表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
動き出す雄藩

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

239/266

さつまーと構想

安永2年7月8日 江戸 三田 薩摩藩邸


 小田原の馬鹿殿が要らん真似をして私や幕府中枢が情報収集をしていたこの日、薩摩藩邸から使者がやってきたという。当時、私は国鉄本社で事態の把握と幕閣との事後についての打ち合わせなどをしており、在宅していなかった。


 そんな主不在を良いことに薩摩藩は結衣を連れ出していったのである。


 薩摩藩からすれば幕閣や私が慌てふためいているのはさぞ痛快であったであろうし、この機を逃すことは出来ないと考えたのであろう。先日延期すると言ったばかりの結衣との会合を前倒したのだ。




「さて、結衣殿……急なお呼びだて申し訳ござらん」


 使者として足を運んできたのは毎度おなじみの薩摩藩士小松清宗。しかし、今日はいつもの薩摩弁ではなく標準語だ。どうやら、三井三越という仲介役・緩衝材が居ないことで薩摩弁を使う必要がないと判断しているようだ。


「あら、今日は薩摩言葉ではないのね?」


「お望みとあらば左様に致しましょう」


「いえ、そのままで構わないわ……それで、民部殿からのお話では暫くは延期という話でしたけれど?」


 結衣は単刀直入に斬り込んだ。


 彼女としては薩摩からの申し出には応じるつもりでいるから返答はいつでも出来る状態だった。問題はどういう方法で薩摩を出し抜くかという点であり、それに悩んでいただけに過ぎない。


「こちらの都合が変わりましたゆえ、本日、返答をいただきたく……また、応じていただける場合の方策をご披露いただけぬかと……」


「なるほど……民部殿が慌ただしく動いているのと、このことは連動しているということですのね……」


「……」


「それについてはそちらの回答があるとは思っていないから結構ですわ」


「左様でござるか」


 そんな問答をしつつ三田の薩摩藩邸へ着いた後は島津薩摩守の待つ書院へ通された。


「殿、結衣殿をお連れ致しました」


「通せ」


「そちが結衣か……ふむ、キリっとした良い眼をしておるな……ふむ……」


「薩摩公、此度の召喚の儀、先の薩摩への御奉公の件と伺いましたが、相違ございませんか?」


「早速本題に入るのか……ふむ、不躾であるが、呼びつけたのはこちら故無礼は許そう……左様、その件じゃ……どうじゃ?」


「では、お答えいたします。この結衣、御奉公致します」


「ほぅ、そうか、断るのではないかと思っておったが……」


 薩摩守は受諾するとは思っていなかった様だ。彼は結衣の前に進み出た。


「ならば、民部と敵対することになろうが、それも承知の上と申すのであろうな?」


「それは異なことを……私は民部殿を裏切る真似など致しません。ただ、かと言って、薩摩公にご奉公するのですから、当然ですが、民部殿に内通するような真似もするつもりもございません」


「ふむ……どちらにも与せぬと申すのか?ほぅ……」


 薩摩守は結衣の答えを面白いと思ったようだ。


「あくまで商い、財政に助力せよとの仰せであったかと記憶いたしますが如何?」


「左様であったな……良い、それで構わぬ……ただし、この薩摩守に二心を抱くことはするなよ?」


「それは、幕府への……民部殿への脅迫ですか?」


「どう取ろうが構わぬ……我らには力があるのだからな……それを忘れるでないぞ」


 どうやら薩摩藩は例の衝突事故以後に色々と学んだことがあるようだ。そして、それが幕府へそして有坂民部へのカードとして有効だと確信しているらしい。


「心にとめましょう……」


「良かろう……さて、それではそちの考えを聞こう。我が薩摩で何を為す?」


 薩摩守は話題を商談に移す様だ。彼にとって今の脅迫はあくまでカードの一つを切っただけで他にもカードはあるという余裕の意思表示なのだろう。


「まずは、薩摩公のお持ちの船がどれだけあるか、これによって出来ることが変わります……それも和船ではなく、西洋船です」


「ほぅ、西洋船とな……オランダ商館を通して2隻の商船を購入することとなった。今はバタビアから回航している頃であろう……これが届けば船大工に真似をさせて数隻の西洋船を建造出来るであろうな……だが、民部が有しておる蒸気船などというものはオランダにもないと聞いたのぅ」


「なるほど、では、年内に2隻は確実であると……」


「そうじゃな。それで、その船をどう用いるのだ?」


「その船、すべて私に預けていただけませんか?民部殿の有坂海運と並ぶ商船会社を作り上げて御覧に入れましょう……ただし、有坂海運と同じ航路では負けるのは目に見えておりますので、他の航路でまずは利益を上げて、あとは……薩摩領内の大きな町や村に三越の様な店を出します……と言っても、小規模なもので、扱う商品は目録にして、買い手からの注文を受けた支店が鹿児島城下の本店へ発注し、本店は注文を受けた支店に品物を送り、買い手が受け取るというものを構想しております」


 結衣の構想は通販とコンビニを合体させたようなものであり、量産品は鹿児島城下において在庫管理するというものである。それ以外の食料品などは近くの農家との契約を見込んでいる。


 もっとも、江戸の様な鉄道網が整備された地域であれば他の地域から大量に運び込むということも出来るが、鉄道もが未整備の薩摩ではそれは無理である。


「ふむ……小さな三越か……それは面白いが、我が領民は貧しいぞ?うまくいくのか?」


「貧しいと言っても、日用品や農機具は必要でありましょう?それらを安く買い付けできれば安く売ることが出来ますゆえ、軌道に乗れば利益は出ましょう……それまでは商船会社の利益で補填する形をとることになりましょう……」


「よかろう……しかし、その買い付け先は……」


「勿論、有坂財閥と相良財閥になりますわ……彼ら以上の量産能力がある存在はこの国にはまだありませんから……」


「……結局、この国の富は民部に吸い上げられるのか……悔しいのぅ……しかし、それがあやつの強さの根源か……」


 結衣はなるほどと思った。有坂民部に富が吸い上げられていると幕府側以外の目では見えているんだな……と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ