僕のできることですがなにか?
村長宅で魔法の発明をしてしまった……。
まぁ、ここはプラスに考えておこう。
いや、それ自体は喜ばしいことなのだろうが……僕にとって初めからチートは嫌なのだ。
それじゃあこの世界を楽しめない。
というわけでSPは【調合(10)】だけを取ってほかはユニークスキルにとっておこう。
さて、今回村長の裏庭に来たのは【風魔法】を試すためだということは忘れていない。
イメージする。
風を圧縮、圧縮、圧縮!!
バチバチと音がしてきたら完成。
眼を開けてみるとそこにはプラズマになった風が……ってやばっ!!
すぐに集中し直して圧縮を少しずつ緩めていく。
風を完全に散らしたとき、僕はへたりこんだ。
しかしステータスだけは見なくてはいけないと思い、精神的に疲れた状態でステータスを出した。
名前:エディ
年齢:3歳
class:村民Lv.1
HP:5/5
MP:10/15
STR:5
VIT:5
DEX:10
AGI:5
LUK:15
ユニークスキル:【遊戯設定】
スキル:【SP増加】P.S.【鑑定】【気配察知】【隠行】【風魔法】【雷魔法】NEW!!
SP:177.5
MPが5だけ減っている。
さらに【雷魔法】も増えていた。
【神よりメッセージがあります】
「うぉっ!?」
何か似たようなことをさっきやったような気がするんだけど。
【やぁ、また新魔法を開発しちゃったね? ていうか【雷魔法】って……あれだよね? 某ゲームの勇者が使う魔法だよね? 勇者になりたかったら言ってくれればいいのに。職業の選択可能欄に勇者追加しておいたから、それがご褒美だね。あんまりSPとかスキルとかあげるのもだめだと思ってこれにしたよ。返品は受け付けないから頑張ってね】
「のぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
僕は厄介事を自ら背負ってしまったようです……。
そして僕の叫びを聞いたみんなが何事だと僕を凝視しているのですぐになんでもないことを伝え、謝った。
さて、と今度は無難に風の刃でも起こすか。
……うまくいかないようだ。
風の刃、通称カマイタチを起こす原理を知らないからかただ強風を吹かすだけにとどまるのだ。
仕方ないから方針を変えて何かを投げる補助に使うことにした。
石を風で浮かせ、それを自由自在に動かす訓練をしていく。
最初はイメージが拙いせいかぎこちなかったけれど今は、自在に動かせるようになった。
百八十度方向転換させるってどんだけ魔法がすごいかわかる気がする。
今度は投げる補助に使う。
思いっきりオーバースローで投げてそれが塊となった追い風によってさらに急加速、さらに回転を加えて木に向かって一直線に向かう。
遠くてわからないけれどたぶん貫通したんじゃないかなあれ……?
まぁ、とにかく試みは成功したMPも少ないし村長宅で本を読もう。あと、どれくらいでMPが回復するのかも図らないとな……。
本は少ないけれどあるので手に持とうとしたら……あることに気づいた。
「僕、文字が読めないじゃん……!」
そこで、僕たちの面倒を見ている女性のアリーさんに文字を習いたいとねだる。
「え? 本が読みたいから文字を教えてほしい?」
「うん、カッセたちと遊ぶのもいいけど本も読みたいんだ」
「うーん、いいけど。普通は5~6歳から習い始めるから珍しいなぁ」
アリーさんに一通りの文字を習った後、一人で文字を地面に木の棒で書いて覚えていく。
どうやらこの身体のスペックが高いのか、子供の脳だからかはわからないがすらすらと書けるようになっていくし読めるようになっていく。
一通り覚えて、次は本の題名を見て必要なモノを見ていく。
~魔物のすべて~
~冒険者の心得~
~調合新書~
この三つを読むことにした。
時間を計ってMPは150分で全回復することがわかった。15分で一割の計算だ。
俺のMPは15なので10分で1回復の計算でもある。
それを頭の片隅に置きながら~魔物のすべて~を読み始める。
そこにはゴブリンから始まりコボルト、スライム、果てにはマンティコア、グリフォン、バジリスクなどもいる。ユニコーンなどは載っていないために聖獣扱いなのではないかと思考する。
一応すべての特徴や容姿、換金部位、食べられる場所などもすべて暗記した。
やはりこのこどもぼでぃは侮れないようだ。
……まぁ、前世での読書感想文で読書した本のおかげでもあるだろうが……。
次は~冒険者の心得~を読む。
野営の仕方やら森の歩き方、森では薪を常に集めておくことや頭上にも注意しておくことなどなどいろいろなことが書いてあった。思いのほか実用書だったのでこれは思わぬ拾い物だと内心でほくそ笑んだ。
最後に~調合新書~を読んで暗記しておいた。
これなら森に行くついでに薬草とか毒草とかで調合ができる……調合器具はないけど……。
と、三冊全部読んで暗記したところで日が暮れて母様に手を引かれ家に帰った。
あと、この世界では一日二食のようだ、もしかしたら三食かもしれないがこの村では二食だ。
家で少ししか塩の入っていない具なしのスープを飲みながら今夜のことに想いを馳せる。
「おやすみなさいエディ」
「お休み母様」
母様が寝入った後に【隠行】を使いベッドを抜け出して森へと向かった。
【気配察知】はパッシブスキルなのでそのまま慎重に森へと入っていく。
ニ十分も経った頃、俺は疲れていた。
こんなにも森が疲れるモノだったとは……!
そこで気配察知に反応があった。
右前方に15mほど行ったところに三体ほどいる。
石を一つ右手に三つ左手に持つ。
そして風下から近づいていくとその全容がわかった。
何かを食っているゴブリンだった。
その食っているモノを見て僕は吐きそうになってしまった。
それはウサギではあったが、内臓などがもろに出ているために気分がいいわけがない。
しかしそのゴブリンは内臓をもろに手づかみで口に運び食いちぎっている。
そしてギャッギャッギャと笑う。
俺にはそれがゴブリンというよりバケモノにしか見えなかった。
わかってはいるのだ、これが勝者と敗者の姿なのだと、食物連鎖のすべてなのだと、でも、それでも、前世の僕の倫理観が邪魔する。
これではダメだと思い僕はゴブリンを殺すことに決めた。
地球での倫理観をすべて壊すべきだと僕は決断した。
ヒュゴ!!
そんな音とともに石が放たれる。
それは内臓を手に取って食っていたゴブリンの頭を爆散させた。
吐きそうになった、殺したという感触が気持ち悪かった、胸が軋むようにして痛む。心が叫びをあげている。
【人殺し】
そんな言葉が頭をついたが、すぐにかき消す。
相手はゴブリンと何度も頭で反芻しながら二つ目の石をゴブリンへと投げた。
いまだ現状がわかっていないゴブリンの頭にそれは当たった。
そして爆散。
もう吐きそうだった、たぶん今度殺したら倫理観は完全に崩れ去るだろう。
頭のなくなった身体から血が噴水のようにあふれ出し、あたりを血の色に染めていく。
無性に死にたくなった。
でも必要な処置だと自分に言い聞かせて最後のゴブリンに石を投げた。
頭が爆散した。
殺した。殺した殺した殺した殺した殺した。
吐いた、気分は一向に良くならない。
吐いて、吐いて、吐いた。
胃液が出なくなって、血を吐いた。
それでも気分は一向に晴れなくて、涙でぐちゃぐちゃで思考もぐちゃぐちゃだった。
僕は異世界がゲームになると思っていた。
でも、こんなにリアルなゲームがあるわけない、これは現実なのだと倫理観を壊してやっとわかった。
愚かだった僕はさぞ滑稽だっただろう。
耳をふさいで目を閉じても、聞こえるし見える。
断末魔のように叫ぶゴブリンの声が。
頭を爆散する姿が。
身体を丸めて、這い蹲る。
それからどれだけ時が流れたかわからないけれど、僕は忘れないように記憶に強く強く刻み付けた。
もしかしたらトラウマかもしれない。
それでも僕はこの気持ちを忘れてはいけないと思うから。
「帰ろう」
帰って、井戸から水を汲み口の中をゆすぎ、僕は点滅するアイコンを震える手で押した。
名前:エディ
年齢:3歳
class:村民Lv.5 勇者Lv.3
HP:25/25
MP:55/55
STR:20
VIT:20
DEX:25
AGI:20
LUK:30
ユニークスキル:【遊戯設定】
スキル:【SP増加】P.S.【鑑定】【気配察知】【隠行】【風魔法】【雷魔法】【精神耐性】NEW!!
SP:177.5
村民のレベルが四つ上がって勇者が二つ上がった。
それによりステータスもどういう伸びの仕方をしているのかがわからないけれど当初の四倍はある。
それに【精神耐性】……は多分トラウマになるほどの精神的苦痛を乗り越えたから……かな。
ていうかSP使わなくても取れるということは、一般人でもスキルは持っているとみるべきだな。
スキルを取得するには二つ、SPを消費する方法と鍛錬によって得る方法の二つだろう。
このうち、SPを消費する方法がこの世界では異端なのだろう。
鍛錬で得るスキルとは違い熟されていないからはじめは脅威ではないにしても初めから得られる時間というアドバンテージは得ることができる。
問題は、だ。
一般人もSPを持っているのではないかと言うことだ。
しかしこれは可能性は低いながらもあるのだ。
可能性が低いと判断したのが【SP増加】のスキルだ。
これがユニークでない以上一般人も取ることができるのだが、さすがにスキルとしては破格のこのスキルが一般人にも取れるとは思いたくない。
だが、低いながらもあると判断したのが一般人にはSPを使うことがないのではないかという疑問だ。
僕は【遊戯設定】があるけれど一般人にはそれがない。
認識することはあるかもしれないけれど使うことがないのだろう。
そんなことを考えているうちに、僕はベッドにて微睡に誘われて意識を閉じた。
明けて翌日。
変わらない朝食を食べていると母様が声をかけてきた。
食べている途中はあまり行儀がよくないからってしゃべらないで食べていたけれど母様は僕が心配だったらしい。
「エディ? 顔色が悪いけど大丈夫?」
「……大丈夫だよ。今日も村長の家?」
母様が心配するほど顔色が悪いのかと思案していたがすぐに話をそらした。
「そう……今日も村長の家で待っていてね。文字を覚えたんだってね? 偉いわ。さすがは私の息子ね」
「そう? えへへ」
他愛ない話で時間をつぶし、村長の家へと向かった。
「おいエディ! 今日はどうなんだ!?」
「……カッセ、そんな大声を出したらシェミルが驚くでしょ? それとごめんだけど今日は村長に話があって時間が取れないと思う」
「……そうかよ、じゃあ明日また聞くかんな!!」
カッセは悪がきだけど人を慮ることができる優しい子だ。
口調は荒いけどそれもまたカッセの魅力の一つなのだ。
横で困り顔でおろおろしていたシェミルが珍しいことに小さな声で僕に話しかけてきた。
「ぇっと、エディ……無理しないでね」
「大丈夫、元気だよ僕」
「……わかった、そういうことに、しておくね」
ばれてーら。
【精神耐性】のおかげで悪夢を見ることはなかったけれど今もフラッシュバックして叫びたい気持ちを押さえているのだ。
朝よりは軽くなったけれど、今だにゴブリンの姿が視界にちらつくのだ。
とにもかくにもいつもおままごとやら読書やらで使っている居間から奥に進む。
「村長、いますか?」
「ん? おお、エディではないか。どうしたんだ?」
「えっと、村ってどうなっているのかなって」
「ふむ……どう、というと?」
「作物の収穫量とか、移民とか、赤ちゃんの生存率とかいろいろ」
「……それを知ってどうするのだね?」
「……僕はこの村が好きだから少しでもよくなるように貢献したいんだ。でも僕は小さくてクワも斧も持てない。だから頭を使うことでみんなの役に立ちたいんだ」
本音が8割ウソが2割だがほとんどが本音だ。
ウソの部分はお母さんに楽をさせたいといったことなのであながち間違いじゃない。
結果的には村をよくすることになるのだから。
ただ、どうしても僕が注目の的になるのは避けられないだろう。
僕は成り上がりなんかに興味はないからできるだけ村長のおかげということにしようと思っている。
「ふむ……真剣に、なのだな。まぁ、いい。子供がいた方がいい案が出るかもしれないからな。次の村の会議に出てみるがいい。そこで試させてもらおう」
ここが分岐点かもしれない。
村がよくなり、母様が楽することができるかの。
感想とか評価とかあればよろしくお願いします。