金属メーカー4社と盃会
明和4年8月25日 相良陣屋
先の評定でも話題にした鍛冶屋、鋳物師が試作品を用意し、相良陣屋に集まってきた。
今後の産業革命計画の遂行に鍛冶屋と鋳物師の統合を進め、効率よく重工業・機械工業を育成するために4つの企業を設立することとした。
プレス機械試作を命じた鍛冶屋を中心としたグループを相良造機。
配管試作を命じた鍛冶屋を中心としたグループを相良鋼管。
燃料タンク試作を命じた鋳物師を中心としたグループを相良鋳造工業。
たたら製鉄関係者を中心としたグループを相良製鉄。
4社の技術者交流会を盃会と称し、定期的に技術交流を行い、製品品質向上と量産規格化を推進させることとした。私は盃会総裁という名誉職に着いた。源ちゃんに押し付けたかったが、曰く「俺っちは現場が大好き」だそうだ。
「有坂総裁、先日の燃料タンクですが、南部鉄器方式は量産性がないため断念しました。ですので、鍍金鋳物のシーリングを変更したものを幾つか持参いたしました。」
「中島社長、これ、接着剤ではなく、ハンダじゃないですか?」
「ええ、こいつで固めてしまえば漆などより良いのではないかと思い、やってみましたが。」
ハンダって、この時代にも普通にあったんだ・・・。あぁ、もう、これでいいんじゃね?漆とかよりガッチリ接着できるし溶接できないならこっちの方が量産性あるし。
「中島社長、防漏試験の結果にもよりますが、はんだ付けの方向でお願いします。」
いきなり想定以上に良さげな物を持ってきてくれたな。やはり、餅は餅屋だな。あれこれ口出すより、大まかな指示出して専門家に丸投げした方が良いね。
「佐々木社長、そちらはいかがですか?」
「そうですね、筒を作るのは慣れたもので簡単ですが、強度を維持しつつ曲げたりなどというのは些か時間が必要ですね・・・。もしくは、ジョイント・・・でしたか?それを別に作って見ては如何でしょう?鋳物ならば容易かと。」
「なるほど、では、中島社長に投げてしまいましょう。」
「プレス機械ですが、存外難しいもので、基本構造は理解しましたが、イマイチ圧力が一定ではない、不十分という結果ばかりです。実用化には今暫くの時間が必要ですね。」
「急がせませんから、じっくりとやってください。今あるものでも、十分に役立つならば、何かの事業に用いれると思いますし。大河内社長、期待していますよ。」
「たたら製鉄から反射炉、高炉というものに製鉄方法を転換しろとのお達し、なかなか難しいものです。やることは最終的に同じですが、構造が違うとその分だけ材料の投入量などが変わりますから、安定したものになるまでは年単位でお時間をいただきませんと・・・。」
「絲原社長、製鉄は近代国家の背骨です。たたらでは供給が追いつかなくなる日が近い。そして、三社が軌道に乗った時、それを支えるのが貴方なのです。期待していますよ。」
試作品の実証試験は、ほぼ想定どおりであったが、やはりジョイント部分がネックであり、これの改良改善がなされなければ密閉タンクがあっても無意味という結果だった。だが、ジョイントを鋳物で成型し、配管と接続する際にははんだ付けで目張りする方向で実用化を狙うこととなった。
ゴムシーリングとアーク溶接が出来ればもっと楽なのに・・・と思うが、ゴムは現実にないし、溶接ははんだ付けと鋳掛けくらいなもんだしなぁ。贅沢は言えない。
なんだかんだで思った以上に成果が上がって驚きだが、さて、どうなることやら。




