書院
会議は踊るされど進まず……今から30年くらい後に欧州中央で行われた暴れん坊将軍の後始末会議を評した言葉だが……まさに今この状況だった……。
当初は秘密会合チックな様相だったのだが、今や議論が加熱して情報漏洩ナニソレ美味しいの?ってな空気になっている。
私と田沼公は年貢廃止による税収現金化を主張。絹産地を抱える高崎藩主である右京殿は財源安定が図れることから年貢軽減と藩内産品売買への課税を主張し、同じく綿産地を抱える館林藩主である右近殿もこれに賛意を示した。
史実において明和7年の幕府の財政状況は171万両の備蓄金を有していたが、この世界の現状では鉄道3社、株仲間、荒川水運などから運上金、冥加金による事実上の税収があるため史実を上回る300万両の備蓄金を有している。
その為、改革の原資が確保されていることで幕政改革は老中会議で決定されたものは即時実施可能ではある。だが、それが故に即時実施か順次実施かで議論が平行線を辿っている。
「現在、江戸と館林、川越、岩槻は鉄道で結ばれており、川越、高崎は水運により物流が大きく変化しております。故にヒト・モノ・カネの動きは活発化しているのは皆様ご承知のことかと存じます。これによって活発化した商品経済によって今までになく貨幣の流通が激増しているわけでありまして、最早、コメという一商品は吉宗公の様に相場操作で米価維持などとても出来るものではありません。故に税収の基本とするには適していないのです」
「今でさえ、俸禄として下賜される扶持米の価値が相場で上下して幕臣旗本だけでなく諸侯の家臣ですら米価次第で貧窮を余儀なくされておる。なればこそ、コメに依存するのではなく、カネを本位財源にすべきであろう」
私と田沼公は一気に捲し立てた。だが、彼らも譲らない。
「だが、ここのところの経済を鑑みるに、物価が高騰しておるではないか?それと反比例して農産品や米価は低迷しておる。これで年貢を廃止しては農民たちの生活が破綻するのではないのか?」
「左様、豪商などにコメなどを安く買い叩かれて農民が流民になりかねぬ」
確かにその可能性も否定出来ない……。実際、商品経済の浸透で流民棄民が発生しているのは史実にもあった。もっとも、その原因はコメ栽培に不適な東北でコメ栽培を強行した結果によるところが大きい。当然だが、冷害に弱いそれがまともに生育収穫出来るわけがなく、コメ本位の財政にも直撃しているし、飢餓も発生させている。そして、東北諸藩の無茶苦茶な農業政策と年貢徴発こそが諸悪の根源と言える。
「では、両者の間を取って、天領においては幕府がコメを買い入れる形を取り、そのコメを豪商などに払い下げる形を取っては如何?」
今まで黙って推移を見守っていた佐渡守殿が突然ぶっ飛んだことを言い出した……。これ、戦後の食糧管理制度みたいなもんじゃん……。
「それですと当初はうまくいくでしょうが、流通する米価が高騰するのではないかと……。もしくは、最終的には逆ザヤとなり、赤字になりかねないかと……。」
史実を知る以上、危険性は指摘せねばならない。年貢なら徴収するだけだから持ち出しはないけれど、この場合、持ち出しがある上に、買い取ってもらうのだから赤字覚悟で売らないといけないことも出てくる……。だが、代わりに飢饉対策には効果を発揮するのは間違いない。
会議の様相はさらに混迷を深める……。




