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白と銀

 俺と姫さん、メイ姫とスカイを除いたこのクラスの奴らによる阿鼻叫喚の一幕は、予想外の者によって終わりを告げられた。

 突如飛び込んできたピンクの塊が、その小さな体に似合わぬ声量で絶叫したのだ。


「トオオオオオオオマアアアアアアアアアアアア!!」


 まるでこの世の終端を目撃しているかの如く絶望に満ちた甲高い声が、びりびりと教室中を揺らした。

 咄嗟に耳を塞いだ俺と姫さん、自らを犠牲にして主の耳を塞いだオールバックに守られたメイ姫以外は、その不快音に悶え苦しみ...いやカーナとゴルド、アーシュは平気な顔してんな。何だあの化け物共。


「ひどい、ひどいッスよ!なんでオイラになんも言わずに出ていったッスか!オイラ、さびしくて死んじゃうじゃないッスか!」


 ピンクの塊は青ざめた透真君の元へ突撃すると、ぷにぷにぷにと彼の顔面に肉球を押し付ける。


「これがオイラの怒りッスよ!こんな変なところにいるイケナイニンゲンにはおしおきッス!くらえ、にくきゅーぱーんち!どーだ参ったッスか!そんならもうオイラをおいていく...にょにょにょー!?」

「それはこっちの台詞なんすよ我らが守護精霊殿?何故に貴方がここにいるんすかねえ?」


 猫耳の生えたピンクの塊こと我が国の守護精霊をひっ掴み、ぐりぐりと力を込める。猫型精霊のこいつは喋ることが出来るのだが、どうもまだ幼体だからか言動が子供っぽい。

 奴はぐりぐりされて変な顔面になりながらも恨めしげに俺を睨んでくる。


「ゼイド!よくもオイラにかくれてトーマを連れてったッスね!やっぱりオマエは悪いニンゲンッス!」

「ゼ、ゼイド。そろそろ離して」

「うぃっす」


 姫さんに命じられ俺がぱっと手を離すと、すぐさま奴は姫さんの小さな胸に飛び込んでいき、姫さんの超絶テクニックによるもふもふの洗礼を受ける。


「ゼイドがごめんなさい。どうか許してあげてくださいな」

「ふみゅう...しかたないッスね。ゼイド!シアをたぶらかすのもいーかげんにするッス!」

「へいへい」


 ひとしきりやり取りすると、タイミングを見計らっていたかのようにカーナが「それで」と口にした。


「アッズーロ王国の精霊が、何故ここにいるのか、納得出来る説明があるのだろうな。場合によっては力の誇示と見なし、お前達に失望を抱くぞ」

「なんスか、えらそうに!オイラはトーマの精霊、ベィビィ様なんスから一緒にいるのはとーぜんじゃないッスか!」


 小さな胸を張って宣言するベィビィに珍しくもカーナが絶句。

 ぎぎぎ、とロボットみたいな動きで未だ具合の悪そうな透真君に向き直り、唐突に近寄ってその胸ぐらを掴んで揺する。


「貴様、一体何をしている!?国で管理されている精霊を窃盗するなど、どうすればそんな恥知らずな真似が出来る!」

「カーナちゃん、落ち着いて~。そんな乱暴なことしなくても話は出来るわ~」

「違うの、誤解なの!透真様は守護精霊様を盗んでなんかいないから!」


 メイ姫がなだめるように声をかけ、慌ててベィビィを放り出した姫さんが駆け寄り、カーナに待ったをかけるが「お前、精霊がどれほど稀少で畏怖されるべき対象か本当に理解しているのか!?いるかも分からん神とは比べ物にならんのだぞ!」「ちょ、ちょっと!ワタクシ達に喧嘩を売るの止めなさいよ!」「なんかよく分かんないけどさすがオイラッス!」と大騒ぎ。


「ていうか何でベィビィが地味男になついてんの!?私のとこに来たことないじゃん!地味男、ベィビィに何したの!?」


 キーンとなる耳から立ち直った彩たんも参戦し、そこはまるで色んな種類の鳥による大合唱。


「もう~!いい加減にして~!」


 メイ姫がわめき声に堪えられないとばかりに嘆いたが、その癒しのボイスでは場を収めることは出来ない。

 つまり、


「いけ、ゴルド君。声がデカい人の出番だ」

「貴様に命じられる筋合いはないし、少しは自分で何とかする努力をしたらどうなのだ、ゼイド」

「いやあ俺はこういう場面じゃ火に油を注ぐ言動しか出来ないしさあ」


 「全く...」とぼやきながらも、ゴルドは大きく息を吸い込み、


「―――だまれっ!!」


 しん、と教室は静まった。

 皆呆気に取られて、そいつに注目している。

 叫んだのはゴルドではなく、


「...トーマが何か話したそうッス。だまれニンゲンども」

「お前が言うな!」


 俺は皆の気持ちを代表して、騒ぎの元凶であるピンク猫をぐりぐりの刑に処した。






「だからぁ、オイラはずっとトーマを待ってたんスよぉ。しょーかんされたトーマを一目みてビビっときたんス。トーマこそオイラにふさわしいニンゲンだって!」

「私は?」

「オマエは嫌いな種類のニンゲンッス」


 彩たんは不満げに頬を膨らませながらライムにしなだれかかり、またオレットに派手に追っ払われている。


「では、あたしの早とちりか。盗人扱いしたことを詫びよう、透真」

「そんな、全然大丈夫です!いや、精霊に好かれるなんて、僕もびっくりしてますから...普通は有り得ないことなんですよね?」

「ああ。少なくともあたしは、利益を求めず人に協力する精霊というのは初めて知った。もっとも会ったことのある精霊というのも、そこのアッズーロの守護者しかいないのだがな」

「へえ、ベィビィの他にも精霊っているんですか?」

「いる、とはあまり断言出来んな。古くからの書物では精霊の存在は示唆されているが、あたしはこの目で見てみないと、あまり信じられない」

「カーナさんは、カッコいいですね...」

「カーナでいい。あたしもお前を透真と呼ぶからな」


 どうやら今の騒ぎで透真君とカーナの新密度がちょっと上がったらしい。こんな早くからフラグを建てるなんて流石は主人公だ。


「君たち...朝からほんと、元気だね...」


 そこでやっと、というべきか、我がクラスの担任、メンタルの弱いディーゴ先生が登場し、騒ぎは今度こそお仕舞いになった。






 その後は、春のお休み明けだから改めて自己紹介をしたり(既に行われていたことだったので二番煎じと俺に揶揄されて先生は涙目だった)、透真君と彩たんの為に学校案内をしたり(行く先々で彩たんがイケメンに声をかけまくり迷惑がられ先生が謝って回る羽目になり涙目だった)、食堂で皆で一緒にご飯を食べたり(カーナとスノゥ、ゴルドとアーシュ、彩たんとライム、オレットの間で一悶着あったりして先生は涙目だった)、楽しい一時だった。

 ちなみにベィビィは、透真君の肩に素直に大人しく乗っかっており、まるでぬいぐるみのようだった。


 最後は皆で校庭に出て身体能力検査だ。






 攻撃魔法の得意な魔法使い、紫姫オレット。


 支援魔法の得意な僧侶、黄色姫メイ。


 どっちも得意な賢者、銀騎士アーシュ。


 剣が得意な戦士、赤姫カーナ。


 生粋の武闘家、白姫スノゥ。


 剣も拳も自由自在なバトルマスター、橙騎士ゴルド。


 攻撃魔法と剣を使いこなす魔法戦士、水色騎士スカイ。


 拳で戦い支援魔法も扱うパラディン、黄緑騎士ライム。


 遠距離攻撃、弓の得意な...あー、吟遊詩人かな。吟遊詩人のうちの姫さん。


 そして、魔法は使えないし剣もそこそこ、得意なのは相手の気を乱すこと、スーパースター、緑騎士ゼイド。


 そこに透真君と彩たんが加わる。


 魔法適正を調べたところ、透真君は姫さんと同じく魔力はあるけど使い方が下手なので魔法は使えない。ゲームだと完璧超人だったけど現実はそう上手くいかないか。

 彩たんは支援魔法の延びしろがあることが分かった。お前も僧侶か。でもキャラ的には何か踊り子って感じがするんだよな。


 魔法適正検査の後は実戦、皆で模擬戦だ。一対一のガチンコバトルで、どちらかが降参するまで続く。支援専門のメイ姫と、遠距離からちくちく弓で攻撃しか出来ない姫さん、透真君と彩たんを除く八人だ。見学してる皆、俺の勇姿を見ててくれ!


「と、張り切っていた俺ですが、やはり根性だけではどうにもならないと改めて実感させられたのでした。まる」

「君は一体何を言っているんだ?」

「何でもねえよ。いつもの俺の戯れ言だ」


 一戦目にして水色オールバックに容赦なくぼっこぼこにされた俺は、戻ったら透真君に「お、お疲れ様でした...」といたたまれなさそうに言われて更にダメージを受けた。

 やっぱ駄目だね。戦う前に「その済ました面歪めて一泡吹かせてやるぜ!見てろ、今日の俺はスーパーだ!」とかほざいてた俺を殴りたい。


 オールバックは戦いの後の疲労など全く感じさせずに、引っ付いてくる彩たんに時々構いながら、メイ姫と和やかに会話している。

 何となくむかついたので姫さんに「俺、頑張ったんすよ」と主張したら「だったらもう少し真剣に戦って。もうっ」と言われた。確かに戦闘中に亀の流派の技構えで「見よ、奥義!破ぁッ!」とかやってたけども。


 今は二戦目、カーナとスノゥの仁義なき争いが繰り広げられている。


「ひゃっはははは!!死ね、死ねよ、おぉん!?鬱陶しいんだよ駄肉ぶら下げやがって!さあ死ね!苦しんで死ね!!駄肉の重さでよろけて転んで死ね!!」

「やはりそれがお前の本当の姿か!あたしは嬉しいぞ!」

「何だテメー被虐性愛者かよきっもちわりぃな!!おとなしくオレサマの餌食になりやがれ!!」


「...あの神の御子、後で泣かせます」


 戦闘に夢中になって豹変しているスノゥも怖いが何より俺の背後で笑顔で呟く銀色が恐ろしい。てか何で俺の背後にいんの?


「スノゥちゃん、きっと疲れちゃってるのね~。後で精神安定の効能がある薬草茶を淹れてあげるわ~」


 疲れてるってより憑かれてるって感じだけどな。スノゥ、かなりストレス溜まってるみたいだ。巨乳カーナへの嫉妬も含まれてるし。


 しかし剣と拳のぶつかり合いだが、なかなかどうして接戦になっている。

 剣の基礎をきっちりこなしたことで染み付いた動きによる真っ当な戦い方のカーナと、型なんてあったものじゃない目潰し不意打ち当たり前のとにかく急所を抉りにいくスノゥ。対照的だ。


 スノゥは姫だが、実は彼女は貧民街で育っていたりする。


 皇王が侍女に手を出して身籠ったのがスノゥで、醜聞を恐れた皇王は侍女とお腹に宿るスノゥを貧民街へと追いやる。侍女、つまりスノゥの母親はスノゥを産んですぐに、力尽きてしまう。その後スノゥは、なりふり構わぬ母親から、必死に子供のことを頼み込まれた貧民街のボスの元で成長する。


 しかし十三年後、皇国の王族は流行り病によってばたばたと病臥する。

 王族が絶えかねん危機に、一部の忠実な臣下達はスノゥの存在を思い出し、騎士見習いアーシュが何とか彼女を見つけ出して城に連行し、教育を受けさせた。

 スノゥは最初こそ反抗心剥き出しだったが、鬼畜腹黒銀騎士アーシュの「お仕置き」によって、儚げな外見にふさわしい「高潔な神の子」になっていったらしい。


 そうこうしてたらあーら不思議、王族は、生け贄を捧げることで機嫌を良くした神の力で皆元気になりました。

 王女教育を受け国民にお披露目も済ませたスノゥを今更貧民街に帰す訳にもいかず、彼女はアーシュをお目付け役として、第二皇女となるのでした―――というのが白姫スノゥルートで明かされる彼女の出生である。

 余談だけど彼女の素の一人称「オレサマ」は、育ての親譲りだ。


「いい勝負だった!あたしは感服したぞ!」

「ちっ...尽く小細工を破りやがって」


 回想してるうちに二戦目が終わっていた。カーナが勝ったらしい。

 スノゥは憎々しげにカーナを睨み付け―――アーシュの綺麗な笑顔を目にした。

 瞬間、顔を青くし方向転換。逃亡を図るも、あえなく確保。


「さて?逃げるということは自らの落ち度を認めたということでよろしいでしょうか」

「いぃぃぃいいいやあああぁぁぁあああっ!!」


 校庭に、一人の少女の叫びが木霊していったのであった―――

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