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3:倍速の世界は疲れます

「そういえば、動物ライフって終了するんでしょ?先生どうするの?」


現在、私は家庭教師の生徒である沙織ちゃんと休憩中です。

実質3時間のお勉強なので、休憩がないと集中力が途切れてしまいます。

今いる場所は、バーチャルネット運営会社アナザーが提供している擬似ネット塾の一室で、要は昔の1対1形式の塾なのです。

私達はその家庭教師登録をして、そこから生徒との相性診断をされてから派遣されます。もちろん、生徒に対しての希望年齢なども登録できます。もっとも、生徒側も有名大学生限定などといった要望もできますけどね。ただ、VRになったせいで東京であろうと、それこそ海外であろうと、問題なく登録できるのである程度の学校でないと中々倍率の高いアルバイトになっています。

もっとも、目標とする学校出身の人が良いなどの要望もあり、中々一概に言えないのですけど。

ただ、身許チェックは結構厳しいです。それこそ、本人確認や、学歴確認はすっごい面倒で、学校にも在籍確認が当たり前に行きますから。


それでも、ある意味VR内で出来るアルバイトなので人気は高いですけどね。

まず、移動時間が掛からない。服装も、実際の姿はジャージでも、VR内は自由自在です。もっとも、ネット塾における規律内での自由自在ですけど、ちなみに私はシンプルなスーツ姿です。


そんなこんなで家庭教師を始めてまだ半年ですが、沙織ちゃんの成績は順調に上がっているようで、御両親の評価も上々!査定も上がった御蔭で更に2名の家庭教師をする事が出来ました。

そして、現在のわたしは月の手取り7万5千円、一週間の実質拘束時間は3時間、すっごい美味しいです。


家庭教師の人気が高い理由が解りますよね~。


「う~ん、まだ悩んでいる所です。公式での発表が今一つ解り辛くて判断がつかないって所?沙織ちゃんの家はどうするの?」


「移行するみたい。でも、うちってトイプードルだから」


顔を顰めているのは戦闘ありきの世界になるからなのでしょう。

確かに、トイプードルはうちのバロン以上に戦闘は不向きですよね。


「家の中でのペット扱いになっちゃうのかな?でも、沙織ちゃんのところはVRもやってなかった?」


「うん、私以外の家族はみんなアカウントはもってる。でも、あれ結構ガチなMMORPGなんだよね~。魔物使いが使ってる魔物とか、召喚士が使ってる召喚獣とかと比べると、ちょっとな~って思っちゃう」


「掲示板みてると、ペットが生き返るとはいえ戦闘で死ぬのもって意見もあるよね」


「うんうん、結構リアルに来そう。あと、年齢制限どうなるんだろ?」


「あ、そっか、あれって15歳以上だっけ?」


「うん」


そこで沙織ちゃんが顔を顰めます。そうですよね、動物ライフは全年齢型で、それこそVR適応年齢6才から遊べますもんね。


「あとね、友達が学校で言ってたんだけど、今回の移行で将来的に8倍速から16倍速にゲームが変更になるかもだって。でも、そうなるとトトが家で放置される時間が」


「そうよね、先生もそれは思う。どうしても長時間放置するのがね」


キーンコーンカーンコーン


そんな事を話していると、休憩終了の鐘が鳴り響いた。


「さぁ、残り1時間集中してやりましょうか」


「は~~い」


「とりあえず、計算ミスに注意して、ここまで解いてみてね」


「むぅぅ」


顔を顰めながらも沙織ちゃんは、計算の問題用紙に取り組み始めた。

その様子を眺めながら、私は今日の沙織ちゃんの誤解答における傾向を目の前に表示させる。


う~ん、公式は一応覚えてはいるみたいね。前に解いた問題と同じ解き方の物は問題ないんだけどな。


割と簡単な引掛け問題にも、見事に引っかかっているのを見て、丸暗記してるだけで問題の意味を理解できてない事が如実にグラフで表示されていた。


この場合の例題集は、え~~っと。


情報検索で対策問題を引っ張り出していく。

このあたりの情報管理や検索、問題への対策などもVRにおける塾の優位性へと繋がっていた。

生徒が解いた傍から、どんどんと間違いを解析し、理解度と間違いの傾向、その対策などが自分のデータボードに表示されていくのだった。


あとは、これとこれを追加してっと。


家庭教師は週に1回なので、来ない間に行う宿題を沙織ちゃんが問題を解いている間に作っていく。


キーンコーンカーンコーン


授業終了の鐘が鳴り響いた。


「は~い、お疲れ様でした」


「疲れた~~」


沙織ちゃんが大きく背伸びをする。でも、ネットの世界でのことなので実際に体が疲れている訳ではないんですけどね。ただ何となく気持ちは解ります。本当にネットで4時間近く勉強して、現実では1時間しか過ぎてないって変な気がしますし、絶対なにか現実の体に影響を与えているはずだって思います。


その点は、未だに明確な回答が出ていないみたいなんですけどね。


「むぅ~先生の中学時代ってまだ1倍速だったんでしょ?いいなぁ」


「そうね、でもその分睡眠時間が結構削られたよ?中3の頃なんかは平均睡眠時間4時間くらいだったかなぁ?」


「うえぇぇ~~、あたしそれ無理!7時間は寝ないと持たない」


「ふふふ、とりあえずこれが来週までの宿題です」


「あ~~~~、もう」


「御免ね~、先生は頑張ってねしか言えないわ、それじゃぁまた来週ね」


「は~~い」


泣きそうな表情を浮かべる沙織ちゃんを見て、くすくす笑いながらも私は教室から退出します。

そして、ネット塾へ本日の終了報告をして、今日の進み具合をデーターで転送。

それが終わって漸くログアウトです。


「ふぅ、現実1時間とはいえ疲れるなぁ、絶対、絶対おかしくなるよねこれ」


そんな事を改めて言いながら、冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出して一口飲む。

そして、机の上にあるパソコンの電源を入れて新着メールなどを確認していく。


「えっと、これと、これは・・・うん、こんな所かな?」


一通り確認して、データを動物ライフへと転送して置く。

これで、動物ライフ内で作業が出来るのです。もっとも、1倍速なので、時間の進みは変わらないのですけどね。


「8倍速で処理してからバロンに会いに行ってもいいのだけど、倍速で過ごしてすぐって寝つけないのよね。あれって頭が休まってないからよね」


そんな事を思いながら、動物ライフへとINするのだった。

そして、INすると、私に気が付いたバロンが、お気に入りの座布団から起き上がってドタドタと走り寄ってくる。


ヴォン!


そのバロンの頭を撫でながら伝言メモを確認する。


”ご飯は上げました。お散歩もしましたので問題ありませんよ~:母より”


一応、曜日によって当番が分かれているので大丈夫とは思うのですが、終了メモを残すのがルールになっているのです。


ヴォンヴォン!


バロンにお鼻でこずかれて、アイテムからクッキーを取り出して与える。

INしてすぐにクッキーを与えるのが、なんとなくのルールになっているのです。


ハグハグハグ


おっきなお口なので、小さなクッキーはすぐに無くなってしまいますね~。

そんな事を思いながらも、テーブルの上にノートパソコンを取り出して準備をします。


「いっつも思うけど、VR内で更にノートパソコンを扱うってなんか変よね~」


そんな事を思いながらも、メールなどのチェックを順番にしていきますが、うん、ほとんど広告ばかりですね。もっともこれはいつもの事ですけど。

そんな中に、ちょっと気になるメールを発見しちゃいました。


「ん?アナザーからのメールが来てるね。え~っと、あ、動物ライフ統合の案内と、およ?移行お試し期間の設定?」


10月21日から10月31日までの期間で動物ライフのデーターを使ってRPGの方で遊べるみたいですね。ただ、家とかのデーターはなく、あくまで飼っている動物のみのデーター移管だそうです。


「う~~ん、でもあっちのアカウント持ってないし、早めにアカウントだけでも作った方がいいのかな?」


しばらく悩んでいましたが、まぁ解らない事は後日お父さんに聞きましょう。

お父さんは確かRPGの方でも遊んでいたはずです。どこまで遊んでいたかは不明ですが。


その他、中高学時代の友人たちからも珍しくメールが来ていましたが、どのメールも動物ライフどうする?との問い合わせです。

うん、こうやって見ると、動物ライフって遊んでた人結構多くない?

まぁもっとも、アカウントが残っているだけでINする人が減少しての統合なので、当たり前の事なのかもしれませんが。

一通一通返事をしながら、どのメールにもコミュニティーチャットのお誘いが添付されてます。

でも、その部分は見ない事にしましょう。

前にちょっとやった事はあるのですが、あれって疲れるのです。四六時中誰かが会話してるし、返事を書かないといけないような強迫観念が出てくるのですよね。

お父さんはMMOとかも総じてそんな意味不明なINしないとっていう強迫観念が少なからずあるそうです。結構意思が強くないとマイペースで遊ぶことが出来ないそうです。

どうしてもパーティーとか、クランとか、集団で遊ぶことが基準になるから仕方ないそうですが、うん、わたしにはちょっとハードルが高いです。


暇な時の時間つぶしは、動物ライフでミニゲームしてるくらいが私には会ってますね。


と言っている間に12時のチャイムがなっちゃいました。

予定外の事で、いつものリズムがちょっと壊れちゃってますね。

急いでログアウトして、シャワーを浴びて寝ないとです。っという事で、バロンもおやすみなさい~

って言おうとしたら、とっくに座布団でオネムですね。ちょっと頭を撫でると、目をギョロっと開けてまた閉じます。


「う~~~、とにかく、バロンおやすみなさい~」


声を掛けて今日はログアウトです。


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