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 一閃、二閃、三閃と幾条もの光という名の斬撃が僕とゴブリンキングの間を舞う。

 片や人間であり、【悪徳なる意思(アンラ・マンユ)】という化物を内包した存在ぼく

 片やゴブリンキングというゴブリンの最上位種であり、【悪徳なる意思(アンラ・マンユ)】に伝えるべき事柄のある伝言役だった。

 火花が散って、散って、散る。

 僕の槍技は一つとして同じものはなく、一度も相手の斬撃を喰らうこともなく、その攻撃はお互いの武器に吸い寄せられるようにして動く。

 まるで同じだと第三者が見れば思うだろう。

 それくらいに僕たちの斬撃は同じく繰り返されていた。

 突いて、薙いで、斬る。

 すべての音が遠ざかっていく。

 繰り返される剣戟は武器の悲鳴すら考慮に入れずに加速していく。

 もうゴブリンキングしか見えなかった。

 無意識が相手の呼吸を読む。

 意識が斬撃を走らせる。

 殺そう、救おう、その身に蔓延るすべてのモノを。

 斬る、突く、薙ぐ。

 ゴブリンキングは嬉しそうに口を三日月に歪めた。

 加速、加速、加速。

 己の身体が悲鳴を上げてもやめない、やめられない。

 甘美な景色がそこにあるのだから。

 もっと踊ろう、もっと殺し合おう、もっと愛し合おう、もっと、もっと、もっと……!!

 ああ、ああ、僕はある。

 ここにある……!!

 お互いに一撃を与えたが、僕らはお互いにその場にとどまりまた次の一閃を繰り返す。

 一閃、ニ閃、三閃とずっとずっと続けていたい。

 でも、それでも僕は救わなくてはいけないのだ、ああ、惜しい、この気持ちが、この感覚が、この高ぶるすべてが。

 しかし終わらせなければいけないと心が、本能が訴えかける。

 だから僕の全身全霊を使って僕はあなたを救おう、そして殺そう。



 一閃、首を薙ぐ一撃。

 ニ閃、鳩尾を突く一撃。

 三閃、足の腱を斬る一撃。

 そのどれもが受けられ、面白いくらいに僕に同じものを返される。

 僕の動きが加速していく、いや、成長していく。

 無駄をなくし、パワーロスすら消していく。

 疲れにくい、最小の動き方で最大の攻撃を繰り出す。

 相手の一閃が僕に死を予感させる。

 相手のニ閃が僕に高ぶりをもたらしてくれる。

 相手の三閃が僕に在り方を与えてくれる。



 この一瞬とも永遠とも極楽とも地獄ともいえる戦いの中で僕たちは会話していた。

 その一撃が僕の存在感を高めてくれる。

 今まで、希薄だった存在感を徐々に上げていく術を身につけられた。

 これのほかにも教えてくれることはたくさんあった。

 効率的な動き方、虚実を混ぜた攻撃、咄嗟の判断能力、無意識の意識化。

 すべて、すべてが僕にとってかけがえのないものであり、己の身に取り込むための技術として喰らう。



 どちらも傷が増えてきたが、それでも僕の方が圧倒的に傷の深さは小さかった。

 中心線を守るように動き、特殊な歩法により相手の動きを牽制し、研ぎ澄まされた斬撃で相手の皮を断ち、肉を断ち、骨すらも断ち切るべく、繰り出される。

 見えていく、視えていく、観えていく。

 動きが、筋肉が、数字が、視える。

 どう動くかが筋肉の動きで見え、その動きが数値化されていく。

 身体が己と相手の血で染まるのも厭わず、さらに斬撃を重ねる。

 均衡していた力は、天秤は己の方に傾いていくのがわかる。

 しかし、終わらせたくないのは事実。

 その躊躇が僕の斬撃を鈍らせていた。

 


 ゴブリンキングの眼が語りかけてくる。

【そのままではいけない。あなたはその殻を破らなくてはいけない。あなたの動きを阻害するすべてを捨てなくてはいけない。人間は愚かではあるがあなたは愚かになってはいけない。何かを得るためには何かを捨てなくてはいけない。それが己のあたたかいのでも】

【死を知り、生を拒絶し、道を違え、指標を壊す。それがあなたであり、あなたの在り方である】

【殺しなさい。殺してすべてを奪うのです。その苦しみこそ救いだと己の魂の深淵へと刻むのです】

【殺しなさい、喰らいなさい、奪いなさい、壊しなさい】

【それこそが救いだ】



「くひっ」



 笑みがこぼれる。

 僕のすべてが肯定されていく。

 世界の敵として否定されたが、僕は、僕の在り方を己で肯定する。

 それはもう、暗示にも似た感覚。

 暗示で己の枷を解いていく。

 かつては透明な魂として純粋で稀有だった【俺】という枷を解いていく。

 それはとてつもなく大きく、重く、頑丈な枷だった。

 でも、それを【僕】は慎重に、そして大胆に解いて、壊して、消滅していく。

 そして【僕】は【俺】にたどり着いた。



 白い、白い空間だった。

 黒く、塗りつぶされそうになっている白い空間だった。

 その場所は小さく、狭かった。

 しかしそこにいたのはまぎれもない【俺】がいた。

 【俺】は座り込んで顔をうつむかせている。



『ねぇ』

「なんだい?」



 驚いたことに【俺】が【僕】に話しかけてきた。

 【僕】は間髪いれずに問い返したけど動揺は多分伝わっただろうなぁという確信にも似た気持ちを抱いていた。



『俺はどうして愛されなかったのかな?』

「…………」

『俺、結構頑張ったよ? 勉強もスポーツも、将来は家に金を入れることだって考えていたよ。もちろん一人立ちしたらだけどさ』

「うん」

『でも、俺、それでもどこかで信じていたんだ、あの二人に欠片でも愛する気持ちがあるのを』

「そっか」

『でも、違った。二人は俺を俺として見ていなかった。人にもなれないし道具にもなれない。ただ金にはなったんだろうけれど』

「そうだね」



 それは偽りない事実として【僕】の脳裏にも【俺】の記憶として焼き付いている。

 だからこそ【僕】は生まれた。

 小さな闇を抱えて生きていた【俺】は【僕】にあの日、この世界で食われたのだ。

 罪悪感というトリガーが【僕】を表に出し、裏となった【俺】を食い殺そうとした。

 殺した、殺した、殺した。

 その思いが、罪悪感が【僕】という闇を大きくさせた。

 最初は小さな種子だっただろうその闇は罪悪感を受けて芽を出し、大きくなり花を咲かせた。

 それこそ闇を示す真っ黒な花を。

 それは闇という種子がなければいけないのは確かである、がそのまた確かであるのが土台となる土だろう。

 土がなければ種子は芽吹かないし、花も咲かせられない。



『もう、いいかな』

「何が、だい?」



 わかっている。

 それはもう一人の【俺】である【僕】がわかっている。

 救われたい、そう願っていたはずだ。

 ずっと、ずっと、ずっと。

 願っていたんだ、愛されたいと、救われたいと。

 きっと地獄の中でも希望を失わずに頑張っていたんだ。

 だから【僕】から【俺】に贈る言葉は決まっている。



「頑張ったんだね」

『……うん』

「ずっと我慢してきたんだよね」

『……………うん』

「もう、大丈夫だ。我慢なんてしなくてもいい。【俺】は救われていいんだ」

『……そう……だよね』



 独りだった。

 誰も理解者がいなかった。

 苦しかった。

 わかってほしかった。

 独りは嫌だった。

 あきらめたくなかった。

 希望がほしかった。

 気づけば【俺】は親に売られた。

 きっと、自分の努力が足りなかったせいだと、ずっと、ずっと思っていて、

 それでもきっといつか両親は【俺】は愛してくれると、思っていたんだ。

 でも神に会って、

 異世界に来て、

 殺しを体験して、

 【俺】は壊れた。

 だから【俺】は【僕】を作り出し、

 【僕】は【俺】を救うために殺そうとした。

 そして、こうして殺しに来てくれた。

 救いにきてくれた。

 うれしかった。

 なによりもうれしかった。

 


『ありがとう、救いに来てくれて』

「うん」

『ごめんな、全部背負わせて』

「うん」

『ちょっと、疲れたから、また、会えたら、いい、なぁ……――』

「……うん」



 元々は白かった部屋の片隅。

 そこにはもう真っ黒で白かった残滓すらなかった。

 彼は、救われたのだろうか?

 俺は、救えたのだろうか?



「しっかりと、眠れ。次はきっといい夢が見られるさ」



 思考がクリアになる。

 目の前のゴブリンキングが今の僕にとって取るに足らない存在となるのを肌で感じた。

 涙は、出なかった。

 【俺】は己の一部となり、消えたのは必然であったことだから。



「終わらせよう……いや、救おう。次で決めるぞゴブリンキングよ」

『イイ表情かおニナリマシタナ』

「ああ、これもお前のおかげだ。だからこそ敬意をこめて、救いの一撃を、それこそ僕の全身全霊をこめてお前を救う」



 もう武器が限界に近いからでもある……早く僕に合う武器も探さねばならないだろう。

 そんなことを頭の片隅で考えながら、思考を殺意で埋めていく。

 殺、殺殺殺殺殺殺!!

 辺りの空気がこわばっていくような感覚。

 空間が軋みで悲鳴を上げている。

 構えた。

 ゴブリンキングも構えている。

 その眼には後悔などなく、焦燥も感じられない。

 ただあるがままを受け入れる。

 それだけであった。

 一歩進んだ、

 槍が光を纏いだした。

 二歩進んだ、

 槍の技を選ぶ。

 三歩進んだ、

 それは必殺であり、基本の突き。

 四歩進んだ、

 神速ともいえるほどの突きがゴブリンキングに向かって走る。

 五歩進んだ、

 ゴブリンキングの心臓を完全に穿った。



 ズルリと槍が抜かれた。

 その槍にはゴブリンキングの血がべっとりとついている。

 ゴブリンキングは血の塊を口から吐き出し、仰向けに倒れた。

 ゴブリンキングは何事か呟くと、光になって僕へと吸収された。

 


【魔の欠片『ゴブリンキング』を手に入れました】

【【魔の萌芽】が進化を始めます】

【進化完了】

【魔の萌芽】→【魔の幼樹】

【エクストラダンジョン『神々の戯れ』の鬼種を絶対支配しました。これにより、鬼種に【遊戯設定ゲームシステム】が適用できます、Y/N】

【大悪神【ヴェルナ】の加護が授けられました】



 名前:エディ

 年齢:12歳

 class:冒険者Lv.15 英雄Lv.12【村民Lv.Max 勇者Lv.Max】

 HP:390/390

 MP:550/550

 STR:425

 VIT:425

 DEX:430

 AGI:425

 LUK:505

 ユニークスキル:【遊戯設定ゲームシステム】【魔の幼樹】NEW!!【魔天法則シークレット・オブ・ラー】【アイテムボックス】

 スキル:【SP増加】【鑑定アナライズ】【精神耐性】【合成】【暗殺者】【棒術】【短剣術】【剣術】【鋼糸術】【暗器術】【投擲】【体術】【槍術】【投槍術】【身体強化】【立体機動】【浸透頸】

 SP:775.5

 称号:【世界の(ワールドエネミー)・悪徳なる意思(アンラ・マンユ)

 加護:悪大神ヴェルナの加護



 とりあえず、鬼種に【遊戯設定ゲームシステム】を適用させるためにYを押してみると目の前に自分のとは違うウィンドウが現れた。



 支配種族:鬼種

 存在進化ランクアップ

 スキルの取得

 


 一番上は今支配している種族で下の二つが今ゴブリンに対して干渉できるものだ。

 存在進化にもスキルの取得にも僕のSPが使われることになるがこれは当たり前と言えるかもしれない。

 なぜならゴブリンの取得したSPまで僕のところに来るのだから。

 今は鬼種すべてがレベル一に近い状態だがすぐにすべてのゴブリンに対し、存在進化を実施した。

 SPは一体につき5SPほど使ってしまったが112体分を存在進化ランクアップさせることに成功する。

 存在進化ランクアップは一度僕が促すとそれはダンジョンからの制約から外れることになり、以降は人間を殺すなりほかの魔物を殺すことで自動的に存在進化ランクアップすることができる。

 ちなみに鬼種は今この場にいるすべてが支配対象となる。

 つまり112体が僕の手駒だ、ゴブリンシーフ以外は普通のゴブリンなのでそれら全員がホブゴブリンへと進化した。

 ゴブリンシーフのエンハリヤルは【探検大鬼トレジャーオーガ】という一応鬼種なのかと納得のいく存在進化ランクアップをした。

 それからゴブリンたちの居場所を作るために、【遊戯盤ゲームテーブル】というユニークスキルを150SPも使って手に入れた。

 この【遊戯盤ゲームテーブル】は中に魔物を入れて繁殖させることができるし町を造ったりもできる、もう一つの世界と言っても過言ではない亜空間だ。

 この中では魔物は死なず、プレイヤーと呼ばれる存在も死ぬことがない。

 経験値をためるにはうってつけの場所だがその経験値が通常の半分以下しか手に入れられない、しかしこのダンジョンにいるよりは効率的な戦闘ができると判断した。

 ここに全鬼種を入れて訓練なり戦闘なりして存在進化ランクアップしておくように告げる。

 それにゴブリン達は皆真剣な顔をして頭を垂れた。



 そしてゴブリンキングの座っていた玉座には一つの光る玉があった。

 死魂吸収玉というらしいその玉は、殺した魂を吸い取り徐々に成長し、いつかその玉が割れた時、その玉に宿った生命体が玉の所有者に絶対忠誠を誓うという玉だった。

 


「おまえも、一緒に救おうか」



 玉が、淡く光った気がした。

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