幕政改革2
登場人物
老中首座 松平武元 右近衛将監 通称:右近
老中 松平康福 周防守 通称:周防
老中 松平輝高 右京大夫 通称:右京
老中 板倉勝清 佐渡守 通称:佐渡
老中格 田沼意次 主殿頭 通称:主殿
明和7年11月10日 江戸城 本丸 黒書院
老中な仲間たちと膝を突き合わせて1時間……。未だ話は進まない。
長州対策の協議が主題だったが、いつの間にか幕政そのものが主たる議題になっているのだから、そらぁ進まないはずだ……。
議題がする変わった原因……その張本人は田沼主殿頭意次……その人である。彼が発した言葉によって議論の方向性がガラリと変わったのである。
「そもそも、今の幕政では西南雄藩への対応など出来ないのではないのか?」
「主殿、そなた突然何を言うのか?」
全くその通リだ。ここの面々は誰も腹の中で思っていながら先送りしてきたことなのだから突然そんなこと言い出されても正直なところ困惑するに決まってる。
「右近殿、長年老中首座で幕政を仕切ってきた貴殿が一番良くわかっておるではないか?」
「左様なこと表立って……」
「周防殿、ここは腹を割って話しましょうぞ。誰もが思っておることを正直に話さねば、今後の情勢を乗り切れぬと某は思いますぞ。のぅ、主殿殿、そなたもそう思っての発言であろう?」
「右京殿、賛意忝ない。左様に思いますぞ。」
あーもー、この人は……確かに以前、幕政の問題点を指摘してそれを改革すべきと進言したが、この機会に実行するとか無いわ……。板倉佐渡守殿なんかポカーンとしてるじゃん……。
だが、まぁ、良い機会だ。この機会に幕府の軍制改革は最低でもしないといけない。戦をするにしても、抑止力にするにしてもだ……。そして、それを支える財政改革は必須だ。
「皆様方、議論の方向性が些か迷走しておりますが、私も主殿様に賛成致します。長州対策は大事ではありますが、先の懲罰が現在の幕府の限界と皆様方よく承知されていると思われますので、まずは幕政改革を主題にされるべきかと……」
「民部、そちは主殿に以前より入れ知恵しておるが、今回もそうであるのか?」
入れ知恵……ん……まぁ、そうかなぁ……。でも、基本は田沼公の歴史上の行動だからなぁ。
「右近様、私は主殿様の考えを知った上で助言しているまでのこと……。此度も主殿様のお考えは以前お伺いしたものと変わらぬと思います。そして、主殿様のお考えとは幕府の財政改革であると考えます。如何でしょうか主殿様?」
「うむ。民部の申す通リ財政改革である。我らが幕政の実権を握ってから10年近くなるが、その間の成果と昨今の民部の活躍により幕府財政は確実に健全化しつつある。が、幕府財政はどんぶり勘定のままである。」
我が意を得たりと田沼公は更に語る。
「上様が大奥の支出を大幅に削減されたのは記憶に新しいと思うが、斯様な無駄が各所に未だ多くある。これらは計画的なものではないが故に御金蔵を常に痛めておる。」
「商人たちが付けている帳簿のような収入、支出をひと目で分かるようにすることは勿論、年度ごとに計画的支出を決め、扶持米に至るまで厳格な管理をすべきでありましょう。また、段階的に幕府天領においては年貢を廃止、全て現金による税収に切り替えるべきであると考えます。」
年貢の廃止は何があっても断行しないといけない。これが改革の本丸。コメを代用通貨にしている限り、物価の安定も税収の安定も見込めない。8代将軍吉宗公の米価操作みたいなことは今後通用しない。というか、あの人だから出来たことで、他の人間に同じことなんて無理。
「そなたらの言い分、よくわかったが、あまりに性急であろう……今少し協議し、段階的に進めることにせぬか?」
「左様でござるな。だが、それが出来るならば某の領地でも安定した財政を確立できるであろうな……」
そこまで難色を示されることはなかったが、前例にないことを更に推し進めるのは開明的な現在の幕閣ですら及び腰になるものであるのだな……。




