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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
寺田屋事件

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栄あれ交通思えよ国運

安永2年10月16日夕刻 大坂鉄道管理局


「飯田君、軽便鉄道を伏見まで数日で造るぞ!すぐに作業員を動員して突貫工事で京橋-石清水八幡宮に簡易規格の軽便鉄道を建設するんだ。制限速度は道床が弱いから低く抑えるが、その代わり複線で本数を増やしてピストン輸送させる!」


 大坂城から急ぎ帰還した私は大坂鉄道管理局の飯田局長へそう命じた。


 大坂総督久世大和守に数日内に伏見への物資輸送確立を約束したそれを実行に移すのである。大坂港-梅田(後に大坂と改称予定)-京橋は営業運転こそしていないが物資集積のため通常規格の軽便鉄道が敷かれている。


 そこから京街道に沿って石清水八幡宮までの間に簡易規格の軽便鉄道を一気に敷設し、大坂市中の大店などから徴発した大八車などを用いて淀、伏見へと物資輸送を行うのだ。


「総裁、簡易規格の建設ですか?しかし、それでは輸送力が……」


「あぁ、構わない。今の目的は恒常的運転ではない。道床を一から作るのも時間の無駄だ。京街道そのものを道床にしてしまえばよい」


 私の言葉に飯田局長は目を丸くしていた。彼は既存の街道をそのまま道床に転用するなど聞いたことがないらしい。彼はそんなことを江戸に居た頃は一切やったことがなかったのだ。


 もっとも、初期の頃の銀座の大通りには鉄道馬車が走っていたが、蒸気化の目処が立った時点で廃止されている。


「ですが、そんなことをしては京街道の往来の妨げとなります……それに守口や枚方では反対派が屯しています……」


「全く問題ない。連中は淀藩が駆逐した。そして、尼崎藩の兵を臨時工兵として指揮下に置くこととなった。尼崎の兵を作業員や警備員として使うことで大坂鉄道管理局の人員だけでは賄えない作業をこなすことが出来る……どうだ?」


 彼は驚きの表情だった。諸侯の兵を指揮下において鉄道建設などというぶっ飛んだ真似をやれと言う自分の上司である私に恐怖したようである。だが、元々鉄道建設に際しては幕府相手ですら平気で脅しをかける人物だったと思い出したようであり、すぐにいつもの表情に戻った。


「すぐに取り掛かります。規格が緩和されるのであれば、敷設条件が低下しますから工期を短縮出来ますし、敷設しながら工事用列車の運転を行えば資材の調達も容易ですからこれから取り掛かれば京橋-守口間は本日中に敷設出来ると思われます……」


「そうか、やってくれるか!よし、頼んだぞ!江戸に増援を要請するから、枚方まで完成した頃には江戸から引き抜いた連中が工事に加わるだろう。石清水八幡宮まで完成したら、すぐに正規路線の建設に着手して輸送力増強に切り替える……そういう段取りで進めてくれ」


「承知いたしました……では、こちらはお任せください。総裁は、副総裁の件と幕府との折衝など我らではどうにもならないことをお願いいたします……」


「相分かった」


 彼が管理局の指揮所から外へ飛び出すとそれを見届けてから私は江戸への緊急指令を出させ、大坂城へと再び向かった。


 私が管理局庁舎から外に出ると現場の連中の喊声が木霊していた……。彼らは彼らで目の前の鉄道建設という大事業を前に士気を高めていたのだ。


 伏見大火とそれに対応する簡易軽便鉄道建設、それは既に国鉄の、現場の仕事である。そして、私の仕事は……寺田屋事件に対応することである。それは、ここ大坂鉄道管理局では不適当なのだ。

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