10:リアルで犬を飼いたいな
その後、キャラクターを作り直して再度IN、レベル上げを行ったのですが、すっごい楽でした。
武器はメイスっていう何か混棒?
とにかく、魔物にそれを向けているだけで飛び掛られる頻度が減ったんです。
「最初っからこっち選んどけばよかった~」
私の言葉に苦笑を浮かべる両親です。
「まだ守ってばかりで全然攻撃出来てないけどな」
「壁ヒーラーするなら、ちゃんとヘイトを稼がないと駄目よ?」
なぜお母さんがこんなに詳しいのでしょう。これは後で問い詰めなければなりませんね。
ともかく、両親の協力でレベルも8になった所で今日のゲームは終了しました。
「ログアウト設定で、不在時のペット時間経過を無にしとくぞ?」
「うん、それでいいよ」
これで、INしない間にバロンが寂しくなったり、ましてや餓死する事など無くなります。
私達も安心してログアウトできるのです。
そして、ログアウトして時間を見れば、お昼をちょっと過ぎたくらいでした。
「お昼かぁ、何か実感わかないけど、お腹はちゃんと空いてるのよね」
VRのせいで時間間隔がおかしくなっているのを感じながら、それでもお昼の準備をします。
といっても、冷蔵庫の中を確認すると碌な物が残っていません。
「むぅ、夕飯もだし買い物に行かないと」
財布を手に、近くのスーパーまでお出かけです。
「今日のご飯は何にしようかな~~♪」
テクテクとスーパーへと歩いていきます。今日は休日だけあって、比較的出歩いている人が多いですね。
そんな事を思いながら歩いて、つい立ち止まってしまいました。
「うわ~~、可愛いなぁ~」
目の前のガラスの向こうには、区切られた部屋に子犬達が寝ています。
そうです、ここは私の癒しスポットであるペットショップ!
ちょっと遠回りなんですが、ここの前を通ってスーパーへ行くのが定番になってます。
「うり!うりうり!」
ガラスの前で、指を右へ左へ動かしますが、うん、中の子犬は反応してくれませんよ?
くてんっと寝転がってチラッっとこちらを見た後は、また目を閉じて寝てしまいます。
「う~~~、でも、やっぱりいいなぁ。リアルでも犬欲しいなぁ」
そんな事をつい口に出してしまいます。
飼えないと解っていながら、それでもっと思ってしまう魅力が子犬達にはあるのです。
カランカラン
じ~~っと熱い視線を子犬達に注いでいた時、ペットショップの扉が開きました。
「さぁお家に帰りましょうね」
ご年配の女性が、ゴールデンレトリバーを連れてペットショップから現れます。
あ、ここは美容院もやってるんだった。
綺麗にカットされ、耳にリボンのようなアクセサリーを付けていますね。お洒落さんです。
ゴールデンに見とれていると、飼い主の女性が面白そうにこちらを見ていました。
思わず、ぺこりとお辞儀をすると、その女性も嬉しそうにお辞儀をして、声を掛けてきます。
「こんにちわ。犬がお好きなの?」
「あ、はい!でも飼う事が出来ないのでいっつもここで癒されて終わりなんですけど」
そう言いながらも、ご主人様が話しかけたからなのか、ゴールデンは私へと寄って来ます。
思わず、腰を下ろしてゴールデンの頭を両手でなでなでします。うん、手触りが!手触りが最高なのです!
美容院で綺麗にした後の為、仄かに良い臭いが漂います。
「可愛いですね、やっぱり大型犬はいいですね」
「お散歩は大変ですけどね。だいたい朝晩1時間くらいしないとダメなのよ?」
コロコロと上品に笑う姿が、まさに憧れちゃいます。
大型犬を飼う際の注意点などを、特に飼う予定が無いのに色々と聞いてしまいました。
私達が話していてもゴールデンは大人しくお座りしています。すっごくお利口です。
うちのバロンに爪の垢でも飲ませてやりたいですよ?
結構な時間を話し込んじゃいました。今は旦那さんと二人暮らしだそうで、ゴールデンが子供代わり、しかも、ゴールデンがいないと共通会話がないので助かっているそうで・・・なんか夫婦間のドロドロしたものが感じられちょっと怖い?ともかく、笑顔でお別れしましたが、ゴールデンの後ろ姿を羨ましく眺めてました。
その後は特にハプニング?もなく、無事にスーパーでお買いものして帰宅。ちなみに、お昼は鍋焼きうどんになりましたが?何か?
ご飯も食べて、お部屋掃除をして、気が付けばすでに夕方の5時です。
午前中に比べ、時間の経過がすっごく早く感じられます。
ベッドにおいてあったヘッドギアを装着して、動物ライフへと接続をしましょう。
バロンのお散歩と夕ご飯の用意をしないとですし、やっぱり動物ライフの方が安心できる気がするし?
で、動物ライフへとINすると、いつものようにバロンの体当たりで歓迎されます。
「バロン~~、寂しかった?寂しかった?」
クゥンクゥンといて大歓迎してくれるバロンにもうメロメロですよ!
頭シャカシャカ、首のあたりもシャカシャカして、可愛い可愛いの愛情表現をします。
「むふ~~癒しだよ~~~。バロンは可愛いね~~~」
そのまま横に力を掛けて、バロンをゴロンとさせて、お腹も併せてなでなで攻撃です。
相変わらず、バロンは何するの!何するの!っと目をギョロギョロしますが、そんな事はお構いなしです。
今は癒し成分の補給が急務なのです!
「はふ~~~」
一通り、バロンをワシャワシャすると、次にはバロンの反撃が始まります。
「バフバフ!」ドシン!
「重!バロン太ったね!」
「ヴァフ!」ドシドシドシ
相変わらずの抑え込み攻撃、その後はべろんべろんと顔中舐められます。
「うぎゃ~~~」
私が叫べば叫ぶ程、尻尾はブンブン大喜びです。
「バロン、お散歩行こ!お、さ、ん、ぽ!」
必殺のお散歩の名前連呼!
途端にバロンはおもちゃ箱へと走って行きます。
急いで私は起き上がり、態勢を整えるのです。
そして、バロンがボールを咥えて戻ってきて、お散歩準備完了?
お利口にお座りしているバロンの頭をワシャワシャと撫で、首輪とリードを付けたらお散歩出発ですね。
今日は情報交換の為に、共有広場へと向かいましょう。
ここは、それぞれの飼い主が愛犬を連れてお散歩できる共有広場です。
数ヶ月前には、あまり人?犬?が居ないので、自然と行かなくなっていたのですが、今回の統合発表で久しぶりに人が増えてきているんです。まぁ、みんな今後の情報交換がメインなんですけどね。
「うわぁ、今日もいっぱい犬がいるね~、あ、プリンちゃんだ!」
トイプードル?と首を傾げたくなるような、ちょっと大きいトイプードルがバロンを見つけて走り寄ってきます。そして、その飼い主さんも愛犬の動きからこちらに気が付いて近寄ってきます。
「あ、バロンちゃんこんにちは」
なぜか、みんな愛犬の名前はしっているのですが、飼い主のお名前は知らないと言う不思議空間が成り立つのが共有広場です。わたしも、バロンちゃんの飼い主のお姉さんで知れ渡っています。数あるペットの中でも、オールドを飼っている人は少ないので目立ちますし。
「プリンちゃんこんにちは~、今日も人が多いですね」
わたしも同様にプリンちゃんとプリンちゃんのお母さんに御挨拶です。
ちなみに、お母さんは飼い主さんの事ですよ?
「そうねぇ、ここもあと2カ月ちょっとだと思うと、何か感慨深いから」
苦笑を浮かべながら答えて下さるのですが、プリンちゃんのお母さんは移転されないそうです。
今回の発表がなければ、もうINしなかったかも?というお話を先日お聞きしました。
動物ライフで遊び始めてから私生活で色々あったそうで、今はリアルでトイプードルを飼ってみえる勝ち組さんなのです。
だから、あえてもう動物ライフへは来ていなかったのですが、愛犬が消えてなくなるとの情報で、最後は看取る心算でまた戻って来たんだよ?と先日お聞きしました。
「バロン、遊んでおいで」
リードを外してバロンを放してあげます。
すると、解放されたことが解っているので、広場をドテドテと走り出します。
それに釣られるように、プリンちゃんも、それ以外の犬たちも走り始めたり、バロンを追いかけたりと広場一杯を使って遊び始めました。
そんな犬たちを見ながら、飼い主たちは飼い主たちでの社交の始まりですね。
「あと2カ月くらいねぇ、ブラボーくんはどうするの?」
「うちも一緒、今更ブラボー連れてRPGって歳でもないし、これで完全引退」
「そっか、ポチ丸ちゃんの所は移るんでしたっけ?」
「ええ、先日からあちらでもお試ししてます。子供がポチ丸連れて魔物退治頑張ってて」
笑いながらそんな話をされる人もいます。わたしも、今日の午前中にお試しして、その時の状況を説明します。
「そうねぇ、こっちにもうちの子が残っているのには、わたしも吃驚したわ」
「私も~、でもそっか、動物ライフの方にも二重で存在してたんだ。うちは家族みんなで移動したから気が付かなかった」
成程です。うちは慎重になりすぎていたので、二重存在に気が付いたのですね。
「あっちはどう?動物ライフ続けれそう?」
「「「う~~~ん」」」
移住組のみんなが即答せずに唸ります。
「やっぱりホームが狭い?大型犬飼うには厳しいですよね?」
「そうよね、結構時間とお金を注込んだホームだし、それがああなっちゃうとちょっとね」
「ああ?」
「ええ、そうね1DKくらい?」
「「「「「え~~~~」」」」」
周りの動物ライフ終了組の人達が驚きの声を上げています。でも、それが現実なんですよね。家でバロンと思いっきり遊ぶとか夢のまた夢です。
その後も、犬の餌獲得方法や、移住後の生活基盤の作り方など話題は本当に尽きないのですが、ともかく有用な情報っぽい物は必死に覚えましょう。
そのちょっとした努力や、思いつきが今後の生活をより良くするのですから。




