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オマケ02 宝箱設置隊・物語改変版(世界線デルタ)

「やっぱり、検索機能が使えるのと使えないとでは作業の効率が違うな〜」

 最初に設置した宝箱から早九時間弱。カリンはモンスターの猛攻をかいくぐり順調に宝箱を設置していた。色々と教えてくれたアクアに感謝しきないほど感謝をして。


「よし、次で最後だ。アイテムは『アヌビスの翼』か」

 バイブルを開きマップで最終設置場所を確認する。場所は一階の最奥。そこで指定のアイテムを設置すればそこでカリンの設置業務は終了である。


「う〜ん、もうすぐ終わりだぁ! 仕事が終ったらリリスさんの店のメロンパンを食べてメロンソーダ飲んで家に帰ったら即寝よ!」

 胸を躍らせこの仕事の後のメロンパンで至福のひと時を思い描いていく。


「リリスさんのメロンパンはおいしいからなぁ〜」

 とすで宝箱設置の使命をどこかにふっ飛ばし、心はこの後のメロンパンに奪われていた。


 ゴバァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。


 勢いよく水が流れる音がカリンの走る廊下のななめ前方の扉から、扉越しに耳に入ってくる。


(ん? あそこはトイレかな? やっぱりモンスターも出るものは出るのかな?)


 と、思いつつカリンはトイレ? を通り過ぎようとした時に思いっきりドアが開く。


「ふぇっ!? ふぇぇ〜〜〜!!」


 ドガン!


 カリンの目の前に現れた突然の壁?|(ドア?)に顔から激突。


「はにゅ〜ん……」


 と意味不明な声をだし地に崩れ落ちる。


「ん? なんだ?」

 トイレ? から出てきた全身黒い服と黒マントのジェントルメン風の男が視線をカリンに向ける。


「……いっ、いったぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いぃぃぃぃ〜〜〜!」

 鼻頭を押さえ痛みに悶え足をバタバタさせる。


「ほぅ、我が闇の城に人間とはな」

「ふぇ? 我が闇の城……」


 嘲笑を浮かべ口の端がつり上がり、カリンは見下すジェントルメンな男。しかしその男の頭部にはするどい角が生えていた。


 ◆


「どういうことだ……」

「これは……まずいかもな」

 六階の最奥、『王の間』と言われる場所で魔王と話し合いをするはずだったヴァイスとランディアスのふたり。しかしその玉座には座っているはずの主がいなかった。


「各階の緊急連絡をいれる。いいなヴァイス」

「ああ、頼んだ」

 ランディアスは腰に携えているブックケースからバイブルを取り出しパネルを起動させる。そして通信を同時回線に設定し隊員たち全員に発信する。


 パネルに小さいウィンドウが五つ表示されアクア・ランスレット・イグニール・ガイアルの順で通信が開いていく。

 だが、一階のカリンのウィンドウには『呼び出し中』と虚しく文字が点滅していた。


「カリン……」

 ランディアスの呟く声が事態を圧迫させる。


「ランディアス、最後の宝箱の設置を頼んだぞ」

 ランディアスのバイブルを覗き込んでいたヴァイスがそう言い残し王の間の扉に向かって走りだした。



 ◆



「ど、どうしても宝箱を置いてはダメですか!? ブラムさん!?」

 必死になって黒服、黒マントの男。その男は魔王ブラムだった。カリンは魔王に宝箱設置の説得を試みるが当のブラムは『ダメに決まっておろう!』とカリンの説得を一蹴した。


「どうして我がブラム城に未来の勇者達が使うであろう道具を置かねばならん!」

 問答無用で暗黒の波動でカリンを狙い打ち放つ。


「それはそうですけど……でも、あなた達モンスターは人間よりはるかに強力な力を持っています。ですがそれに対してわたし達人間は無力で貧弱です! それを補うために少しでも未来の勇者が魔物に対し対等に戦う力を得てもらうためです!」

 魔王ブラムから放たれた暗黒の波動をギリギリでかわし魔王を見据えてカリンが吼えた。


「ブラムさん! お願いです! 宝箱を……未来の為に置かせてください!」

「くどいぞ! 人間! 我らが不利になるものを置かせてなんの意味がある!」

 願いが却下されブラムの手のひらが黒く光り闇の波動は放たれる。またギリギリでカリンはかわす。が、『あまい!』とブラムが吠え逆の手から暗黒の波動を放った


「ぐっ……!」


 直撃をくらい数十メートル後方に吹っ飛び壁に二回目の激突を果たす。


「終ったな」

 飛ばしたカリンの下に歩きながら近寄るブラム。その顔は勝って当たり前のような薄ら笑いを浮かべた表情だった。


「人間とはまったくもってもろい……なに!?」

 崩れた壁からタイル剥ぎ地面を這うように氣の塊がブラムを強襲する。しかしブラムは逡巡ののち手をかざし地面を走る氣の塊を霧散させる。


「ほぅ、まさか人間がアレをまともに食らって生きているとはな……」

「ブラムさん……交渉決裂でいいですよね?」

 満身創痍の姿で剣を支えに立ち上がるカリン。服は裂け体中にキズができ額からは血が流れている。それでもカリンは剣を構えブラムを見据える。


「ふん。我は最初から交渉などしたとは思っておらんがな」

「わかりました……では、強制執行します!」

「はっ、そんな体で何ができる!」

 キズだらけのカリンとどめを刺すため疾走するブラム。カリンも走りブラムと戦う覚悟を決めた。


「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!」

 カリンの剣撃なんなくかわしブラムの反撃のハイキックをカリンは紙一重でかわす。しかしブラムの反撃は終らないさらに回し蹴りで追撃をかける。


 メキッ……


「あうぅ……!」

 回し蹴りを左腕で防御した瞬間、苦痛に顔が歪む。カリンにははっきりと聞こえていた骨が軋む音が。

 折れてはいないが少なくてもヒビは入っているだろうと認識する。


(左手に力がはいらない……剣を支えるだけで精一杯か……)


 ブラムは攻撃の手をゆるめずにカリンに水平蹴りの追撃をかける。


「ぐ、はぅうぅ……!」

 ダメージを受けた左腕に再度直撃。そしてその左腕は骨がポッキリと折れカリンの意志とは関係なく、だらしなくダランと垂れ下がった。


「そら、とどめだ!」

「くっ……!」

 カリンはジャンプ一番でブラムの追撃の蹴りをかわし空中でとっさに膝を胸の前まで引き寄せて右足カカトのレビテートシューズのスイッチを入れた。


 ほぼ思いつきの攻撃論で左足で一本で地面に着地しそのまま壁に向かいジャンプ。


「なんだとぉ!?」

 驚愕のブラム、それもそのはずカリンが壁にジャンプしそのまま右足一本で横体勢になり壁面を滑っていたのだ。


 ブラムの一瞬の戸惑い、カリンはその一瞬も逃さなかった!

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 ザシュ…………


 剣が凪ぐ。飛び散った赤い色が軌跡を描き剣先を彩る。


「やっぱ……あんな攻撃じゃダメだね……」

 魔王の右腕から赤い鮮血が滴り落ちる。


 力なく着地し倒れ目線だけ魔王に向ける。そこにはこちらに振り向き何事もなかったように佇む魔王がいる。


 自分の右腕から流れる血に気づいて眺める。その顔は久しぶりに会う親友を見たような懐かしがる表情になっていた。


「見事だ。不意を突かれたといえ我が血を流したのはなんと久しぶりか」

 倒れたまま視線を自分に向けているカリンに向け賞賛の言葉を投げかけ問う。


「人間の娘よ。死ぬ前に問う。お前の言う『未来の勇者』とやらが現れなかったらどうするのだ?」

 カリンは剣を支えに立ち上がり苦笑を浮かべ魔王の問いに答え始める。


「何を……言ってるですか? あなたは……自分の立場を……わかっているんでしょ?」

 肩を上下させ荒い息継ぎをしながらカリンは口を開いた。


「どういう意味だ? 人間の娘よ」

「あなたが世界の破壊や征服を望んでいる『魔王』と呼ばれる『闇』ならば世界を守る事や人々を救う事が望みの『勇者』と呼ばれる『光』が必ずいるはずです!!」

 最後の力で精一杯咆哮する。


「そうか、ではさよならだ。そして、最大の賞賛を込めて楽に逝かせてやろう」

 天に左腕を掲げ最大限の力を込めて闇の波動を集約しカリンにその左腕を向ける。


「最後に……リリスさんとこのメロンパン食べたかったな……」


 『この世に残す最後の言葉がこれかなのかなぁ』とカリンは思いプッと吹き出し少し笑ってしまった。


 そして打ち出される暗黒の波動。


 カリンは目をつむり今この瞬間に十六年の生涯を終えようとしていた。


 その時、風が過ぎ去りカリンの髪を揺らした。


「えっ……」

 カリンは過ぎ去った風の方角を見た。


「な、なんだと!」

 驚愕のブラム。それは左手に集約していた『闇の波動』が斬り裂かれて一瞬で弾け飛んで消失からだった。


「ひ、光の……剣?」

 カリンが呟く。


 カリンを守るように立つのは見知らぬ青年の背中。その青年は光でできた不思議な剣を持っていた。


 青年はカリンの方へと振り向きカリンの元へと歩み寄る。


「待て、貴様ぁ!」

 魔王と呼ばれる男は小さい闇の波動を手のひらから打ち出す。


 青年は振り向きざまに光の剣を振り上げ、闇の光を斬り裂いた。


「な、また!」

 ブラムは自分の闇が二度も斬り裂かれた事に瞳孔が開きおののく。


「ぎゃあぎゃあ騒ぐなよ。発情期ですかこの野郎。そんなんじゃ魔王ブラムの器は知れたな」

「魔王ブラムの器が知れるだと……きっ……貴様!」

 ブラムは青年の罵声で怒りを露わにしてその拳は堅く握られている。


「あんたがカリン・エルヴァート?」

「あ、えっと……はい、カリン・エルヴァートはわたしですけど……?」

 傷だらけのカリンは青年の質問に答えた。


「ボロボロだな。これ飲みな」

 その答えを聞いた青年は透明度が高い水の入った小瓶をカリンに手渡した。


「あの、これって……」

 手渡した小瓶を受け取り、カリンは青年に問う。


「強力な治癒薬」

「ち、治癒薬……でも、いいんですか? わたしが飲んでも?」


 青年は『ああ』言って頷いた。その後は何も言わずにブラムの方へと振り向いた。


 カリンは何の疑いもせずに片手で器用に小瓶の蓋を開け、一口その中の水を口に含み喉に流した。


「えっ……すごい……腕が」

 つい先ほどまで傷ついて動かなかった左手が動く。さらに身体の傷までふさがり痛みまでもが引いていた。


「あ、あの、あ、ありがとうございます!」

 カリンはブラムと対峙する青年にお礼の言葉をかけた。


「礼はいいからここから逃げろ」

 青年はピクリとも動かずにカリンに向け言葉を投げた。


「逃げろって……でも、あなたを置いてわたしひとりで逃げるわけには!」

 カリンは青年に加勢するためであろうか、剣を構えた。


「俺の事はいいから早く! それやるから!」

「でも!」

 青年はカリンの言葉を遮り、大きな声で叫ぶ。


「レビテートシューズよりあんたの足下にあるウイングボードに乗ったほうが早くいける! しばらくしたらヴァイスとやらが豪快に助けに来るから、そいつらと一緒に逃げろ!」

 青年は横目でカリンに視線を向け足下に転がっているウイングボードを指さした。


「なんで……レビテートシューズの事を知ってるんですか? えっ? 隊長が来るって……なにを言って、」

 青年はカリンの言葉を最後まで聞かずに魔王と呼ばれる男に光の剣で斬りかかる。


「我に……魔王ブラムに刃向かったこと、後悔させてやるぞ! 人間!」

 魔王ブラムの蹴撃をかわし、光の剣を降り下ろす。


「あ、待ってください!」

 魔王ブラムと青年はカリンの言葉が届かず剣と拳を交えながら城の最奥へとなだれ込んでしまった。


「ど、どうしょう……」

 カリンは逃げるか後を追うかの選択に迷っていたが……


「怖いけど……ブラムさんと戦うのは怖いけど……やっぱりあのひとを置いていけないよ!」

 カリンは青年が言っていた板を手に持った。


「あのひと……これがレビテートシューズより早いって言ってたけど……よし!」

 カリンはその長方形で先端が丸まっている板に乗って青年に助太刀をしようとしたその時。


 ゴゴゴ……ドォン!


 轟音とともに突然天井が崩れだし、カリンはバックステップで距離をとる。が、あまりにも強い爆風でカリンはしりもちをついてしまった。


「な、なに……?」

「カリンか?」

 粉塵から名前を呼ぶ声が聞こえてくる。そしてその声は聞き覚えのある声。カリンはこの声の主を知っている。


「えっ? もしかして隊長さんですか? ヴァイス隊長さんですよね?!」

「なんで『さん』付けなんだ?! ……まぁその元気があれば大丈夫そう……ではなさそうだな」

 粉塵が晴れてカリンはヴァイスと目が合った。


「ひどい血だな……待ってろ。もうすぐアクアが来るはずだ」

 ヴァイスはカリンにかけより心配な面もちで片膝をついた。


「あ、あの……傷ならもう……それより隊長!」

「カ、カリ〜〜ン!」

「ふぇ!? ふぇえぇぇぇえ!?」

 突然、ヴァイスの後ろから飛びつきカリンに抱きついてきた人物それは……


「ア、アクアちゃん?」

「血だらけじゃない! 待ってて! すぐに治癒魔術をかけるから」

 アクアは目を閉じカリンに手をかざし、魔術詠唱を始める。


「ま、待って! アクアちゃん待って! わたしなら大丈夫だから」

 カリンはかざされたアクアの手を握り、治癒魔術詠唱を中断させる。


「なに言ってるの?! カリンわかってる!? すごい血が出てるんだよ!」

「大丈夫だってほら」

 カリンは前髪をあげ、アクアに自分の額を見せる。


「えっ……ホントだ……血は垂れてるけど……傷が塞がってる?」

 額をマジマジと見たアクアはそう答えた。


「確かに……血の割には大したケガじゃない……いや……完全に傷が塞がってる……?」

「なんだぁ! お前たいした傷じゃないな!」

「ほんとですねぇ〜へぇ〜」

 イグニール、ガイアル、ランスレットがカリンの額を見てそれぞれの感想を述べている。


「それより隊長! お願いがあるんです!」


 そんな中、冷静に事を見ていたヴァイスとランディアスがカリンの言葉に視線を向けた。


「どうした?」

「わたしを助けてくれたひとがいるんです! そのひとはわたしを逃がすために……いま、ブラムさんと戦っているんです! 隊長、お願いします! そのひとを助けてあげてください!」


「助けてくれたひと?……カリン。今、『ブラム』って言わなかった? もしかしてブラムって……」

 イグニールがカリンに問いかける。


「あっ……えっと……はい魔王ブラムさんです。わたし魔王ブラムさんと……一戦交えました」

「やっぱりか……」

「そうだな」

 カリンの言葉を聞いてヴァイスとランディアス以外の顔が強ばる。


「詳しい事情を聞こう。すまんがランディアス。周りを警戒してくれ。あの轟音だ魔物が来るかもしれん。もし魔物がきたら容赦なく倒せ」

「わかった。じゃあ、ガイアルとイグニール、それとランスレット。悪いけど三人も手伝って。アクアはいつでも治癒魔術が発動できるように準備してて」

 ランディアスの隊員にそれぞれ指示を出だし、ヴァイスとカリンから背を向け等間隔で武器を構え警戒を開始する。


「カリン話せ。手短にな」

「はい」

 カリンは力強く頷く。


「えっと、わたしはついさっきまで魔王さんと戦ってたんですけど……」


 戦いの最中に重傷のケガを負ったこと。左手が折れたこと。そして……自分を助けた『光の剣を持った剣士』の事その光の剣を持つ剣士から治癒薬をもらったことを簡潔に、さらに要点だけを自分なりにまとめてヴァイスに話したのだった。



 ◆



「と、言うわけなんです。わたし助かったのも、ケガが治ったのもそのひとと、そのひとからもらった薬のおかげなんです」

 一通り話終えたカリンはヴァイスを見る。


「光の剣か……」

 ヴァイスの顔はカリンの話に半信半疑と言った所だった。


「隊長、お願いします! わたしじゃブラムさんには勝てません! だから、あのひとを……助けてください!」

 ヴァイスはカリンの瞳を見る。その目は嘘をついているように思えない真剣な眼差しと焦り。すがりつくような目でカリンはヴァイスに訴える。


「ランディアス聞こえるか! 設置任務を放棄して今からこの城を脱出する」

 離れた位置で魔物を倒していたランディアスにヴァイスが言葉を投げる。


「隊長! なんで……」

 カリンはヴァイスの言葉に愕然として膝から崩れ落ちた。


「後のことはすべてランディアス。お前に一任する。誰ひとり欠けることは俺が許さんからな」

 ヴァイスの元に駆け寄ったランディアスが剣をしまう。


「わかった。だけど『誰ひとり』と言うのはもちろんヴァイスも含まれてるからね」

「ああ、わかった。立てカリン。任務終了だ」

「隊長……でも!」

「カリン。俺は今から単独でお前を助けた者に救援に向かう。だから安心して外で待ってろ」

「ふぇ……? 脱出するんじゃ……」

「脱出は俺以外だ。お前はみんなと一緒に脱出しろ」

「そんな! わ、わたしも行きます! 隊長と一緒なら、」

「いいからお前はみんなと行け! 邪魔だ!」

「ううっ……でも、わたしは……」

 うなだれ、浮かせていた臀部を地面に置く。


「カリン。立ってくれないか? 時間が惜しいんだ」

 ランディアスがカリンにやさしく言葉をかけた。


「……」

「カリン?」

「……」

「……ヴァイスは悪気があってカリンの事を邪魔だなんて言ったわけじゃないよ? ブラムの強烈な猛攻からカリンを守りながらは戦えない。だからあんなキツい言い方をしただけだよ。そうだろヴァイス?」

 ランディアスはヴァイスの方を向いた。


「集中してるな。氣を探ってるか……」

 ヴァイスは目を閉じ全身の神経を集中させていた。それは体内から溢れでるふたりの殺気や気配など察知するため。これは格闘家ならではの氣の操作法。達人域に達したものは相手の位置や強さを氣で探るという。それができるヴァイスは達人の域に達した格闘家という事を雄弁に語っていた。


「見つけた……」

 閉じていた目を覚醒させ、ヴァイスはランディアスの

方へと視線を向ける。


「後を頼むぞ。ランディアス」

「生きて帰ってこいよ」

「わかっている」

 ランディアスへとひと言、ふた言かけると視線を城の奥へと向けた。


「あ、あの隊長」

「なんだ?」

 今まさに、ブラムとカリンを助けた者の元へと向かうヴァイスにカリンは恐る恐る声をかけた。


「あのひとに伝えてください。『借りたもの』を返したいから必ず戻ってきてくださいって」

 カリンは先端が丸まった長方形の板を抱きしめてヴァイスに告げた。


「わかった。伝えよう」

「ありがとうございます。じゃあ、お任せします」

「ああ。任されてやるぞ」


 そして、ヴァイスは光のような急加速であっと言う間にカリンたちの視界から消えてしまうのだった。


「よし、俺たちはこの城からでるよ。隊列はレビテートシューズを起動させて『騎士の槍(スピア)』で行く。しんがりは俺が勤める。ガイアルは『矛先』、ランスレットとイグニールはガイアルのサイドの『返し』だ。アクアとカリンは俺たち間に入って支援攻撃。アクアは治癒魔術詠唱で待機。場合によっては魔銃でサポートだ。みんな準備はいいな?」

 それぞれ一様に頷く。


「……カリン。その板は持っていくの?」

「はい。これはわたしの助けてくれたひとの物ですから」

「わかった。なら絶対に落とさないで」

「はい!」

 カリンは大きく返事をして、板を右の脇にしっかりと挟み込む。


「よし、行くよ! みんな絶対にこの城から出るよ!」

 ランディアスの一斉の元、六人はレビテートシューズを起動させ闇の城から抜け出すために滑り出した。



 ◆



「ガイアル! 魔物を倒そうとしちゃだめだ! 極力かわして、足を止めずに突き進むことだけを考えて!」

 『闇の城』脱出のためにレビテートシューズで滑り出し 数十分たった後、ランディアスは先頭を突き進むガイアルに叫ぶ!


「わかってるけどよぉ! 魔物の数が多すぎるぜ!」

「だからって止まったらそれはそれで、終わりだよ!」

「ったく、わかったよ!」

 ガイアルは文句を言いつつも足を止めずに足を前に進ませる。


「うわぁあぁぁああ〜〜〜〜〜〜!」

 ガイアルの左で魔物の対処を任されていたランスレットの叫び声が聞こえてくる!


「くそ! ランスレット!」

 今まさに、ランスレットは魔物に補食される寸前の所で牙を槍で押さえている状態だった。そんな状態のランスレットにランディアスが声を上げる!


火炎弾(フレアブリッド)!」


 ブォボゥブオオォォオオオ〜〜〜ン……


「危なかったぁ……あ、ありがとうございます! イグニールさん!」

 魔物が断末魔の雄叫びを上げ燃え屑になって消えてなくなった。ランスレットは間一髪の所で、イグニールの火炎魔術で助けられる。


「ランスレット! 気をつけて!」

「は、はい! すいません!」

「謝罪はいいから、急いで体勢を立て直して!」

「は、はい!」

 ランディアスに叱咤され、滑りながら体勢を立て直すランスレット。


「みんな、もうすぐ出口だ! 油断しないで!」

 それぞれ、返事をすると目の前に入ってきた出入り口が見て取れた。


「駆け抜けろ!」

 ランディアスの号令で全員レビテートシューズの出力を最大にして出入り口を駆け抜けていった。



 ◆



「……カリン。もう帰ろ?」

「ごめんアクアちゃん……あと一時間だけ……」

「……わかった」


 

 カリン達が城から脱出して三十分後。



 ヴァイスがひとりで戻ってきた。カリンが自分を助けたひとはどうなったのか訊ねると、ヴァイスは『あいつは別のルートで脱出した』との事だった。そして、城の外で落ち合おうと約束していた事も聞いた。


 二時間後。


 結局、カリンを助けた光の剣を持つ剣士は姿を現さなかった。



 ◆終章◆



 二日後。


 カリンは自分を助けてくれたあのひとから『借りた』長方形の板を持って、午前中の街をぶらついていた。


 もしかしたら偶然に自分を助けてくれた『あのひと』にあるかも知れない淡い期待を胸に。


 『借りた』には治癒薬もあったのだがそれはアクアが『ちょっと調べたい』との事で現在はアクアの手の元にある。


 きっかけは試しにアクアが指先に乗せた治癒薬を舐めた事から始まった。

 アクア曰く、『死にかけの身体には良薬だけど、健康な身体には毒薬』との事だった。この不思議な薬の解明のためにアクアは暇があったら治癒薬にかかりっきりになっていた。

 一度『返して』と言ったがアクアは断固返さなかった。


 

 ◆ 


 

 二時間、三時間と歩いてもカリンは会えなかった。もう帰ろうかというときに『おや、お嬢ちゃんはあの時のお嬢ちゃんかい?』とおばあさんの声が耳に届く。


 声の方へと向くと街角で三角形のテントを張っているおばあさんがひとり水晶玉の前で座っていた。


「あ、あの時の占いのおばあさん。わたしの事覚えてくれてたんだ」

 カリンは二日前にアクアと一緒に占ってもらったおばあさんへと声を返す。


「ああ、左右の色が違う珍しい瞳は、そうそう忘れられるものじゃないよ、どうだい元気にしてたかい?」

「あ、うん……」

 やさしい面もちと声でカリンは導かれるように黒マントとフードをかぶった占いのおばあさんの元へと歩いた。


「ん? なんか浮かない顔だねぇ?」

「おばあちゃん。おばあちゃんの占いさっそく当たったよ」

「ほぉ、そうかい。じゃあ『光を刃に変えし者』に出会ったかい?」

「うん。わたしを助けてくれた。だけど……ねぇ、おばあちゃん。占いってひとの居場所とかって、わかるのかな?」

「居場所ねぇ……さすがにそれは無理だね」

 おばあさんはしわのある顔をさらにしわくしゃにして渋い顔を露わにした。


「そうだよね……じゃあさ、生きてるか死んでるのかも占いでわかるかな?」

「生死か……その者が持っていた『何かの物』があればそれくらいはわかるよ」

「えっ、ホントに!」

 カリンの目が輝く。


「じゃあ、あの、これ、これがわたしの助けてくれたひとが持ってたものなんだけど!」

 カリンは長方形の板をおばあさんに見せる。


「大きいものだねぇ……何に使うんだい?」

「乗り物だって」

「乗り物? まぁいいさ。じゃあ地面に置いてくれるかい」

 カリンは言われたとおりテントの目の前に置いた。


「あ、お金……」

 カリンは肩掛けカバンからサイフと取り出した。


「ああ、お代はいらないよ。今日でこの街での占い業は終わりだから。お嬢ちゃんはタダでいいよ」

「えっ、終わりって……?」

「ああ、今度は隣の街で占いをやろうと思ってね。今日の夕方の列車でここを発つよ」

「そうなんだ。アクアちゃんともう一度こようって話してたのに……」

 カリンはとても残念そうな言葉と表情でアクアの事を思う。


「ああ、元気でな。もうひとりのお嬢ちゃんによろしく伝えて置いておくれよ」

「うん。おばあちゃんも元気で」

「ありがとう。じゃあ、占おうか。どれどれ」

 おばあさんは水晶玉を凝視し、占いを始めた。


「む、荒いな……本棚? むぅどうやら誰かと食事中だね……女性……いや女の子か?」

 ひとりごとのようにつぶやくおばあさん。


「むぅ……途切れたか。ふぅ……」

 ひとつ大きな息を吐いておばあさんはカリンを見る。


「安心おし、お嬢ちゃんを助けた剣士は生きているよ。元気に食事をしておった」

「ホントですか! よかったぁ〜 あ、でも居場所はわからないですよね」

「ああ、すまんね」

「いえ、生きてるだけでもよかったです。生きていればいつか会えますから」

「ああ、そうだね」

「あ、あの……ついでと言っては失礼ですけど、もうひとついいですか?」

「なんじゃ?」

 おばあさんは水晶玉を拭きながらカリンの話に耳を傾けた。


「あ、あの……もしかしてですけど……この『光を刃に変えし者』って『勇者さん』ですか?」

「違うな」

 あっさりと否定する占いおばあさん。


「この者からは『未来の可能性』を感じないし、『光ではない』」

「でも、『光の剣』を持ってましたよ?」

「光は光でも勇者の光はもっと眩しいものじゃ。その光は剣ではなく勇者そのものから発せられる救世の光。世界を平和で照らすことのできる光じゃ」

「……む、難しいですね……」

 カリンは人差し指でほおをなぞる。


「そうじゃな……だが、もうすぐ勇者は覚醒する。私の占いではそう出ているんじゃ」

「もうすぐって……いつですか?」

「明日か一年後。または百年後ぐらいじゃ」

「それって……『もうすぐ』って言えないんじゃ……」

「まぁそうじゃな。だがたいてい占いの『もうすぐ』と言うのはあいまいなんじゃよ」

「はぁ……そういうものなんですか……」

「ああ、そういうもんじゃ」


 そして、しばらくカリンは占いおばあさんと『勇者』についてあれでもないこれでもない会話をしていた。



 ◆



「さて、じゃあ、これどうしょうかな……」

 カリンは地面に置いた長方形の板を持ち上げた。


「使えばええ。それで会えたら返せばええ。それは乗り物なんじゃろ? 乗り物は乗られるのが本分じゃよ」

「……そうですね。あのひとも『乗れ』って言ってましたし。おばあちゃん。ありがとう!」

「ええって」

「じゃあ、わたし行くね。あ、またこの街に来てね! 絶対だよ!」

「ああ、わかったよ」

「うん、じゃあ元気で!」


 カリンは大きく手を振って占いおばあさんの元を去った。



◆終章/宝箱設置隊・物語改変版(世界線デルタ)・完◆


お久しぶりです。間宮冬弥です。


まずは最後まで稚拙な小説を読んでいただきまして、誠にありがとうございました。


さて、今回は最後にオマケとして宝箱設置隊まるまる全話描いてます。これはこの『宝箱設置隊』を今の自分が書き直したらどうなるのかな?っていうテーマでもあります。まぁ結果としては僕の代弁者も言うようにリメイクの枠を飛び出して『仮面ラ○ダーディ○イド』みたいな感じになってしまいましたが概ね自分的には満足しています。


それと、主人公の青年にしゃべる描写がないのは『ゴッ○イーター』や『ドラクエ』みたいなしゃべらない描写の主人公を描いてみたかったっていうのがあります。でも結果的には実力不足で完璧にしゃべらない描写ができなかったのが無念ですが…


青年の光の剣はたぶんソード○ート・オン○インを思い出すひともいるでしょうが、自分としては『スター○ォーズ』をイメージして描いているつもりです。これも時代の流れですね。


では、長文になりましたが、これで失礼します。

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