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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
全ては鉄がなければどうにもならない

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落盤事故

明和6年10月5日 武蔵 川越藩領 秩父鉄山


代官として義弟神庭幸太郎を川越藩に派遣して1ヶ月、幸太郎は到着早々一週間でトロッコ鉄道の実験線を敷設、荒川に面した水運活用の将来的なホッパー施設の基盤として整備したらしい。元々用意していた青写真通りに進めているようだ。


二週間目で実験線から坑道入口まで延伸させ、坑道の拡幅工事にホッパートロッコを活用し、坑道の拡幅と並行し坑道内への敷設を始めた。これにより拡幅によって出た土砂岩石の大量輸送が行われたことで川越藩と秩父鉄山の関係者にその効果を十分にアピールされた。


9月25日に源ちゃんを増援に送り込み、新開発したばかりの試製ダイナマイトとハンドドリル、鉄道ツルハシを投入して坑道拡幅と採掘の効率化を図った。これが思っていた以上に効果的で、計画されていた工程をたったの5日で済ませてしまった。


そして、この好調な推移に満足した結果、現地視察に出向いてきてここに居るわけだ。


だが、私はその時、まだ刻一刻と事態が悪化していたことを知らずに居た。そう、ここにいる人間すべてがだ・・・。


「源ちゃん、幸太郎。こちらの想定以上の結果を出してくれて感謝するよ。」


「火薬を筒に詰めて爆発させ坑道を掘り進める事ができればツルハシで硬い岩盤を砕かなくても済むんだから作業が進むってもんさ。」


「しかし、義兄上、これは効率は良いですが、使用量を場所によって変えないと落盤を引き起こしかねませんよ?」


「そこが問題。だからこそ、鉱夫の退避は確実にやった上で使用量を最低限度にして工事を進めないといけない。」


「最近は川越や秩父の連中も使い方に慣れてきたから安心出来るだろうさ。」


ズズーン


「やってんなぁ。」


まぁ、好調ならそれでいいけれど、慣れると気が緩むって相場がなぁ。


「源内殿ー源内殿ー。」


「どうしたんでぇい!」


「らっ落盤しましたー。発破地点だけでなく入口側の発破指揮所付近も落盤し、作業員が生き埋めに!」


その場の空気が固まった・・・。その危険性を云々していたその時に起きるとは誰もが思いもしなかった。


「すぐに救助を!いや、坑道の補強が先だ!これ以上落盤させるな!」


「はっ!」


誰よりも先に衝撃から立ち直った源ちゃんが適切な指示を出し、坑道へ走っていった。こうなると私や幸太郎はお手上げである。


「幸太郎、ダイナマイトの使用にはもう少し慎重にやらないといけない・・・。」


「ダイナマイトの使用量もそうですが、坑道の補強も今まで以上にしませんとどこが崩れるかわかりませぬ。」


「作業手順の見直しが必要か・・・。暫くは坑道全体の補強をしながら安易な発破作業をせず採掘と拡幅工事をするように。」


「心得ました。」


「川越城に行って、事故の報告と謝罪をしてくるよ。引き続き代官の役目、果たしてくれ。」


幸太郎は頷くとともに救護指揮所へ向かって走っていった。


私も私でやらねばならない仕事ができた。まずは川越、それから相良に行き、今後の対策を取る必要がある。ダイナマイトの運用が軌道に乗らなければ今後の鉱山開発、鉄道事業、両方に大きく影響するからだ。


後日、この落盤事故の犠牲と損害のレポートが上がってきたが、幸いなことに死亡者は出なかったが、重傷者十数名、坑道内の四ヶ所で落盤、復旧には1ヶ月以上と見積もられていた。

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