色々自己紹介
死闘を繰り広げる四人の後ろをすたすたと通り過ぎ、席につく。
ぎょっとしている透真君と今にも飛び込んでいきそうな彩たんを手招きして呼び寄せる。
ちなみに姫さん、メイ姫とスカイは慣れっこなので何事もないように自分の席にいっている。姫さんの席は俺の前である。
「あの、止めなくていいんですか?」
「透真君大丈夫だよ、あいつらはあれが平常運転だから。むしろ関わると厄介だから」
「えー、私ゴルドとアーシュに話しかけたーい!駄目?ゼイドきゅん」
「彩たん、後でね」
「...ねえゼイド。私思ってたのだけれど、何故二人はそんなちょっとおかしな呼び方をしているの?」
「ノリ」
四人でわいわい会話してると、負けじとあっちの四人も声を張り上げる。競ってる訳じゃないんだけどな。
言い合っているのは、攻略対象の、赤の姫、カーナと白の姫、スノゥだ。それとその二人の騎士。
カーナは男勝りな性格だ。真っ赤な髪の毛を短く切り揃え、凛々しい顔立ちも相まって、よく美少年と間違えられる。
スノゥは反対に一度も切ったことないんじゃねってくらい髪が長い。髪も真っ白だが肌も真っ白で、儚げな印象を与える。
この二人の争いは最早恒例行事なので気にしなくていい。
ちなみに髪の長さは、白、青、紫、黄色、赤の順に長い。黒?あいつは魔界だよ。
あれ、この順何かデジャブと思ったら、胸が小さい順と比例してんな。
カーナの橙騎士であるゴルドと、スノゥの銀騎士アーシュの対立もいつも通りだ。
ゴルドはゴリゴリ系イケメン、アーシュは腹黒系イケメンだ。
「大体、目に見えないものを信仰するなどおかしいだろう。自らの先祖を崇拝するならともかく」
「まあ!主はワタクシの先祖であらせられましてよ。ワタクシ達王族は、尊き神の血を受け継いでいるのですわ。って、これ前にも何度も言っただろうがよ!ったく物覚えの悪ぃ女だな!」
「スノゥ様、口調。またお仕置きされたいのですか?」
「はっ、も、申し訳ございません。ワタクシとしたことが...!」
カーナと言い争ってヒートアップしたスノゥが思わぬ形で素を晒したが、にっこり黒い笑顔のアーシュに脅されて半ば怯えながら作り笑いした。
「そうやって自分を偽ることに何の意味がある?心のままに生きられないなど、そんなものは人間ではない!」
「貴女方に口出しされる義理はございません。スノゥ様は我らが神の御子。それは覆されることのない事実なのですから」
「気持ちの悪い男だ。お嬢、こんな奴らと関わる必要などない」
「しかしゴルド、仮にも彼女らは、魔王を倒すという同じ志を持つ者だ。あたしは近くに無理して笑っている者がいることが堪えられない」
青春してるなあいつら。
「ゼイド・ヴェルデ!あたしが言っているのは貴様もだ!」
うわっ。
カーナがぐるんっとこちらに首を向け、大人しくしていた俺の元へつかつかとやって来た。
「あたしは作り笑いが嫌いだ。何故自分を偽る?シア、お前も自らの騎士をこんな有り様でいさせていいのか?」
「ゼイドは...確かに、笑って誤魔化すことが多いけれど」
胸が痛い胸が痛い。
「でも、私は本当のゼイドを知ってる。ゼイドはね、ちょっと、人見知りなの。勘弁してくれると嬉しいわ」
頼み込む姫さんを、カーナは烈火のような瞳でねめつけていたが、やがてふいっと視線を外し吐き捨てるように言った。
「その人見知りに良いようにやられないように、手綱を握っておくことだな」
カーナは続いて透真君と彩たんを睨み付ける。
「編入生というのはお前達か。教師が来るまで待っていられん。今自己紹介しろ」
「空井透真、です。えっと、よろしく」
「安達彩!よろしくゴルドー!」
彩たんは立ち上がると、カーナの横を素通りし、後ろに控えていたゴルドに駆け寄った。
「なっ!」
「ほう、あたしを無視するとはいい度胸だな。ゴルド!にやけ面を晒すな、みっともないぞ!」
「まさかっ!?己はお嬢一筋だぞ!?」
「おやおや、ゴルドさん、貴公、浮気性ですか?このアーシュ、幻滅致しましたよ」
「ばっ、馬鹿なことを言うな!」
アーシュはここぞとばかりに煽っていく。あの銀色怖い。
しかしゴルドもゴルドでもうそろそろ彩たんを剥がした方がいいんでないかい。カーナの目がどんどん冷えてってるぞ。
とはいえゴルドがあの水色オールバックみたいにさりげなく彩たんを離せるとは考えにくいな。
「だーかーら!彩たん!俺を放っておくなって!俺とは遊びじゃなかったんだろ!?」
「やだーゼイドきゅんったら嫉妬!?焼きもち焼かれるのって以外と嬉しいもんなんだね!」
「な、な、な、ゼイドっ!き、貴様、主がいながら!」
「やだなあゴルド君!俺はいつだって真面目にふざけてるんだぜ!?」
「な、何だと...?」
やっと冗談だと悟ったのか、ゴルドは勢いを失う。
彩たんは、俺が嫉妬したというのは本当だと思ったらしく、今度は俺に抱きついてきた。
「もおーゼイドきゅんったら心配性ね!」
「当然だろ、俺だぜ?」
「安心して、私はゼイドきゅんのこと大好きだから!」
「ちなみにだけど具体的にどこが好きなの?」
「顔!」
この女...。
「屑ですわね」
ぼそりとスノゥが呟いた。幸いにも今の発言はアーシュには聞き咎められなかったようだ。
「あの、彩さん。ゼイドさんが困ってるから...」
「うっせえ地味男」
辛辣過ぎるだろ!透真君主人公だぞ!
「何はともかく~、私達も自己紹介した方がいいんじゃないかしら~」
「そうですね、透真さん達も、いきなりたくさんの人に囲まれて驚いたでしょう。ゼイド、本来なら君が提案すべきことだろう?」
メイ姫ナイス。それと正論ありがとうオールバック。八つ当たりしたくなるぜ。
俺は彩たんを引き剥がし、姫さんを見る。
頷いた姫さんが立ち上がる。
「えっと、じゃあ改めて私から。私はシア・ティアナ・アッズーロと申します。アッズーロ王国の第一王女です」
「姫さんの騎士候補、ゼイド・ヴェルデっす。覚えてくれなきゃやーよ」
召喚した国の、青の姫。嫉妬に狂った緑の騎士。
「メイ・ゲルブと言うの~。ゲルブ王国の第三王女で、シアちゃんとは幼馴染みなのよ~」
「メイ様の騎士候補、スカイ・ヘルブラウ。何か困ったことがあったら、相談に乗るよ」
青の隣国の、黄色の姫。爽やかな水色の騎士。
「カーナ・ソール・ヴェルメリオだ。ヴェルメリオ帝国皇帝の娘。あたしは甘くないから心しておけよ」
「ゴルド・ジラソー・ラランジャ。この身は全て、カーナのものだ」
帝国の、赤の姫。忠義を尽くす橙の騎士。
「スノゥ=サン=リュンヌクラルテ=ブランシュと申しますわ。ブラン皇国の第二皇女ですの。どうぞ、よろしくお願いいたしますわね」
「スノゥ様の騎士、アーシュ=アルジャンと申します」
皇国の、白の姫。姫を操る銀の騎士。
そして。
「「......」」
これまで、席で沈黙を守ってこちらにちらりとも目を向けなかった、二人組。
亡国の、紫の姫。共依存の黄緑の騎士。
オレット・ウィオラーケウス姫と、騎士ライム・フラウムウィリディス。
「オレット姫、ライム君。さあ続いて華麗な自己紹介を見せてくれ!」
ばーん!と指鉄砲で撃っても二人がこっちを見ることはない。
信じられるのは自分達だけ、と頑なに思い込んでいるあの二人は、誰とも話さず、目を合わせず、常に二人で行動している。
この中で最もこの二人と付き合いが長いのはスノゥとアーシュだが、彼らも親交を深めることを既に諦めている。
だが、残念ながら今ここには、そんなもん関係ないとばかりに突っ込んでいく女がいる。
「うわーライムって案外暗かったんだね!ヤンデレなのは知ってたけどいかにもって感じ!でももう大丈夫だよー何たって我、ヒロイン!ずーっと仲良しでいようね!」
彩たんは二人の席に走り寄ると、まじまじとライムの顔を眺めて微笑みかけた。
そのままライムの手を掴んで握りしめる。
「ぅがぁっ!やめろっ、ぼ、僕に触るな!」
「じ、自分のライムに、触らないで!」
ライムは彩たんの手を強引に振りほどき、オレットは眉を吊り上げて彩たんを突き飛ばす。
「おおっと危ねえ!無事かい彩たん」
「うんありがとうゼイドきゅんっ。でもひっどいなあ、突き飛ばすことないじゃーん」
バランスを崩した彩たんを俺は颯爽と受け止め、彩たんはオレットに非難するような視線を送る。
「じ、自分達に、関わらないで...!」
絞り出すかのようなか細い声で、オレットは拒絶した。
「関わるな、か。口を開いたと思ったらそれか。他人と協力も出来ぬ輩に魔王を倒すことなど不可能だと思うがな」
「なっ...!」
「あーら、貴女が言えることではありませんわよね?ワタクシ、貴女程協調性のない人も珍しいと思うのですけれど」
「何だと!?」
何でそこでカーナとスノゥのバトルが勃発してるんですかね。
「この組~、大丈夫かしら~。すごく不安だわ~」
「透真さん達が来るまでも一年間同じ面子でしたが、事件がなかったとは言えませんしね...。勿論メイ様は私がお守りしますが」
「スカイの良いところはそこだけど~、他の人に目を向けないのは悪いところでもあるわよね~」
「は、善処します」
メイ姫とオールバック野郎はどこか安定した会話を続けている。
「そもそも、女人に対して邪な感情を抱くことすらアーシュは汚れだと思うのですよ。その点二股のゴルドさんは...」
「だ、だから、己はお嬢一筋だと言っているだろうが!」
アーシュとゴルドは何なんだ。お前ら仲良しか。喧嘩する程何たらか。
「ぼっ僕に近付くなぁっ!」
「ひっどーい!私、こんなに可愛いのに!」
「そういう問題じゃ、ない!いいから、自分達に関わらないで!」
「彩さん、流石にしつこ...」
「うるせえってんだろ地味男」
オレットとライムに絡む彩たんは相変わらず、透真君に辛辣ね。
「...ゼイド」
「何すか姫さん」
「この先この組でやっていけるかしら?」
「多分近いうちに崩壊すると思う」
「そうだよね」
「っすね」