事故の後の光と影
『川野夏葉さん、将太さん、診察室5番にお入りください。』
コンコン。ドアをノックする
「失礼しま~す」夏葉はもしものことがあったらといつもになく緊張していた。
「え~まずは夏葉さんから。脳には異常は見られませんでした。ただ、頭痛や吐き気がある場合がありますのでそのお薬は出させていただきます。足のほうは足首の捻挫2度です。全治3週間、完治6種間ほどですので、3週間は固定して、同程度お近くの病院でリハビリをしてください。」
よかった。どうやら夏葉は自分に異常がないようで少しほっとした。後は将太だ。
「続いて将太さんですが、足の粉砕骨折ですね。全治6か月くらいかかるかもしれないです。」
「えっ!?そんなに掛かるんですか!?」
私に驚きという感情が伝わるより前に将太が口を開いた。
「そうですねぇ...もともと足は骨がかなり太いですから、治るのも時間がかかるのですよ。しかも粉砕骨折となるとなおさらです。出来れば8か月を見込む方がよさそうです。さらにリハビリが必要ですから、完治には1年必要だと思われます...」
いっ、1年...
かわいそうだ。大学生活にもかなりの支障が出るだろう。
「それまでは松葉づえ生活ですね。」
絶望しながら夏葉たちは診察室を出た。
まさかこんなことになってしまうとは。
「姉ちゃん、なんか、ごめん。」
ショックで夏葉は将太のこんな言葉にも返すことができなかった。
◇◇◇
結局涼介の運転する快特列車は三崎口で一度折り返し、終着の京里久里浜へは8分遅れで到着した。
到着すると乗務員室で涼介は誰かに呼ばれた。
「お~い、ドアを開けてくれ~」
「祥吾先輩。どうしてここに?」
祥吾先輩は京里電鉄の大先輩の運転主任。彼は涼介たちを恰好のいじり相手にしている。
ドアを開けると、
「そりゃっ。そこどけ~」
「わわっ、押さないでください!」
涼介は乗務員室から押し出され、ホームに出た。
「じゃあな~。次の列車にでも乗っていけ~」
そういい、彼は涼介のバッグと乗務行路表をホームにおいて列車を運転して行ってしまった。
「全く、ひどい先輩だな...」
そう独り言を言い、涼介は駅の待合室で今度の久里浜止まりを待つことにした。
『まもなく、2番線に、当駅止まりの列車がまいります。黄色い線の内側にお下がりください』
さっ、列車が来た。涼介は、到着した列車の乗務員室をノックした。
「すみません。ドアを開けてください。」
涼介の声に振り返った運転士を見て、涼介はドキッとした。2つ年下の後輩女性運転手の望海さんである。《とてつもなくかわいい女性運転士が新町検車区にいる》と文庫検車区内で噂になっていた張本人である。涼介は過去に車両故障で涼介が運転する列車が運転取りやめになったとき、品川から品川の留置線までだけほんの少しだけ一緒に乗せてもらったので文庫検車区内では数少ない彼女との顔見知りだ。ただ、今回は品川から品川留置線までの時と距離が違う。今回は2駅分くらいの距離を乗せてもらうことになるのだ。とてつもなく緊張する。脳裏に祥吾先輩を思い浮かべて、「あいつフザケンなよ」と心の中でつぶやいた。
「えっ、涼介先輩、なぜここに?」
「いっ、いや、あっ、あのさ、祥吾先輩に置いて行かれてさ、あっ、相乗りさ、させてくれない?」
「えっ、ええ、大丈夫ですけど。でも大丈夫ですか?顔真っ赤だし大汗かいてますよ?」
「いっ、いやいやいや、全然大丈夫だから、気にしないで!」
望海さんはとてつもなくかわいい。何を話せばいいんだ...と真っ白な頭で考えていたが、先に口を開いたのは望海さんさんだった。
「涼介先輩は彼女さんとかいるんですか?」
えっ、それ聞くの!?涼介に衝撃が走った。
「いっ、いや?いないけど。」
「良ければ、わっ、私と、つっ...付き合いません?」
「...!?...えっ、なっ、えっ!?」
「だっ、ダメ、ですか...?」
よく運転しながらそんなことを言ってられるもんだ。ただ、横顔でも少し頬が赤く染まっているのが見える。
「あっ、ありがとう...。こんな俺でもよければ...」
列車はポイントを渡って、久里浜車庫へ入る。
同時に涼介の人生もガラッと変わる瞬間だった。
「何て呼べばいいですか?涼介先輩、あの...《涼ちゃん》で、どうですか...?」
「うっ、うん。そっちは、何て呼べばいい?《のんちゃん》、とかかな...?あっ、安直す...ぎ?」
「い、いやいや。のんちゃんだなんて、とっ、とっても嬉しいです!涼s...涼、ちゃん。」
明らかに望海さんの顔がさっきより赤く染まっている。涼介は緊張と興奮でもう心拍数がとてつもない速さで倒れそうだ。
「あっ、ありがとう、の、の..のん..ちゃん...」
キキッ!
列車は正確な位置に停車した。一足先に涼介は線路に飛び降りた。
「のんちゃん、だっ、大丈夫?」
「だっ、大丈夫...」
涼介が差し伸べた手を望海はそういいながら握った。
涼介はもう死にそうなほど息苦しかった。望海がとても長い髪を揺らしながら降りてくる。その顔は真っ赤に染まり、近くで手を添える涼介には彼女の小さな吐息が聞こえてきた。
彼女が降りきったあと、涼介はまじまじと彼女を見た。
「どっ、どうしたの...?」
「あっ、あの...」
「...」
「...」
涼介のファーストキスは彼にはもったいないほど綺麗な望海とだった。
突然の思い付きで話が思わぬ方向に進んじゃった...
なんか少女漫画みたいで申し訳ないです。
あと、この辺は後々ブレークタイムを作るつもりです。その時はぜひそちらも読んでくれると嬉しいです。