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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
御庭番、有坂民部

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隠密行の終了

明和6年4月10日 豊前小倉 小倉城


長門へ派遣した義弟、神庭幸太郎が陸奥屋とともに小倉へ戻ってきた。


予想された通リ、長州藩は反射炉を建設中もしくは未稼働であっても稼働寸前という状態であることが判明した。幾つかの傍証による仮説という領域ではあるが、それぞれの意味を考えれば、答えは一つでしかなかった。


江戸で受けた指示・・・というか、上申した懸念だが・・・を一通り調査出来たわけだが、鉄道建設だけは情報が手に入らなかった。


なにせ、鉄道がどういうものか知っている人物は私と幸太郎、艦隊乗員くらいなものであり、小倉などで聞き取り調査をしても地元民はピンと来ない。当然、火を見るよりも明らかな結果を態々確認するまでもない。


調査のために上陸出来れば良いのだが、陸奥屋などに変装して潜入すると言っても限界はある。そもそも、普段船で買い付けに来る陸奥屋が陸を進むなんて怪しいにも程がある。


そういった理由で結局調査が出来ないでいた。


だが、長州藩が鉄道を建設するのであれば、どこに敷設するか、それは凡そ見当はついている。山口~防府~徳山、山口~萩、山口~厚狭~長府~下関、厚狭~大嶺~萩の4本である。


経済的政治的理由で前者3本は堅いだろう。優先をどこに置くかが問題だが、コレ自体は然程問題視するほどでもない。だが、後者1本の厚狭~大嶺は違う。


そう、そこに眠る地下資源を発見していれば、このルートは最重要となり、場合によっては山口と瀬戸内港湾都市との連絡よりも優先されるだろう。大嶺に眠る石炭を知っていればだ。三井三池から供給されずとも自前で石炭を供給できるようになれば三井にとってはダメージであるが、長州藩としてはまさにボーナスステージ到来と言える状況だ。


やはり、潜入すべきか・・・。


極論言えば、厚狭周辺から北に線路が伸びているかどうかそれだけ確認できれば良い。もし北に向かっていれば長州藩が大嶺炭田を発見していることの証明だ。


だが、下手な行動をするべきではない・・・。


うーむ。手詰まりだ・・・。


「義兄上、撤収準備整いました。明朝には出航できますが、如何致しますか?」


「そうか、ご苦労様。お茶淹れるから座っててくれ。」


お茶を用意しながら考えていたのだが・・・。


「義兄上、義兄上!お茶が溢れております。」


「おぉ、すまん。考えごとをしていた。」


「私の報告では不足でしたでしょうか?」


「いや、そうではないのだ。幸太郎の報告で十分だ。ただな、鉄道建設に関して情報が入らない、手に入れることができない状況に頭を抱えていてな。」


「萩近辺には鉄道はありませんでしたよ。」


そう、萩近郊には鉄道は存在しなかったそうだ。つまり、あるとすれば瀬戸内側・・・。


「そうなると、瀬戸内側だろうな・・・。だが、下手に動けば・・・いや、だがなぁ・・・。」


「義兄上、今は鉄道の件は無視されるべきかと。」


「相分かった。今回は幸太郎の進言を受け入れて江戸へ戻り、幕閣へ報告することとしよう。」


「鉄道は敷設そのものは手間はかかるものの容易に出来るものです。つまり、幕命で撤去を命じてもいつでも好きな時に敷設できるわけです。故に今確認出来ても出来なくても大局には大きく影響しないでしょう。」


「左様であるな。一つだけ心配があったが、杞憂であろう。誰にも言ってないことだ、そう簡単に見つかるわけがない。うん、そうだ。」


「では、艦隊に明朝出航と伝えてまいります。」


「うむ。江戸に戻るぞ。」

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