平賀独考
明和4年7月 江戸城神田橋門内田沼意次邸
田沼様の側用人就任のご挨拶にと伺ったのは良いが、オレっちのあずかり知らぬところで平賀源内の紹介と称する浪人?が屋敷に居て饗しを受けているらしい。なんでも、家人曰く南蛮人みたいな装束の変なやつだそうじゃねぇか。そいつは面白ぇと興味を唆られた。
だが、そいつは思っていた以上にぶっ飛んだ野郎だった。
300年後の世界の人間?普通に考えれば狂人だろう。だが、そいつの話しじゃ、オレっちは早とちりで大工を殺して投獄されて獄中死しているそうだ。
先年秩父で発見した石綿、それを製品化した火浣布が建物の防火に役立つが、採掘で飛散する粉塵が元で病になると奴は指摘してきやがった。奴はオレっち以上の山師じゃなかろうか?
早馬ほど速くはないが、馬を使わずとも同じくらい一日に移動できる「じてんしゃ」なるものや、鉱山でもっこを担がなくても右から左、左から右へと土砂鉱石を運搬できる「べるとこんべあ」などというものを奴は絵図にして説明してきたもんだから驚いた。こんなモノを思いつくのは今世の人間じゃない。オランダにだってこんなものはない。
一体奴は何者か?胡散臭いが面白ぇやつだ。付き合ってやろうじゃねぇか。




