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明日も葵の風が吹く  作者: 有坂総一郎
タイクーンエクスプレス

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将軍専用列車『タイクーンエクスプレス』<5> 宇都宮駅~日光駅

明和9年1月9日 日光線 宇都宮駅~日光駅


 食堂車にて舌鼓を打った後、家治公は他の車両の案内を求めたが丁重にお断りした。食堂車よりも前方に行ってもズラッと席が並ぶだけで面白いものはないからだ。


 グズる家治公を展望車まで連れ戻り、展望室のソファーに座っていただいた。そして給仕長に食後の珈琲を注文し届けさせた。


「上様、左の車窓に見えますのが宇都宮城でございます。ここまで一刻、2時間の行程です。ここから完成したばかりの日光線に入ります。日光線に入りますと徐々に標高が上がっていきます」


「この宇都宮まで3日も掛かっておったというに、今や一刻で着くのか……」


「はい、このまま東北本線を延長し、仙台まで繋がったときには凡そ四刻程度で結ばれるかと……会津までならば三刻程度となりましょう」


「仙台までもが日帰り出来る距離になると……なんという……ならば上方へも……」


「そうでございますねぇ……経路にもよりますが……五刻程度で結べるかと存じます……」


 家治公は「……五刻……」と呟いたきり考え込んでしまったようだ。


 日光線沿線は典型的な河岸段丘地帯であり、急な傾斜は少ないが段丘を乗り越える分だけ蒸気機関車に負担がかかる。その為東北本線の様な走行速度ではない。結果、単調な景色に飽きが来る。


 家治公は外の景色を見ながら思考の沼にハマっているようだった。


「のぅ民部……そちの鉄道は今どのようになっておる?」


「どのようにとは?」


 突然こちらを向いて家治公は尋ねてきた。


「鉄道を何処と結ぼうとしておるのかと聞いておる」


「……そうでございますねぇ、一口に申しますと、収益が出る……儲けられる路線を重点的に整備しております。その為、絹などの産品がある北関東、鉱物資源のある川越秩父、軍港と製鉄所を設置している横須賀、横浜、東海道の要である小田原が結ばれております」


 北関東の絹製品は今は江戸や上方への出荷が中心であるが、いずれ主要な貿易産品となる。そのために価格競争力と生産性向上を目的に早くから整備した。


 そして秩父の鉄の採掘が軌道に乗り始めた現在、その鉄を横浜へ移送し、九州から運ばれてきた石炭とともに溶鉱炉に放り込んで製鉄をしている。それによって出来た鉄塊はいろいろな用途に加工されて勃興し始めた重工業と製造業に振り分けられている。


 また、製鉄所のフル稼働によって製鉄量が増えたことで木造船の建造から鉄製船へと切り替わっている。これにより船体の強化が可能になり積載量が増えた。そのため石炭輸送など重量物輸送が容易になったのだ。


 この循環作用で現代で言うところの京浜地区は工業地帯として発展し始めている。


「そうか……では、そちは……民部は……上方などには鉄道を敷かぬのか?」


「上方にもいずれは敷きたいと考えておりますが……今は関東と奥羽が優先です……そのためには鉄道の一体運用が必要です……そのためには……国家による鉄道の管理と建設が必要なのです……」


「国家……」


「私企業による鉄道経営もある程度は必要でしょう……しかし、主要な都市間、重要拠点間の幹線鉄道は国家の指導の下にあるべきなのです」


 国鉄化計画を進めるための機会になるならば一気に畳み掛けるべきだろうか?


「そちの望む鉄道の姿が余にはよく分からぬ……民部は……鉄道で何をしたい……そちは鉄道で国と導こうと上野を出た頃に言った……だが、今は国が鉄道を指導するべきという……余には矛盾して聞こえる……どうじゃ?」


 確かに家治公の言う通り矛盾はしている。


 言葉では矛盾しているが、考え方としては矛盾していない……。これをどう伝えたものか……。


「……上様、その問は非常に難しいものでございます……簡単にお答え出来るものではございません……かつて私が別の世におりました際の出来事とその後の経過によるもので、そこから私が出した結論…それが上様がもたれた矛盾なのだと……」


「……そうか、そちの中では矛盾しておらぬものであるのだな?」


「言葉で伝えるには少々難しく……現段階では……ご理解いただくには些か時間が足りないと申し上げるほかございません……」


 鉄道開業から鉄道国有化、海外領土への鉄道敷設、鉄道省から日本国有鉄道、日本国有鉄道から分割民営化、民営化後……これらの歴史を知らなければ伝わらない……それもどれかひとつを抜かしても絶対に伝わらない……。


「民部……そちが鉄道の話題で苦しそうな顔をするのは初めてじゃな……」


「私の居た世界の鉄道は……年々つまらなく……そして利用者にとって不都合なものとなっていったのです……それをこの世界でも繰り返したくはないのです……」


「そうか……それが矛盾の原因なのだな?わかった……そちの世界での話を今宵聞こう……」


「有り難き仰せ……」


 主君と臣下が難しい表情でしていた会話の間に列車は日光駅へラストスパートをかけていた……。

将軍専用列車『タイクーンエクスプレス』<6>へ続きます。明日更新です。

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