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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
邂逅

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蒸気鉄道開業と内なる悪魔の囁き

明和5年1月1日 相良城下 相良中央駅


去年の秋から悪戦苦闘しながらも低品質ではあるけれど、鉄の量産化に成功したことで、まずはレールの量産製造を開始した。10月中には馬車鉄道の共用を開始。12月中に試作蒸気機関車が完成した。と言っても、現状は相良港~相良中央の臨港線と相良油田~相良中央の油田線、相良港~相良中央~中央市場の貨物線が暫定開業しているに過ぎない。


試作蒸気機関車は油田線に配置し、一日一往復という運用であるが、重量貨物である燃料輸送に活躍することになるだろう。現状は蒸気機関車の製造そのものが追いつかないという事情、路線そのものが市内線同然ということもあり、馬車鉄道で需要を満たせている。


馬車鉄道の開業以来、相良港の取扱貨物量も順次増えていっている。何しろ、港湾施設にガントリークレーンもどきを配置したことで港湾荷役の効率が格段に向上した。そして、郊外に中央市場を開設し、そこに貨物駅を併設したことで輸送効率も向上し、商品集積も行えることから日本初の倉庫業が設立され、ミニ築地市場とも言えるそれは日に日に目に見える効果を生み出しつつあった。


今後は市街外郭に環状線を建設、藤枝、御前崎方面へと順次延伸を狙っている。馬車鉄道と言えど、輸送力で数倍、速度でも3倍以上だ。それに強化された港湾機能で相良の発展は今年中に駿府を超えるだろう。発展すれば人が増える。人が増えればカネが落ちる。カネが落ちれば経済が廻る。風が吹けば桶屋が儲かる理論万歳。


というわけで、私は、相良鉄道株式会社の正式発足式典のため相良中央駅に来ている。


「お集まりの諸君、新年を迎えた今日この日、相良の発展を約束する鉄道の正式開業を宣言する。諸君らの一部は年末から暫定開業したこの鉄道による便益を享受したことだろう。」


気分が乗ってきた。演説って最高に気持ちいいね。


「去年、私がこの相良にやってきてから行ってきた事業、すなわち、鉄血政策は新たな一歩を踏み出したのだ。鉄とは産業の源、血とは経済を回す銭である。この鉄道は、私の鉄血政策を進める上で大きく寄与するだろう。そして、諸君らに多くの富をもたらすことだろう。」


ビスマルクの鉄血政策とは違うけど、この場合はコレで正しい。うん。言ったもの勝ちだ。


「今諸君らが目にしているこの煙を吐くカラクリこそが、相良の発展を約束する証明である。いずれ、この蒸気機関を積んだ船が大海原に乗り出し、あっという間に江戸へ、大坂へ、長崎へ着くようになるだろう。その日は近い。」


「これから相良は大きく様変わりする。田舎街だったが、駿府に、名古屋に、京、大坂、江戸に匹敵する繁栄も夢ではないだろう。その夢を初夢代わりに諸君らへ届け、祝賀の挨拶としたい。」


あぁ、そうさ、自己満足さ。


だが、この煙を吐く蒸気機関車こそが、この時代に私が生きた証そのものだ。そして、この動輪のように時代は動いていく。そう、動き始めたのだ。動かしたのだ。ならば、その先を追い続けるのが責任ってやつだ。私は、この時代を生き抜いてやる。当初の目的から少しずつ逸脱してきたが、ならば、一番前を駆け抜けてやろうじゃないか。


そういう気分になってしまう。それくらい高揚している自分の内側の色んなモノに最大限の警告音が頭の中で鳴り響いている。だが、何故か今はそれを無視してしまいそうだった。

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