7:バロンお留守番対策?
長い、本当に長いバロンとの戦いだった気がします。
2連戦は、バロンはともかく私にはきつ過ぎますよ!
バロンは今、お母さんが購入してきたクッションを物色中で、フンフン、バフバフしながら、クッションを鼻で押したり、上に載ってぐるぐる回ったりと大忙しです。
「つ、疲れたよ~~」
そんなバロンの後ろでは、まるで敗残兵のような私が倒れています。
もう、髪はぐしゃぐしゃ、顔中涎塗れ、服もよれよれなのです。
相対していたバロンも、同様にもうグシャグシャになってしまっているので、後でブラッシングは必須ですが、これはお父さんかお母さんにお願いしましょう。そうしましょう。
もう、興奮したバロンは手加減が甘くなるのです。もともと、私の方が力負けするのですが、普段の遊びの範囲であればバロンはちゃんと手加減してくれるのです。
ただ、ご機嫌斜めになっての状態だと、その手加減が甘くなってしまいます。
ガウガウハウハウバフバフと、もう降参してますよ~~って私がしても、飛び掛って体当たりしてくるんですよね。頭でゴンゴンしてくるし、で、仰向けになろう物なら前足で、肩を押さえられて顔中べろんべろんに舐められます。
どうやら、合格頂けたようでバロンはクッションの上でドベッって俯せになってくれました。
良かったです、もし気に入らなければ口に咥えてバッタンバッタン振り回しますから。
中の綿や羽根が部屋中に飛び散らかしますからね。
ともかく、私はテーブルまで這って行き、何とか椅子に腰を落ち着けました。
「はぁ、お母さん紅茶頂戴」
「え?無いわよ?」
「へっ?それなら、さっきから飲んでるのは?」
「さぁ?ただ、味は緑茶に近いかしら?色は紅茶だけど」
むぅぅ、今の気分は紅茶なのですが、妥協するしかありません。
「もう、それでいいからください」
ともかく、お茶を飲みながら一服しながら、これからの事を相談します。良く考えたらこちらに来てから何の打合せも出来ていません。
「で、この後どうするの?私が来るまでに時間があったと思うし、お父さんと何か話あったんでしょ?一応、バロンはバロンって事はすっごく良く解ったけど」
「ええ、確かに細かい所では違いがあるみたいだけど、気になる程じゃなかったし。こっちへ移転するしか方法は無いって事にはなったの。ただ、誰もこっちにINしない時間が長くなるので、そこが問題?」
やはり、お母さん達も幾らかは話し合っていたみたいです。もっとも、私が来るまでに体感で16時間以上あった訳ですから、もし何も話せていないならプンプン物ですけどね。
「お父さんには、一応街中でのバロン用の買い物をお願いしているのよ?あと、ペットホテルみたいな物はないかなって思って」
「そうなの?てっきり遊びに行ったと思ってた」
私の言葉に、お母さんは苦笑を浮かべるけど、日頃の言動を考えれば仕方がないはずです。
ただ、ペットホテルかぁ、でもそれだと家にいるよりペットホテルにいる時間の方が多くなっちゃわないでしょうか?
そんな時、運営からのアナウンスが入りました。
”日頃より、MMOVRRPG異界への扉をご愛顧いただき、大変ありがとうございます。この度、弊社にてご提供させていただいておりますゲーム、ほのぼの動物ライフとの統合テストにご参加頂けている方々に、新たな仕様追加のご連絡をさせていただきます”
その後、細々とした変更点が上げられたのですが、その中で大注目なのはホームにおける時間進行概念の設定自由化です。それによると、ホームに所属するプレイヤーがINしていない期間は、ホーム内の時間経過が行われないとの事でした。これはすっごい大きな変更です。
やはり要望が沢山寄せられたのでしょう。
「あら、助かったわね、久しぶりにINしたらペットが餓死してましたじゃ笑えないわよね」
ぽろっと怖い事を仰いますねお母さん、想像しちゃったじゃないですか!
ただ、痩せ細ったバロン・・・駄目ですね、想像が出来ませんが?
兎も角です。これで一つの懸念は解決でしょう。
寂しがり屋のバロンが、何日も誰も来なくてクンクンと泣いているなどという事が無い、これは素晴らしい事なのです。
「バロン、よかったね、これで寂しく・・・」
”合わせて、皆様の携帯端末でペットの育成が可能になります”
「え?なんですと!育成ですか!」
いえ、その、育成が悪い訳では無いのです。ただ、10歳のバロンを今更どう育成しろと?
ご飯やお菓子を食べすぎて、丸々のふわふわモコモコになったバロンしか思い浮かびません。
「あらまぁ、でも、これ誰かの携帯端末内で世話をするのかしら?それとも、どこかに繋げるのかしら?」
お母さんは、どちらかというと前向きの発想ですね。お世話をする気満々ですね。
「なんか昔に似たようなゲームがあったわねぇ」
そうなんですか、昔にもそんなゲームがあったのですか。
でも、携帯端末でもミニゲームくらいしかやった事ない私なんです、育成ゲームは未経験なのです。
「それより、バロンの」
「帰ったぞ~」
私が話始めようとした時、お父さんが帰って来ました。
バロンの物を買いに行ったはずですが、でも、手ぶらですよ?
「ヴォン!」
さっきまでクッションでごろんとしていたバロンも、お父さんの姿を見て突撃します。
通常仕様です。いつもの事です。ついでに、お父さんに飛び掛っているのは、きっと諸悪の根源がお父さんだと解っているからなのでしょう。
「おお~~バロンご機嫌だな!」
飛び掛ってくるバロンをあやしながら、お父さんは何かを掌に乗っけました。
おお、ボールです!こっちにもボールはあるんですね!
「ウヴォン!」
もう尻尾振り振りです。お尻振り振りです。ボールに熱い視線を注いでいます。
でも、すっごく問題があると思うのです。
「お父さん、そのボール投げないでね。こっちのホーム狭いから」
「な!」
ボールを手に持ったまま硬直するお父さんを横目に、お母さんはテーブルの上を片付け始めました。
そうですよね、このまま何事も無く済むはずないですよね?
「そ、そうだ!バロン、ほら豚の耳だぞ!」
新たに、お父さんは豚の耳を取り出しましたが、それ名前がオークの耳になっているんですが、良いのでしょうか?なんとなく、動物ライフで買ってた物より一回り以上大きいような?
ただ、バロンはそんなあからさまな誘導には引っかかりません。バロンの視線はしっかりとボールと豚の耳両方へと注がれているのです。二兎を追うのですね、流石はバロンです!
まさに、バロンの情熱が迸るように、あわせて涎が垂れてます。うんっと、どちらかといえば豚の耳に意識がとられがち?
「ほれ、バロン、豚の耳だぞ~~、美味しいぞ~~」
「ヴォン!」ハグハグ
目の前に差し出された普段より大きめの豚の耳に、バロンは大興奮で、尻尾もいつもより多く振っています。でも、ちょっとしっとりしてきてますね、そろそろ美容院へ行かないとかな?あ、でも、こっちにペットの美容院などあるのかな?
「お父さん、ブラシは?ブラシはあった?」
「おお、ペット専門って謳ってるブラシは全滅だったから、こんなの買ってきたぞ」
目の前には、なんか透かし彫りまで入った、あきらかに人用のブラシです。うん、でも、これだとバロンの毛が絡まったりした時にはもちません・・・。
「他のはなかったの?もっと丈夫なのとか」
「ペット用はいずれ売りに出ると思うから、それまでの繋ぎだ」
「う~~、もつかなぁ?」
その合間にも、お父さんはテーブルの上に、色々なアイテムが拡げられてますが・・・。
「これはなに?」
「首を保護するための幅広の首輪だな」
幅広で、釘が内から外へ打ち込まれたような、トゲトゲの首輪が目の前にあります。
「これは?」
「足を保護するための革製のバンダナだな」
赤茶色の、可愛げの欠片も無い、紐で結ぶタイプの皮製バンダナ?足巻?なんかそんな物が4つあります。
「え~~と、これは?」
「頭で相手にぶつかった際の保護用の額当てだ」
角の付いた皮の何かが目の前にあります。でも、これどうやって取り付けるのでしょう?
ともかく、その後もどう考えても戦う為の装備のような物がいくつも出てきます。
「バロン用のお菓子は?」
「うむ、豚の耳をいくつか買ってきたぞ」
ドシッ!「うぎゃ!」
胸を張って答えるお父さんの足に、思わず蹴りを入れてしまった私は悪くないと思います。
「何考えてるの!こんな物よりもっとリボンとか無かったの?それこそもうじきハロウィンなんだから三角帽とかもっと可愛い物買って来てよ!」
バロンに対する見解の相違というものでしょうか?
このままお父さんの望むとおりにしちゃうと、それこそバロンがヒャッハ~~とか叫んで走り出してしまいそうで怖いです。
頑張れ私!ほのぼの動物ライフをこっちでも続けるんです!