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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
Look West政策

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安永の御所騒動<1>

安永2年4月10日 京 京都所司代庁舎


 二条城に隣接する京都所司代庁舎では新任の京都所司代である掃部殿が留任となった下総古河藩主土井大炊頭利里殿と膝を突き合わせとある問題への対処に頭を抱えていた。


「大炊頭殿、この問題、いつ気付いた?」


「某が着任して後、一昨年(明和8年)でしたかな……江戸から朝廷財政の支出状況の監査をせよと命がありましてな……その折にいくつか不明な支出が見つかりまして……それから後、裏付けを取るべく内偵調査を続けておりましてな」


「それで、横領と実態のない支出が見つかったと……」


「左様でござる……そして、江戸へ報告が出来る体裁が整いました折に掃部殿が着任されましてな……それで挨拶回りなどが落ち着いた本日こうして報告書を御見せした次第……内偵と関係者の吟味は京都西町奉行の山村良旺が行っておりましてな……彼も呼んでおりますゆえ、後程彼に尋ねられるとよいかと」


 この朝廷財政の不正事件は現代では安永の御所騒動と言われるものだが、この世界においても起きていたのである。


 元々、鬼平親父こと長谷川宣雄が京都西町奉行として赴任するはずだったが、彼は江戸に引き留められ江戸警視庁の警視総監となっているため、代わりに彼の死後派遣された山村良旺が1年早く京都西町奉行へ補任された。これによって、安永の御所騒動は半年も早くその実態がつかまれたのであった。


「このこと、幕府には……」


「まだ」


「左様か……この井伊掃部が内々に政事総裁職の田沼殿にはお伝え致そう……暫しこの件、公式に報告することを禁ずる」


「されど、斯様な不正を見逃すわけには……」


 掃部殿の目が光った。


 彼は鋭い眼光の中にニヤリと笑みを浮かべていたのだ。


「……掃部殿には何か思うところがあるようですな……」


「この件、引き続き内偵を続け、余罪を引き出そうと思うておる……ただの横領にしては額が大きすぎるでな……どこかに繋がっておるであろうよ」


「相分かり申した……では、山村には左様申し付けましょうぞ……」


 大炊頭殿はそう言い、報告書を金庫へ仕舞った。


「しかし、掃部殿はここのところ精力的に市中の見回りや取り締まりを行っておりますところを見ますと我らも気が引き締まる思いがしますな……」


 彼は金庫から戻りながらそう言った。


 京都所司代は現代でいうなれば京都市長と京都府警本部長を兼ねる職だが、行政権・警察権は町奉行が掌握していて幕府組織上は老中の管轄であるため、実質的にはお飾り状態であった。このため、地位のみが高く、幕閣への登竜門という役割に成り下がり、京都所司代は無力な存在だったのだ。


「某は与えられた職をこなしておるだけにござる。あえて申せば、幕政改革によって京都所司代が本来の役割を取り戻したというべきであろうよ」


「つまり、これから先、京の治安、秩序は悪化する……と……幕府は考えておるわけでござろうか?」


「左様、東照大権現の頃と違い、今や幕府の統制力は低下始めておる……西国大名は密貿易をやっておるであろうし、秘かに力を蓄えておっても不思議ではない……そして、大義を得るためには朝廷を動かすことが一番の近道……」


「では、西南雄藩が朝廷とつながり、幕府に謀反を?」


「有り得ぬ話ではなかろうよ……そして、此度の不正事件……」


「なるほど……」


 掃部殿の言葉には虚実ないまぜのものである……それはメタ情報による未来に起こりえる可能性と今起きている問題を繋いだものであり、ただの出まかせである。


 だが、現場で不正を見つけたものにとっては現実味のある言葉に聞こえる。


「掃部殿、必ずや、この一件、黒幕を捕らえねばならぬな」

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