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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
新天地相良で一旗揚げよう

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殿中吟味<法螺吹きの開き直り>

明和4年8月13日夕刻 相良陣屋


城下町から戻ってきた私と源ちゃんは、そのまま評定の間に「連行」された。


「意知様、一体何ごとでございますか?」


「三好、井上両名がそなたらを吟味したいと申しておる。故に呼び出したが、そなたらが出掛けてしまった後であったゆえ、相良市中を探させる羽目になったではないか。」


「それは申し訳ございません。有坂殿と市中の鍛冶屋、鋳物師と会合致しておりました。」


「首尾は?」


「数日後に試作品が仕上がる予定でございます。ただし、要求水準に達するまでは暫く時間が必要かと。」


「ほう。ならば、それらをそこの両名に分かるように話してやれ。」


「有坂殿、そなたは我らに隠しておることがあるのではないのか?その隠し事が、例の計画とやらに致命的な齟齬を来すものであろう?違うか?」


「三好殿、意図的に隠したということは、断じてありませぬ。ただ、確かに指摘の通り、計画に齟齬が生じました。それ故、打開策を練るため報告を最低限に留めたのみ。」


「源内殿、相違ないか?」


「井上殿、事態は想定していたものとは確かに違うものでありました。が、それは良い意味での誤算でああったのです。ご説明申し上げますが、ご理解いただくには少々難しゅうございます。」


「源内殿、そなたは我らを侮っておるのか?」


「けして左様なことは・・・。ただ、これは私も正しく理解するには少々骨を折りました。そして、現在もまだ机上の理論として理解できておるのみでございます。有坂殿はそれが故に頭を抱えておりました。」


「如何なることか?」


「ご両名にお尋ねいたしますが、草水とはどのような色であるかご存知で?」


「草水とは黒いものであろう?」


「日本書紀にもある通りで、黒いのであろう?」


「左様でございます。一般的には黒い粘り気のあるもの。しかし、ここ相良のものさにあらず。赤褐色で透き通ったものでございました。」


「それは草水ではないではないか?」


「草水でございます。試しに火をつけましたが、よく燃えました。燃えすぎました。それが誤算なのでございます。本来、黒く粘り気のある草水を想定しておりましたから、この様な高品質の草水は想定外。故に対応を検討しておりました。」


「有坂殿は、黒き草水、これを重油と申されました。それに対して、相良のそれは軽油と申され、異なるものであると。重油は水甕で保管することが出来ますが、軽油は水甕で保管など出来ませぬ。仮に水甕で保管などしたならば、煙管に火をつけただけでも相良市中が大火となりうるのです。」


「大火とな。」


「左様でございます。それほど、管理が難しいのです。しかし、これを扱えるようになれば、年中灯油に苦労することは有りませぬ。菜種などに頼らずとも、井戸から汲み上げるだけで使えるのです。相良市中の街路を毎晩昼間のごとく煌々と照らすことも造作も無いことでしょう。」


「夜を昼間に・・・。そんなことがあり得るのか?」


「可能でございます。また、技術が進めば、蒸気機関ではなく、内燃機関という別系統の機械を実用化することも出来ます。そして、内燃機関に必須の燃料が軽油、つまり、相良の草水なのでございます。」


「ならば、その内燃機関とやらを・・・。」


「技術の段抜かしは出来ませぬ。基礎技術を作り、それを応用し、進化させることしか出来ませぬ。故に、現状では相良の草水は使いみちがないとお考えください。これが現状の結論でございます。」


「それでは、例の計画は進めることが出来ぬではないか。」


「いえ、あくまで産業革命の一部が足止めになったに過ぎません。茶の栽培は、すぐにでも進めることが出来ます。また、飢饉対策と食糧増産に適した作物としてトウモロコシを茶の栽培と平行して行うことで来るべき大飢饉に備えることが出来ます。こちら側を優先して進めるべきかと存じます。」


「三好、井上両名、如何であるか?そなたらの当面の不満と疑念は解消できたのではないか?」


「まだいくらか疑念などがございますが、当面の問題は解決致しました。」


「井上は如何?」


「三好殿と同じく。」


「お待ち下さい。冒頭にお話いたしました試作品についてですが、先程の草水と関係いたしておりますれば、簡単にご説明いたします。」


「話すが良い。」


「相良の草水の特性を考慮し、密閉性を確保した保管用の箱、以後、燃料タンクと呼称いたします。この燃料タンクを鍛冶屋、鋳物師に試作させております。これが実用化出来れば、灯油保管に活用出来まする。また、後日、実用化することになる蒸気機関、内燃機関にもこれの大型化したものを充てることで動力搭載船舶などの実用化も可能となります。」


「なるほど、保管用の箱、燃料タンクであったか、それがあれば草水が使えるのだな?」


「使える前提となります。ですので、実用化まで暫く時間と資金をいただけるとありがたく存じます。」


「資金は潤沢ではないが、融通はさせるように計らおう。」


「ありがたきお言葉。」


「うむ、では、三好、井上両名は有坂、平賀と協力し、燃料タンクの実用化と茶畑開墾を図るが良い。」

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