結奈のいたずら
安永2年1月25日 新橋 有坂民部邸
この一ヶ月、千客万来であり、国鉄本社、自邸問わず訪問客が後を絶たない。
大店衆、奥羽諸藩、北関東諸藩、福山藩、松江藩、小倉藩、福岡藩と付き合いの深い方々の訪問だけでなく、遠くは博多商人が束になって訪問してきたりとここは国会議員の議員事務所かと思わんばかりだ。
実際に、国会議員への陳情そのものといった状態であり、博多商人からは長崎へと鉄道建設の陳情があり、福山藩からは自領で生産された鉄を優先的に買って欲しいというものであった。
それもこれも、幕府の西方重視政策で空気を読んだ大店衆の先行投資的な動きによるものが発端であり、いつの間にか、上方商人による京坂鉄道建設期成同盟会なんてものまで出来上がっている始末だ。その盟主が三井高清であるのは言わずもがなだ……。
そんな日々における安息の日のことである。
「旦那様……?」
ここ数日寒さが厳しかったが、この日は珍しく気温が高く縁側で日向ぼっこをしていたのだが、私は日々の増え続ける業務と陳情による疲れのためか眠ってしまっていたのだ。
「もう仕方がない方ですわね……」
結奈は私がいるはずの自室にいないことで探していたらしく、たまたま縁側を通りかかったところで、柱に寄りかかって眠っている私を見つけたのだ。
完全に熟睡している私を見た彼女はクスッと笑って膝枕をしたのであった。
「こうしていると、本当に子供ですわね……楽しそうな表情で……」
そんな時に、彼女はいいことを思いついたとニヤリと笑い、私の頭を床に下ろすと書斎へ向かっていった。そしてすぐにあるものをもってきた。
それから暫くして私は彼女の膝の上で目を覚ましたのである。
「旦那様、おはようございます……よく眠っていらっしゃいましたね」
「膝枕か……おかげでよい夢を見れたよ……」
「そうですか、もうじきお昼ごはんですので顔を洗ってきてくださいな」
「あぁ、わかった。行ってくる」
「ええ」
彼女は楽しそうに笑った。何がそんなに楽しいのかわからないが、結奈の笑顔は可愛いので見ていて気分が良いから気にしないことにした。
それから洗面所の鏡で自分の顔を見て驚いた。そして、彼女が笑った意味を知った……。
「結奈め、やってくれたな!」




