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06 リアルとリアリティ


 作品を読んで、『面白い』と思うポイントはなにか?

 これを考えると、場合による、としか言えない。

 かわいい女の子がキャッキャしているだけで喜ぶ人もいれば、劇画調な男臭さに萌える人もいるわけで。

 読者個人個人の好みだけでなく、作品によっても異なってくる。

 人間模様に主眼を置いた作品と、アクションに主眼を置いた作品では、見方も見るポイントも変わるに決まっている。


 これを無理矢理にでも万人共通の概念にしたとすると、リアリティがひとつのキーになるように思う。(『無理矢理』『ひとつ』なので、異論があってもここでは受け付けることができない。異論ある方は是非とも別方向の論を考察して頂きたい)



 ○ ○ ○ ○ ○ ○



 まずひとつの結論として。

 リアルとリアリティは、別物だ。

 だが無意識に同一視している人が、結構いる。当人すら気づいていないことなので、正確なデータ取りなんてできないが、経験則では決して少なくない。


 リアルは、現実であり、真実だ。

 見る人が信じるか信じないか、記された資料にどれほど信憑性があるかは別問題として、『事実は小説より奇なり』な嘘っぽい出来事だったとしても、現実に起こったと認めるしかない。


 対してフィクションの中にあるのは、リアリティだ。

 嘘の中にある本物っぽさ。

 ということは、結局のところ、リアリティとは嘘だ。


 リアルは現実(ノンフィクション)の世界にしかない。

 リアリティは架空(フィクション)の世界にしかない。

 リアルは現実。

 リアリティは虚構。

 曖昧な部分を排すると、こういう違いになる。


 だから『リアリティ=現実感・真実味』だけで考えると、リアルとの違いが理解できない。

 これは文章で説明しても、理解が難しいと思う。一度理解できればなんてことないのだが、普通は壁を認識できない。『なにがわからないのかわからない』な状態になる。


 画像・映像のほうが、まだ感覚的には理解しやすいと思う。

 現実の人間と比べると、アニメのキャラクターは、オーバーアクションに描かれる傾向がある。(演劇でもそういう傾向あるけど) 日本人の日常生活からしてみれば、身振り手振りが大げさで、『そんなヤツいねーよ』と思う行動が、当たり前に描かれる。

 オーバーアクションはリアルではない。だがフィクションの世界では、むしろ嘘を盛り込むことが、リアリティとして結びつく。



 似たような、批難に使われる言葉として、『リアリティのなさ』と『現実離れ』というのがあるが、これもまた混同されがちだ。

 『現実離れ』は厳密には、ただの説明や事実指摘であって、正しい意味では批難ではない。

 異世界に転生? 剣と魔法の中世ファンタジー世界? そこで大魔法使いになって大活躍?

 ンなこと現実に起こるワケがない。それは誰もが認めることだろう。

 だから、現実離れしている。たったそれだけで、面白さや評価とは本来ならば関係がない。


 リアリティのなさは、それとは違う。

 言い換えれば『説明不足』『説得力がない』『作中世界の常識から逸脱している』とでもなるだろうか。

 フィクションの世界にも、物理法則やルールは存在する。

 その設定が現実離れしていようといまいと、どうでもいいのだ。

 それを無視した展開を作った場合に、『リアリティがない』と批難される。



 で。基本的には、フィクション世界の物理法則やルールも、現実に即している。作品を書いている人間も、読んでいる人間も、現実に生きている人間なのだから、そうなるのは当たり前といえばそうなのだが。


 リアルとリアリティは違うものだとしても、認識する過程は、途中までは同じになる。

 

 リンゴはリンゴだ。

 現実(ノンフィクション)でも虚構(フィクション)でも、その言葉が示すものは、普通ならばあの赤くて丸い果実だ。

 だが例えば小説内で、『リンゴに噛まれた』と描写されていたとしよう。

 読者は理解できない。当たり前だ。

 作者はフィクション世界でのリンゴとは、食獣植物の紫色の地下茎などという、現実離れした設定をしているのだから、説明なしに他人に理解できるはずがない。

 だから『リアリティがない』と批難される。


 極論を出せば、こういうことだ。

 認識の差を埋めるためには、『この世界のリンゴとは食獣植物の紫色の地下茎』と明記しないとならない。

 『現実(ノンフィクション)リンゴ(リアル)』と対比をなすように、『虚構(フィクション)のリンゴ』という認識(リアリティ)を作らないといけない。

 別物だとしても、繋がっているのだ。

 だからこそ、リアルとリアリティの混同が起こる。



 ○ ○ ○ ○ ○ ○



 そして最も問題なのが。

 人間の認識では、現実(リアル)が曖昧なのだ。


 ちょっとディスプレイから顔を上げて、周囲を見回していただきたい。


 あなたが見ている景色は、本当に現実に存在するものだろうか?

 高度なバーチャル・リアリティ技術で、データを直接大脳に送られることで認識している世界ではないだろうか?


 あなたの近くにいる人は、本当に人間なのだろうか?

 見た目やしゃべっただけでは違いが理解できない、精巧なロボットではないだろうか?


 ほとんどの人は、『ンなワケあるか』と一顧だしない。

 少数の人は、『面白い考え方』と笑う。

 ごく一部の人は、『もしかしたら……』と恐怖する。


 小説論などからかけ離れて、認識科学や心理学や哲学の問題になるので、これ以上は触れないが、要はこんな感じで個人差が生まれるのだ。


 現実は現実だ。そこにある物・事だ。

 しかし個人が認識する『現実(リアル)』と、イコールで結ばれるとは限らない。

 自身の経験や知識を下敷きにして認識するので、現実だとしても、それが『現実(リアル)』とは思うかは別問題になる。



 ゲーム的なスキルやステータスなんてものは、この傾向が強い。

 この辺りの感覚は、テーブルトークなどのアナログゲームをある程度プレイしたことある方なら、ご理解いただけると思うのだが。


 ゲームでのステータスなんて、存在しなければプレイできないが、同時に束縛でもある。


 ポイントなり金銭なりを支払ったり、経験を積むことで、キャラクターがスキル(技・魔法)を修得する。

 ゲーム的にはごく普通に定められているルールだ。

 人間が経験を積んで技術や知識を習得することから考えても、現実に即していると言えるだろう。


 しかし現実に生きるプレイヤーから見れば、そのキャラクターは、スキルを持っていない行為はできない、アドリブの効かない人形とも言える。


 槍術スキルを持つキャラクターが、槍を持っていない時、戦えないのか?

 そんなわけはないと思うだろう。現実の武術では、槍術と棒術・棍術・杖術は切り分けているが、共通項はいくらでもある。武術の心得がなくても、力任せに振り回すだけで、並みの人間は対処ができずに打ち据えられる。


 対人スキルが高い人から見れば、説得スキルや話術スキルなどの存在が理解できなくなる。頑固な人でも態度や話の仕方で軟化させることができると思うのだから。


 それらは現実を極端にデフォルメしたもので、フィクション内の現実(リアリティ)とはまた異なる。

 ゲーム内でしか通用しない『俺ルール』であって、誰しもの納得が得られるとは限らない。



 アナログゲームでは、ゲームマスターの裁量や、他プレイヤーとの話し合いですり合わせることができるが、そんな存在がいないデジタルゲームでは顕著になる。


 ゲームでは最低ダメージが1で、時間をかければどんな強敵でも倒せるとしても、現実にはデコピンやシッペで死ぬことまではちょっと考えにくい。


 武器が持つステータス、攻撃力という数値の存在も、現実には考えにくい。重量から衝撃力を計測し、鋭さを加味して単位面積当たりにかかる力を算出できるが、それだけだ。初期装備から最強装備といった大きな違いは、猛毒や強酸で覆われているか、超自然的に『触れたら死ぬ呪い』がかかっていると思うほか、存在ができない。


 だがプレイヤーは、そういった不都合や不条理は、『そういうもの』で納得しなければ、プレイできない。

 同時に、納得しようとしまいと、重視はされない。ゲームをプレイする目的は戦闘であったり、進行であったりするので、不都合や不条理の解消は二の次三の次になる。



 そしてゲームと比べれば、小説は現実に近い位置にある。

 オープンワールド系と比べても自由度が段違いであると同時に、束縛も段違いに多くなる。

 だから『リアリティのなさ』というものが、ゲームと比べて無視しづらくなる。ゲームでは無視できた設定の穴を埋めないと、批判の声も上がる。


 ゲーム的な不条理世界が、そのフィクション世界での現実だと思っても、違う人間にはフィクションでもありえない、リアリティのなさにしか見えない時もある。

 認識する現実(リアル)に個人差があるなら、自然とリアリティにも差が生まれてくる。

 『面白い』がリアリティとするならば、当然ここから『面白い』の差にも繋がっていく。


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