オマケ01 宝箱設置隊・物語改変版(世界線デルタ)
◆序章◆
みなさんはRPGゲームをプレイしてて洞窟や塔と言ったダンジョンと呼ばれる場所には当然足を踏み入れたことがあるでしょう。
そしてそこで当然のごとく『宝箱』発見して開き、中のアイテムを入手してるはずです。
ですが、街の人に話を聞くと『あの洞窟に行ったら誰も帰ってこない』やら『あの城は魔王の住処だから近づくだけ殺される』といった話が聞ける時がこれまた当然にありますよね?
では、なぜその場所に『宝箱』が置いてあるのか? そう思ったことはありますか?
魔王が勇者の為に宝箱を置くなんて考えられませよね? 世界を滅ぼそうとしてるヤツですから。
ならばなぜ『宝箱』があるのか? そして置いてあるのか? そうです。いるはずなんです! 宝箱を置いているひと達が!?
この物語はそんな宝箱を置くひとつの部隊『宝箱設置隊』と似て非なる世界での物語である。
◆序章・終◆
「今回は六大魔王の一人、闇の魔王ブラムの城に宝箱を設置する!」
大きな机に七人の人物が座っていた。
朝の定例会議。その会議が始まるやいやな唐突に言い放つのは宝箱を設置する実行部隊『闇の剣』の隊長ヴァイスの言葉から始まるのだった。
ヴァイスは年の頃なら二十五〜七歳くらい。顔立ちも若さが出ている隊長だ。しかしその信頼性は絶大で他の部隊からも信頼がある。
周りからは「とうとう魔王か!」や「やってやるぜ!」やら威勢のいい声が聞こえるなか、入隊してから三ヶ月になる短い金髪が眩しく、瞳の色が左右違うこの物語の主人公であるカリン・エルヴァート絶句していた。
「あの……ヴァイス隊長……本気ですか?」
と、十六才になったばかりの新米剣士カリンがそんなことを言ってみた。が、カリンにはわかっていた。その質問が無意味であることを。無意味とわかっていても訊かずにはいられなかった。それはあの魔王城に宝箱を設置するというのだから。
「もちろんだ! カリン・エルヴァートよ!」
思ったとおりの返答にカリンは『やっぱり……』とうつむきため息まじりにつぶやいた。
ヴァイスが相手をフルネームで言い放つ時は確実に実行する証拠だ。本気で魔王城に宝箱を置く気なのだ。
カリンはふたたび深いため息をつき、入隊したてのころの初仕事。『ドラゴンが住まう森』の事を思い出していた。
(ううっ……あの時もこんな感じの始まりだったなぁ……大変だったなぁ)
しかし三ヶ月前とはいえ、今となってはその初仕事はいい思い出になりいい経験になっていた。
「カリン! カリン!」
ヴァイスの呼ぶ声にカリンは浸っていた思い出から呼び戻された。
「なに、ぼぉ〜としてるんだ! 設置会議を始めるからこの魔王城の見取り図を見ろ!」
「は、はい! すいませんでした!」
ヴァイスの叱咤にカリンはすぐにテーブルに広げられた魔王城の見取り図に視線を移す。
「よし、まず『風の剣』が偵察してきたこの見取り図をみてくれ」
部屋の中央にある大きな机に広げきれないほど大きな魔王城の見取り図をを見てその圧倒的な広さにカリンの蒼と紅の目が点になる。
地図上で六階建ての魔王城はかなり広く一階だけでも部屋が二十以上ある城だった。
そして、この大きな地図がなんと縮小図だとヴァイスが言った。その場の皆が少し立ちくらみを起こしたのはきっと気のせいではないだろう。
ちなみに「風の剣」とは偵察・諜報部隊のことで主に洞窟や森の偵察や見取り図の製作や街に住む人数やその周辺の魔物の種類の収集などが主な仕事だ。その「風の剣」が製作した見取り図のもとに今回のような作戦会議を開くのである。
「とんでもなく広いですね……いやむしろ無意味に広すぎるくらい……」
実行部隊『闇の剣』の好青年。副隊長ランディアス(歳はヴァイスよりも下)が口を開いた。
「その通りだランディアスよ! 見ての通りとんでもなく広い! そして無意味だ! よって今回の作戦は各階同時設置とする!」
他の隊員達はわかりきっているがカリンだけが目がさらに点になりきょとんとした。
「あ、あの〜隊長、各階同時設置ってなんですか?」
と、とっさにカリンが初めて訊く作戦名なのでヴァイスに申し訳なさそうに恐る恐る尋ねる。
「そうか、カリンは初めてだったね。この作戦は」
ヴァイスに代わりランディアスが説明役を買って出てくれたのでカリンは耳をランディアスに傾ける。
その間宝箱設置会議はひとまず小休止に入った。その他の隊員達、といってもカリンとランディアスを抜いた五人だけだがなのだが。は、思い思いの行動をとる、ジュースを飲む者や本を広げる者もいた。
「いいかいカリン。この各階同時設置は簡単に言うと一人で一階または二階分を全てを受け持つことなんだよ」
「えっ!? それって、一人で一階分の全ての宝箱を設置するってことですか!?」
「ご名答。物分りがよくて助かるよ」
「ふえぇ〜〜〜〜! ム、ムリですよぉ〜〜〜だってまだ入隊して三ヶ月ですよ? わたし!?」
「ううん違うよ、カリン。もう三ヶ月だよ」
やさしくにっこりと口を開くランディアス。そんなランディアスの笑顔にカリンは『イヤイヤ、ムリですって!』と胸中でつっこんだのは言うまでもなかった。
「ランディアス副隊長、考えてみてくださいよ! この無駄にただっ広いこの城を一人で設置するんですか!?」
カリンは無駄だと思ったが抵抗を試みてランディアスに進言する。
「話を聞いていただろ? 誰も一人で全階に設置しろじゃなくて一人一階!」
「そうですけど、でもですね!」
「そういうことだ! 見苦しいぞ! カリン・エルヴァート」
ヴァイスのフルネームでの激昂を合図に散り散りになった隊員たちが席に着き始める。そして同時に、同時設置の説明は終止符を打たれたのだった。
「カリン、この作戦には意味があるんだ」
全員席に着いた事を確認しヴァイスが切り出す。
「ふぇ? 意味ですかぁ?」
今にでも泣き出しそうなカリンの表情と声。そんなカリンの心中を無視してヴァイスが切り出したのは闇の魔王ブラムの『特殊な城』の事だった。
この『闇の城』と呼ばれる城は夕暮れから朝方にかけてしか現れない城。つまり夜の時間にしかお目にかかれない不思議な城。と、いう訳である。
しかも朝方までに城を脱出しないとその日の夕暮れまで城に閉じこめられ出られないといった最悪な状況がまっている。
場合によっては夜まで魔王ブラムと、そのモンスター達と夜通しバトルなんてことになりえない。
「と、言う訳だ。わかったか? だから今回は時間がないんだ。本来なら魔王と話し合いののちに後から宝箱を設置するのだが今回は事後報告という事で話をつける」
(話し合いぃ〜〜〜〜)
疑いや不安が交じり合った表情でヴァイスを見るカリン。その表情を読み取ったのかヴァイスがカリンに口を開いた。
「どうしたんだカリン? なにか言いたい事がある言っていいぞ」
「あ、いや……その、話し合いって本当に魔王と話し合うんですか?」
「当たり前だろ? 勝手に宝箱を置いて帰れるか?」
「そうですけど、もし、魔王が『宝箱は置いちゃダメ』って言ったらどうするんですか?」
「その時は実力に訴えるまでだ」
(やっぱり……そうなんだ)
きっぱりと言い放つヴァイス。肩をガックリと落とした。しかしそのじつヴァイスが実力に訴えたのは一度や二度ではなかった。イヤむしろ話し合いで決着が着いたことなどカリンの知る由では一度もなかった。
「じゃあ……バトるんですか? 魔王ブラムと?……」
「そうだ」
「ふえぇ〜〜〜! ムリですって! 魔王ブラムですよ! 魔王なんですよ!? 死んじゃいますよ〜〜〜」
童顔の赤と青の色違いの瞳からとうとう涙をいっぱい流して中止を懇願するカリン。
「カリン・エルヴァート。いい機会だ、お前ももう入隊して三ヶ月。魔王の一人や二人倒せないようじゃランクの高い宝箱を設置できないぞ!」
「ううっ本気なんですね。本気で魔王と戦うんだ……」
流れる涙が床に水たまりを作りそうなほどの涙。
そして、隊長の絵に描いたような不気味な笑みの中カリンの頭の中が真っ白になった。ヴァイスの『設置は今夜決行だ!』の言葉と共に……
◆
「ふぅうぅうぅぅうぅ〜〜〜今夜設置かぁ……隊長もいきなりすぎるよぉ……」
『闇の剣』本部の屋上でカリンは澄み切った青い空を見て魔王ブラムと戦うことになるかもしれない事で絶望を感じていた。
「どうしょっかな……逃げちゃうかな……ううんそれはできないや」
カリンはすぐに『逃げ出す』という選択肢を排除した。
カリンをこの『闇の剣』の部隊に誘ってくれたヴァイスに恩を感じている。自分が必要と言ってくれたヴァイスを裏切る事はできないと誓っていた。
「よし! 覚悟を決めるぞ!」
両のほおを両手で叩き気合いを入れるカリン。
「うん、まずは剣の手入れをして……そのあとにリリスさんのメロンパンを食べてそんで夜まで備えよう!」
カリンは今後の行動を頭で決め、踵を返す。
「あ、カリ〜ン。ここにいたんだぁ〜探したよぉ〜」
その時、屋上に通じるドアを開けて現れたのはカリンの同僚あり年も近いし仲もいい。『闇の剣』の隊員である魔術師『アクア・エヴァンシェリア』だった。
「あ、アクアちゃん。どうしたの?」
「うん、カリンを探してたんだぁ」
間延びする言葉使いが特徴的なアクアはカリンに言葉を続ける。
「カリンお腹空いてるでしょ? 今から何か食べにいかない?」
「ふぇ? ど、どうしたの? いきなり」
「えっ、お腹空いてないの? もうすぐお昼だよ?」
アクアは人差し指を頬に当て、首を四十五度くらい角度をつけてカリンを見つめた。
「そ、そうだけど」
「なら行こうよぉ、ほらぁ」
「あ、ちょっ!」
アクアはカリンの手を取り引っ張る。
「あの? アクアちゃん! なんだかいきなりすぎないかな?」
「だってぇ、カリンは魔王ブラムと戦うかしれないって事で今、すごく沈んでるでしょ? だから私がカリンを元気づけてあげるよ。だから何か食べよ! おいしいものを食べれば元気でるって! 私ねぇ安くて美味しいお店知ってるからそこに行こう」
「……うん、そうだね! 美味しいもの食べてがんばるぞ!」
カリンは満身の笑顔をアクアに向けた。
「アクアちゃんありがとう……」
「うん? なにか言った?」
「ありがとう。心配してくれて」
今度はアクアにも聞こえるように気持ち大きめの声で言う。
「どうしたしまして。だって友達でしょ?」
そして、そのあとふたりは街に繰り出し、アクアが知っているお店でお昼ご飯を食べて、街角で営業していた占い師に占いをしてもらい、夜を迎えるのだった。
◆
太陽が世界を照らす役割を果たし、代わりに双子の月が世界を照らす時間。カリン達はブラム城があるだろうに広大な湖のほとりにいた。
「隊長。あと、三十〜四十分ほどでブラム城が姿を現します」
隊員のランスレットがヴァイスに報告する。
「わかった。よし、みんな最終確認だ。集まってくれ」
隊長の号令に隊員たちがヴァイスの周りに円陣の形で集まる。ヴァイスはひとつ頷き、集まったのを確認し最終確認が行われる。
「まずは一階だ。一階はカリン。お前に任すぞ」
「は、はい!」
カリンは気合いを含んだ返事を返す。
魔王と戦いたくない思いが通じたのか魔王から一番遠いフロアの一階担当が剣士のカリン。
ブラム城がある湖を見上げ『よかった〜 一階で……』と心底から思っていた。
二階担当がカリンより二ヶ月早く入隊した槍使いのランスレット。お調子者だが槍に関してはヴァイスも認める超一流だ。 こちらも『がんばります!』 と気合を入れて返事を返し宝箱設置作戦に望む。
三階担当が自分の背より大きい大剣を持つ大男。実はヴァイスと同じくらいの年齢だが、その無精ひげを生やした顔と豪快な性格で年相応に見られないガイアル。こちらはヴァイスに向かって『任せろ!』と一言言う。
四階担当が魔術師のアクア。カリンと同い年で美少女という言葉がぴったりの女の子。端整な顔立ちで長い髪が印象的。そしてなによりとても穏やかで華奢な体つき。見た目はとても戦闘などできないような女の子だった。
しかし、護身用なのか腰には『二丁の銃』が携えていた。
アクアは対線上にいたカリンと目が合いお互いに頑張ろうねといった感じに小さく手を振った。
(アクアちゃん回復系の魔術だけで大丈夫なのかなぁ〜)
と、カリンが心中で思う。しかし不安が顔に出ていたのかそんな空気を察したのか隣にいたガイアルがカリンに小声で話し掛けてきた。
「カリン。アクアが心配かい?」
「えっ? はい心配です。だってアクアちゃんは回復系魔術しか使えないんですよね?」
カリンもガイアルと同じくらいの小さいボイストーンで話す。
「その心配はいらないぜ。あいつはおまえが思っている以上に強いぞ? 回復魔術なんてオマケみたいなもんだ」
「ふぇ? そうなんですか?」
「ああ、あいつの二挺銃技は超一級品だからな」
「二挺銃技?」
カリンは首を傾けガイアルに疑問を返す。
「なんだ? カリンはアクアから訊いてないのか?」
ガイアルはアクアが銃使いなのを知らなかったことが意外だったのか目を見開きカリンに聞き返す。
「どういう事なんですか?」
「あいつは元・魔銃使いだぞ?」
「ええっ!! そうなんですか!?」
「本当に訊いてないみたいだな……カリン」
アクアの銃技の会話をしていると対角線上いたアクアが 『ごめんね〜カリン、別に隠していたわけじゃないんだよ〜』
と間延びした声がカリンとガイアルの耳に飛び込んでくる。
「へっ?」とガイアル。
「ふぇ?」とカリン。
みんなの目が二人に集まっていた。
「えっとぉ……アクアちゃん? もしかして聞こえてたのかな?」
カリンはそんな間の抜けな質問をしたらアクアは『あはは〜あんなに大きな声だから丸聞こえだよ〜』とこれまた間延びした返答が耳に響く。
「聞こえてたんだ? 小声で話してたと思ってたんだけど……」
となりのガイアルも同じくそうだとカリンに同調するように頷く。どうやら途中から話に集中してしまい大きな声に変換されてしまったらしい。
「そろそろ、最終確認に戻りたいのだがな」
カリンとガイアスがヴァイスに目を向けると腕を組み額にバッテン型の青筋が見えた。
「えへへ……」とカリン
「ははは……」とガイアル
笑ってごまかそうとしたがさらにヴァイスの青筋を増やしてしまった。
「すいません」
「すいません」
とふたりでまったく同じタイミングでハモりながら謝罪した。こーして話は再び最終確認へと移っていったのだった。
仕切りなおしてヴァイスが五階担当の名前を挙げる。五階担当はアクアと同じ魔術師のイグニール。だがこちらは攻撃魔術専門で逆にアクアとは正反対の魔術だ。
イグニールは二十代前半の気の弱そうな優男風だがなにぶん無愛想で無口である。だが『闇の剣』設立当時のからいるメンバーのひとりで実は高い状況判断能力は目を見張るものがあり信頼されている。
ちなみに閑話休題だが、設立当時のメンバーはヴァイス・ランディアス・ガイアス・イグニールの四人。その後にアクア、ランスレット。そしてカリンの順番で入隊を果たす。
イグニールは『がんばります……』 とか細い声で静かに言う。
「よし、最後の六階は魔王ブラムがいる階だ。この六階は俺とランディアスの二人で設置する」
六階担当は格闘家ヴァイスと倭国の武器である『サムライブレード』と呼ばれる片刃の剣を持つ剣士ランディアス。しかしランディアス本人は剣士を呼ばれる事を嫌い『これはカタナで俺はサムライ』と言い張る。これも閑話休題だが、サムライとは倭国の剣士の様なものだ。閑話休題終了。
この六階は魔王ブラムが居る階だけあってヴァイスとランディアスふたりでの設置なった。これは朝の設置会議で満場一致で決定した事項だ。
「ふたりだからって気を抜くなよ、ランディアス」
ヴァイスの言葉にランディアスが『ヴァイスもね』と告げて最終確認が終了した。それを待っていたかのように日が沈み湖の真ん中にうっすらと城のシルエットが姿を現す。
「時間ピッタリです。隊長」
ヴァイスに告げるランスレット。
「いよいよ設置実行だ! みんなバイブルは持ってきているよな?」
七人はそれぞれバイブルと呼ばれる聖書並みの大きさの情報端末を携えていた。それぞれの個性が現れているブックケースからバイブルを取り出しヴァイスに差し見せる。
「タイムリミットの設定するから時間設定画面を開いてくれ」
ヴァイスの言葉を合図に本を開き七人全員で『リアルモードオープン』と口を揃える。
それぞれの言葉に反応して中空に薄紫色の半透明な四角いパネルが浮き上がる。
各自現れた四角い画面を見ながら片手でパネルをタッチしてヴァイスが指定した時間設定画面を立ち上げる。
「えっと……時間設定は……確か……メニューから呼び出すんだよね?」
と、画面と睨めっこしながらカリンは自分自身で確認するように一つ一つ慎重にパネルをタッチしていく。
「やった! 開いた!」
「……リミット設定は十時間だ」
喜びも束の間ヴァイスからの痛い視線が届く。カリンはヴァイスに押されたのか画面と睨めっこを再開。リミット設定時間を10:00に合わせる。
「いいか、いくぞ! いち……にの……さん!」
ヴァイスの号令に一斉に『enter』と表示してあるパネルをタッチした。
ピッ……
と七つの電子音が鳴り設定時間が9:59になる。
「いいか常にパネルにこのリミット時間は表示しておけ。この時間内に宝箱を設置し、なおかつ俺たちは魔王と話し合いそして脱出しなければならない! 気合いを入れてこの設置に臨めよ!」
『はい!』
七人は同じ返事を返し、バイブルを閉じる。
閉じたのと同時にパネルが霧散して消滅。
そして、ヴァイスが宣言する。
「行くぞ! 魔王ブラム城に突入だ! みんなレビテートシューズを作動させろ!」
ヴァイスの指示でカリンはしゃがみ編み上げのブーツ(ちなみに男性はシューズ)のカカトの部分にあるボタンを押す。するとフワッと身体が低空に浮きだす。他の隊員達も同じ動作をし身体が低空に浮きだす。
「いいか! 会議で言ったと思うがこのレビテートシューズは「水の剣」の所有物だ! 壊すんじゃないぞ! カリン!」
「なんでわたしだけなんですかぁ!?」
などとツッコミを入れ、湖を氷を滑るように駆け出した。闇の魔王ブラム城に向かって。
◆
「ふわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ、退屈だぜぇ〜」
「そうだな〜〜退屈だなぁ〜」
そんな、中身のない会話をするのはブラム城の正門を守る槍を持つトカゲタイプモンスター『リザードマン』だった。
彼らは知らない。今、自分達に迫っている危機を……
「ん? なんだ?」
門を守るリザートマンAが水面に浮く『何か』を発見した。
「どうした?」
その言葉につられ門を守るリザードマンBがAと同じ視線を辿る。視線の先には『七つの水しぶき』がこちらにものすごいスピードで向かって来ていた。
「な、なんだ、あれは!?」
リザードマンBが叫ぶ。
「ヴァイス! ブラム城正門に門番モンスターリザードマンがいるぞ!」
「わかってる!」
ランディアスの忠告を機にさらにスピードを上げリザードマン二体に近づいていくヴァイス。
「な、なんだ! お前達は!?」
「我々は、宝箱設置部隊闇の剣だ!」
「なっ! たか……ぐふっ」
「がはっ……」
瞬殺。とまではいかないが秒殺。トカゲ型のモンスター二体は泡を吹いて気絶した。リザードマンに戦闘体勢に入るヒマを与えないほどの迅速さであっという間に倒してしまった。
「うひゃ〜〜〜〜相変わらず素手でモンスターを倒す所はすごいや」
カリンは気絶した二体のリザードマンを通りすぎる間際にチラッと見てヴァイスのすごさを改めて実感していた。
そしてヴァイスが蹴り開けた城門から流れ込むように進入する。
「カリン! 一階はまかせたぞ!」
「はい!」
カリンはランプで照らされている一階を最奥に向かって、ヴァイス達六人は階段に向かって二手に分かれ設置行動を開始した。
「ここから一番近い設置場所は……っと」
地面を滑りながらバイブルを開き『リアルモードオープン』と発言。中空に半透明のパネルを起動させる。そして『マップ』と表示されている小さい四角のパネルをタッチ。瞬間に画面いっぱいに魔王ブラム城一階の地図が映し出される。
「し、侵入者だ!」
「現在地は……ここか。それなら、次の角を右に曲がると近いな」
カリンが設置場所を確認している間に数体のモンスターが襲っていたがなんなくかわすカリン。
「よし! 確認終わり!」
バイブルを閉じブックケースにバイブルを納め、目的の設置場所まで急ぐ。
「いたぞ! 待て!」
一体のスケルトン型のモンスターが叫び、迎え撃ってくる。カリンは腰の剣を抜きこちらもスケルトンを迎え撃つ臨戦体制をとる。が、スケルトンモンスターの剣での攻撃をかわし反撃せず、そのまま廊下を滑り去っていく。攻撃したスケルトンモンスターは勢いを制御できず体制をくずし、その衝撃で骨がバラバラになる。
「まて! 逃がさんぞ!」
しかしバラバラになったはずの頭蓋骨が口を開きしゃべる。さらにバラバラになったはずのそれぞれの骨達がカリンに向かって意志を持ったように襲い向かってくる。ついでに他のモンスターの援軍も到着した。
「うひゃぁあぁあぁあ!」
横目でそれを見たカリンはうめき、前方にモンスターがいないことを確認して滑りながら後ろに振り向く。
「一気に吹き飛ばすからしっかり防御してね!」
なぜか自分を襲っているモンスター達に忠告をし、剣を腰の後ろまで引く。
「いっけぇ〜〜〜〜!」
腰の後ろまで引いていた剣を一気に斜め上に薙いだ。瞬間、大きな『氣の塊』が廊下のタイルを剥ぎながら地面を這うように疾走し、スケルトン型モンスター共々まとめて吹き飛ばす。
吹き飛んだモンスター壁や天井に当たってそのまま動かなくなったが、ピクピクと痙攣していたがほぼ意識も飛んでおり気絶に近い状態だった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ! と、とまんな〜〜〜〜いぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
カリンは剣から氣を放った反動で後ろに向かって引っ張られるように滑っていた。
「うきゃ〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
滑りながら勢いよく転ぶ。そのせいか蹴られた小石のように横転、前転、後転しながら転がっていく。
ドン!
「…………いっつ〜〜〜〜〜〜……」
慣性。カリンはレビテートシューズを履いているので今、低空に浮いている状態である。この法則が働いているので先ほどの剣での氣を放つ攻撃で発生した、『後方に働く運動状態を維持しながらスピードがあがる』状態のまま肩口から壁にぶつかったのだった。
「あいたたたた……浮力なくしておこ……」
そう呟いてカカトのスイッチを切り浮力を無くす。
「えっと、あそこから吹っ飛んだんだから……こっちでいいんだよね?」
走り出す。
「ん? あっ!」
走り出してすぐに目的の設置場所であろうの部屋の前に辿りつく。危うく通り過ぎるところで気づき、慌ててバイブルを開きマップを確認する。
「オッケイ! この部屋であってる」
扉は観音開きの扉でカリンは片方の取っ手を掴みゆっくりと押し開ける。途中でゆっくりと半顔で内部を覗きモンスターがいないか確認する。
「誰も……いない……よね」
モンスターの不在を確認すると流れる動作で部屋に流れ込み、そっと扉を閉めた。
「広い部屋だなぁ……何もおいてないや」
その部屋はカリンの言うとおりなにも置いてなかった。しかし宝箱設置にはベストな部屋だった。
「よぉし! 未来の勇者の為に宝箱を設置するぞ!」
自分自身に無意味な気合をいれ再びバイブルを開き『リアルモードオープン』と発言。パネルが浮き上がり中空に現れる。
マップには設置する宝箱も表示してあった。カリンはこの部屋に設置する宝箱を確認する。
「現在地がこの部屋だから……設置するのはシリアルナンバー00174『ブリュンスタッドの鎖』か」
シリアルナンバーとアイテム名を確認しバイブルのページをめくり『ブリュンスタッドの鎖』の載ってあるページを探す。
「えっと、このページは廃棄アイテムだから違うでしょ……0100番台はもっと前のページかな……」
カリンが該当ページを探しているとパネル右上から『着信があります』と小さいお知らせウィンドウが下から降りて表示される。
「なに? この忙しい時に!?」
該当アイテムページが見つからずイライラしているカリンに来た突然の着信。
「隊長かな……」
と、少し着信相手に不安になる。そしてその顔は緊張していた。
いつまでもこのままパネルに『着信あり』と表示され続けても気になるだけ。困ったもんだの末、カリンはとりあえず『着信があります』をタッチして着信相手を確認する。
《やっほぉ〜カリン〜順調に進んでるぅ〜?》
通話相手は間延びした声のアクアだった。パネルに映し出される相手にカリンはハトが豆鉄砲を食らったような顔をパネルを通じアクアに披露してしまった。
《どうしたのぉ? 私が相手でそんなに驚いた? 青と赤の瞳が点になってるよ?》
「えっ、ううん、そんなことないよ、実は隊長かなっと思って緊張してたんだ」
《そっかぁ、で、どう? 宝箱の設置は順調にすすんでるかなぁ?》
「それがね、今から設置するんだけど該当アイテムのページがなかなか見つからなくてぇ〜」
後頭部を掻きながら照れを隠し照れ笑いをした。
《へっ? カリン? バイブルの検索機能使ってないの?》
「けんさく? あっ〜〜〜〜〜そっかぁ〜〜〜〜!!!!!!」
カリンは思い出したかのように大きな声をあげパネルに向かい虫めがねのアイコンをタッチ。しかしこの声でモンスターに気づかれたら元も子もないが、どうやらそれは大丈夫のようだ。
《この前隊長じきじきに伝授されたばかりでしょ〜》
「えへへ……」
検索画面を起動させて、笑うしかないカリン。そして視線をパネルに戻す。
起動した検索画面には『シリアルナンバー・アイテム名・種類・効果』を入力する場所が設けられておりそれぞれの場所で入力すると該当アイテムを検索できるシステムになっている。
「アクアちゃん、シリアルナンバーだけ入力しても検索はできるんだっけ?」
《うん、できるよぉ。っていうかむしろシリアルナンバーだけで入力したほうが楽だよ》
「へぇ〜そうなんだ」
と、新たな知識を魔王城で得たカリンはさっそく実行に移してみる。
「シリアルナンバーは0174っと」
入力パネルを表示させシリアルナンバーを入力。そして検索の文字をタッチ。するとバラバラと、ものすごい勢いとスピードでページが次々とめくれていく。
画面には『検索中……』と表示。
検索終了しました。現在開いているページがシリアルナンバー0174『ブリュンスタッドの鎖』です。
「……なんだかなぁ……」
と、画面にアイテム名とのアイテムの画像が表示され目線を下のバイブルに移すと見事目的のアイテム名とご対面となった。検索時間わずか五秒弱。カリンは思っていた。いままで自力で探していた自分がバカらしく思えて仕方ない事を。しかしそれはカリン自身が検索機能を覚えていなかったのが原因とも言うが。
《どう? 検索できた?》
「えっ……うん! できたよ!」
《じゃあ、しっかりこの方法を覚えてね》
「オッケイ。ありがね、アクアちゃん」
《うんいいって。じゃあ、そろそろ通信切るね》
「うんわかった。じゃあ後でね」
《うん、後でね》
プツッ……
通信回線が切れ右上のお知らせウィンドウも消えた。まるでこの場所が魔王城ではないような雰囲気の会話が終幕を迎えた瞬間だった。
「ふぅ……よし! 設置再開!」
現実に戻り意気揚々と『リアルモードクローズ』と声を高らかに言う。その声に反応し今まで浮き出していたパネルが一瞬に霧になって消えた。残ったのは設置する該当アイテムが載ったページが開いままのバイブルだけとなった。
ゆっくりと部屋の奥まで歩ていき、開いたままのバイブルを返し背表紙を天に向け、地には開いたページを向け胸の前に突き出す。
「シリアルナンバー0174『ブリュンスタッドの鎖』! 召還!!」
カリンの声に反応したバイブルは淡く光だしシリアルナンバー0174『ブリュンスタッドの鎖』のページから淡い光の玉がゆっくりとバイブルから落ちていく。
地に着いた淡い光の玉は一瞬激しく光り、その後に木と金具の額縁が特徴の『宝の箱』になっていた。
それを見届けたカリンはすばやく『リアルモードオープン』と言い、パネルから宝箱のアイコンをタッチ
『宝箱オプション』内のロック設定を起動。『対モンスターロック』がオンに設定されているか確認を行う。この設定がオフだとこの宝箱が自由にモンスターに開けられてしまうからけっこう重要な設定だったりもするのだ。
「ふぅ、これで設置は完了。次の設置場所に急がないとね」
入ってきたのと同じように扉をそぉ〜っと開けモンスターがいない事を確かめ次の設置場所に向かって駆け出していった。
続く。




