表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
世界へと目を向ける幕閣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

203/266

結局、海軍は必要なんだよね……

安永元年12月11日 田沼意次邸


 会津公と掃部殿に未来人(転移者)であることがバレてしまった翌日、田沼公に呼び出された。


「民部よ、そちを呼んだのは他でもない。会津公と掃部殿に素性がバレたそうではないか、まったく……軽々しく自身の素性がバレるような発言をするでないぞ」


 予想通り、田沼公からの御小言頂戴である。


「はぁ。全く迂闊でした。ですが、結果としてあの二人をこちら側に引き込むことは叶いましたゆえ、それが幸いかと……」


「だが、会津公、掃部殿、揃って早期の長州征伐と朝廷……公家の暗躍を阻止するために京都所司代の上位に京都守護職を設置し、上方の統制を強化すべしと申しておったが……あの犬猿の仲の二人が結託して同じ政策を主張するなど余程のことであると認識せねばなるまいな……」


 あぁ、幕末の顛末、会津藩、彦根藩を待ち受けている運命(さだめ)を話したからなぁ……。


 彦根藩井伊家は風雲急を告げる時勢で大老を輩出、時勢を乗り越えんとしたが、強権発動した結果、水戸浪士に暗殺され、弾圧された派閥によって復讐された。そして鳥羽伏見の戦いで真っ先に反幕府勢力に寝返り、会津藩などの幕府軍の敗北に大きく貢献した。会津藩はその後の戊辰戦争によって奥羽列藩同盟の真の盟主として戦い抜き、最後は朝敵として徹底して弾圧された。


 その当事者からすれば、色々と思うところはあるだろう。


 井伊家当主である掃部殿からすれば、譜代筆頭でありながら幕府、徳川家に刃を向けるという受け入れがたい運命(さだめ)を覆さんと願うだろう。


 会津松平家当主である会津公からすれば、親藩筆頭であるはずの越前松平家が将軍家を見捨てたのも、連枝である御三家や譜代筆頭の井伊家が率先して新政府側に寝返ったのも許せるものではない。それは会津松平家の家訓の本領発揮というべきところだろう。


 そこで彼らの考えが、朝廷と公家の政治的暗躍を阻止すること、その拠り所となる長州藩の掃滅に至るのも当然のことであるだろう。


「以前にも田沼公にはお話いたしましたが、今より70年後には欧米列強が多数の蒸気船で我が国近海に出没し、開国を迫り、その要求に屈した幕府を朝廷や西南雄藩が糾弾し、やがて討幕へと舵を切っていきます。その際に、薩摩長州は手を結び、外国から新兵器を手に入れ、数に勝る幕府の長州征伐軍を圧倒し、そして薩長は錦の御旗を手に入れ、官軍を騙ります……そして、幕府側だった各諸侯も朝敵にならないために恭順、寝返り、その中には掃部殿の井伊家も含まれておりました……」


「そして、裏切った井伊家が会津、桑名などの幕府軍の背中を刺した……わけだな?」


「左様……ゆえに掃部殿も自らの子孫にそのような不名誉な真似をさせたくはないと思っておるのでしょう……」


「ふむ……会津公はそちが開発した歩兵銃をもって武力で上方を統制し、反幕府の芽が息吹く前に摘み取ろうと考えておるわけだな……」


「左様に考えまする……私もそろそろ時期的この関東、奥羽だけでなく、上方に目を向けるべき頃と考えており、彼らの提案に賛同致すところ……如何でしょうか?」


「余が一人で決めるわけにはいかぬが……右近殿に話を通して内諾を得られれば、京都守護職を正式に設置し、文武両面で上方、京を統制する様に上方行政を再編しよう」


 京都守護職が設置されたならば、会津公は必ずや家訓を忠実に実行せんがため名乗り出るだろう。そして、如何ほどの出費をしようが京に兵を駐留させ、武力によって徹底して朝廷への圧力をかけ続けることだろう。


 その際に掃部殿は会津公を支援するために京都所司代に名乗り出て、行政権と警察権によって援護するだろう。


「両名の京都守護職、京都所司代への就任を要請するとともに、幕府は京における万全な政権基盤確保のために大坂を拠点として彼らを援護するべきでございましょう、その際には海軍力の展開が必須……」


「民部よ、そちは海軍建設には慎重派ではなかったか……だが、陸路での援護は鉄道の整った関東ならば兎も角、上方では合理的ではないな……」


「必要性が出てくれば決断せねばなりませぬ……幸いにも今の日本は海軍力を有する諸侯は事実上存在しておりませぬ……あるとすれば我が有坂海運のみ……1年……1年あれば、幕府海軍を江戸湾と大坂湾に数隻ずつ配備出来るように手配致しましょう……」


「そんな短期間で出来るなら、なぜ反対したのだ?」


「今後建造される有坂海運の商船を改造して軍艦とすれば船を手に入れることは容易きこと……問題は結局のところ人材……それを育成するために1年と目標を掲げました……また、問題は武装でありまして……大砲の開発は鋭意継続中でありますが……まだ御見せ出来るものではありませぬ……よって、外国から買い付け致すべく手配する必要がございます……これにも十分な数を揃えるのに1年……」


「ふむ……相分かった。このこと、今はまだ誰にも話すでないぞ……ただし、大砲の手配をすぐに行うように……人材は先日の会議の通りに進める……軍艦は……そちの有坂海運の商船を大砲が届き次第搭載して軍艦とすることに致そう……」


 話の成り行きで海軍慎重派だった私が推進派に転ずることになってしまった……これもすべて自身の失言によるものだけに後悔先に立たずというものだが……なぜか、心躍り、湧き上がる何かを感じずにはいられなかった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ