見知らぬ図書館
お久しぶりです。こんばんは。そしてこんにちは。
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す。元気してた?
えっ? なんで『アンブレイドバトル~(以下略)』じゃないのにお前がここにいるかだってぇ?
いやいや私の肩書を見てよ『作者の代弁者』ってあるでしょ?
なら間宮冬弥の作品あるところに私あり! でしょ!
で、今回の短編は作者の過去の物語を改変する物語でっす! まぁ言っちゃえば『仮面ラ○ダーディ○イド』みたいな感じ?
最近ならファイ○ルファン○ジーレコー○キーパーみたいなもん?
間宮冬弥が過去作をフルリメイクしたいって感じで生まれたこの作品。まぁ、リメイクの枠を飛び越えたみたいだけどね! あはは!
とにかくそんな感じだから期待しないで読んでみてね!
それと、間宮冬弥から「『アンブレイドバトル~(以下略)番外編』は今執筆中だから投稿はもう少しかかります」だって。だからもう少しだけ待ってね。
じゃあ、さっそく本編を期待しないでお読みください。それではっ!
見覚えのない森。
気が付くと青年は『そこ』にいた。
『青年』はあたりを見渡す。木と葉。そして草が占める空間。
『なぜこんな所に……』とでも考えているのであろう苦悶の顔。
いや、そもそもいつこんな森で『気絶して』いたのかもわからない。
その『人物』は焦りと困惑の表情でもう一度あたりを見渡した。
空は太陽が眩しい晴れた空。大小の白い雲が漂う晴天。森は太陽の光を受け止め、幻想的な雰囲気を醸し出している。
見渡す限りその『青年』ひとりしかいない。
感想は『見覚えのない森』印象は変わらなかった。
しばらく呆然としていた『青年』は何かを決意したのか歩きだした。腰にぶら下がる鞘に収まった剣を握り、恐る恐る踏み出している一歩は確実に前へと進んでいた。
警戒しながら森を進む。しばらく歩いていると遠くで森には、につかない建物が見えた。
青年はその建物に向かい走り出した。
徐々に近づく『建物』見た感じは立派な外装の建物。三階くらいはありそうな大きな建物で大きな扉。
辿り着いた建物の扉の前にある階段を上り扉の目の前に立つ。肩が上下して胸もふくれたりヘコんだりしている。もちろん息も乱れている。
『青年』は深呼吸して、呼び鈴のない重厚な扉の取っ手を握る。
ギィ……
小さい音を立ててあっさりと扉は開く。鍵はかかっていない。
「ほぅ、ここにひとが来るなんて初めてだな」
扉を開け中に入るとテーブルで『少女』がひとりイスに座り本を読んでいた。
年の頃は十四〜十六才くらいで髪は肩まであるストレートのロングヘア。幼さが残る童顔の顔立ちの少女だった。しかしその落ち着いた佇まいを見て青年は年相応という言葉が似合わないほど浮いている。と思えた。
建物の中は数百、それ以上の本棚で埋まっていた。そして本棚にはびっしりと本が収められている。
『図書館』
青年はそう思ったに違いない。
しかしこんな森でぽつんとただずむ『図書館』にひとなんてくるのだろうか? こんな場所に立つ図書館になんの意味があるだろうか。
「そんな所で立っているのもなんだから、こっちに来て座ったらどうだ?」
そう『青年』に問いかける『少女』
しかし、『青年』は視線を戻すと『少女』に警戒しているのか扉から動こうとしなかった。
「いい判断だ。だか安心しろ。何もしないからこっちに来い」
手招きをして『青年』を呼ぶ。
「……まったく何もしないと言ってるだろう。座らないのならそこに居ても邪魔だ。後ろの扉から出ていけ。まぁ無駄だと思うがな」
『少女』は『青年』を突き放す言葉を投げた。
「素直に聞いていればいいものを」
『青年』は『少女』が座って待つテーブルへと足を向け対面に座った。
「では、まず名前を聞こうか」
『少女』はそう訪ねた。しかし青年は困惑の表情を浮かべ何も答えなかった。答えられない。青年は必死に自分の名前を言おうとしているが、口から自分の名前が発せられることはなかった。
「やはり『思い出せない』か」
少女はテーブルに置いてあったティーカップを口に当てる。
「ならば、どこから来たのかも……いやそもそも自分が『何者』かすらわからないだろう。私がそうだったようにな」
ティーカップを受け皿に置き『少女』は告げる。
「そうだ。私も君と同じ『迷いびと』だよ」
『少女』は『青年』に向かい自分は『迷いびと』と言った。そして青年と同じとも言っていた。
「ああ、『迷いびと』と言うのは私がつけた名称だ。この『世界』に迷い込んでしまったからな」
『世界』と言う言葉にひっかかりを覚えた青年は少女に問いた。
「そうだ。『世界』だ。ここはひとつの世界…… 他の人間だと? さあな。私はこの『森』から抜け出せないからな。だから『この森が私の世界』だ」
再び苦悶の表情を浮かべ青年はさらに『少女』を問いただす。
「私がここの世界に迷い込んで数年。君以外は誰もここには訪れていない……他の人間に助けを求める? 無駄だ。まぁ、試したければ試すがいい」
青年は踵を返し自分が入ってきた扉に向かい、扉を開ける。
変わらず森が広がる。
そして、遠ざかる図書館。
歩いて数分。再び『図書館』が遠くに見えてくる。辿り着いたのは自分が出てきた『図書館』だった。
今度は反対方向へと歩き出す。しかし、最後に辿り着くのは『図書館』だった。
青年は何分も走り、歩いた。どの方向に向かっても最終的に辿り着くのは最初の『図書館』だった。
「ああ、言い忘れていたが君も私と同じようにこの『森から抜け出せない』ぞ。ロマンチックに言えば『ふたりだけの世界』だ」
疲れはてた青年は『図書館』に再び入る。そして変わらぬ態度で本を読んでいた『少女』は言葉を漏らした。
「なんとかならないかだと? なんとかなっていたら私はここにはいないぞ」
青年は疲れ果てているが、妙に納得した表情を浮かべた。
「そう落ち込むな。ここにはたくさんの本がある。退屈はしないぞ。なに、本は嫌いだと? ならば好きになることだ。ここでの娯楽はこの本くらいしかないぞ」
青年は納得できないのか『少女』に言葉に不機嫌な顔を浮かべている。
「他には? か……ならば私を抱くか? 男にとってはこれも娯楽だろう?」
青年は顔を真っ赤にして両手を顔の前で振り、否定の態度を示した。
「本気にするな。冗談だ。まぁ、君もそのつもりはないようだかな。しかし女としては少々ショックだぞ。自分としてはカワイイと思うのだか、どうだ?」
『少女』は青年に自分の容姿はどうだと、問うてきた。『青年』はひと言、口に出す。
「カワイイか……君は正直だな。しかし異性からそう言われると少々照れるな」
少女もすこし耳とほおが赤くなっていた。
「話を戻すが、それでは君は退屈で死にそうだな……」
少女は何かを考え込むように天井を見上げた。
「ふむ、ならば『試して』みるか」
少女は青年に『付いてこい』と言葉を残し、階段をつかつかと上っていった。
青年は少女の『試す』と言う言葉に何か引っかかりを覚えたが、先の行く少女の後に続き階段を上った。
二階を過ぎ、三階に着く。
三階も一階と同じように、本棚と本が広いフロア全体を占めていた。
「こっちだ」
少女の声の方へと向くとテーブルに置いてある本の背表紙を見ていた。
青年が近づくのを確認した少女はおもむろに『見ろ』とテーブルに無造作に置かれている本を示す。
テーブルには数冊の本がある。
青年はその内一冊を手に取る。表題は『聖夜幻想物語』と書かれている。
「君がいま手にしている本はとても『不思議な本』でね。他にも『冬の季節使い』や『不死と死神と永遠の空』『宝箱設置隊』『魂を奪うもの』それと『アンブレイドバトルをしたら年上の彼氏ができました(予定)』これらの六冊はとても不可解は本なのだよ」
青年は顔を訝しげ少女を見る。
「君が今、言葉を漏らしたように何が不可解なのかは見た目ではわからない。私が話すより見た方が早いな。そこの窓に遮光性のカーテンがあるだろ? そこで体ごとカーテンにくるまり本を開いてみろ」
少女の指示に青年の顔はさらに訝しげになり、疑心が生まれている。
「説明が欲しそうな顔をしてるな? まあとりあえずは言われたとおりにその本を持ってカーテンの中で本を開け。話はそれからだ」
青年は疑心暗鬼を払拭できないまま、言われたとおりにカーテンにくるまり本を開く。
「……!」
驚く青年。開いた本から光があふれ出す。それを見た青年は勢いよくカーテンをめくる。
「その顔はずいぶん驚いているな? まぁそうだろうな。私も最初は驚いた」
驚きの顔で止まっている青年に少女は声をかける。
「しかし、それは本自体が光っているわけではない」
少女はそう語り、青年の元へと近づく。
「いいか、よく見ろ」
少女は青年と一緒にカーテンにくるまる。
青年の顔はさらに驚きの顔へと変化し、顔の体温はグングン上昇している
密着する肌。服越しとは言え少女の体温と口から漏れる吐息が青年の顔を真っ赤に変化させる。
「そんなに恥ずかしそうにするな…… わ、私だって恥ずかしいんだぞ……」
少女はそんな事を口走り、本を開く。
「こ、この本は暗闇で光る不可解な本だ。さっきも言ったとおり本自体が光っている訳ではない。『本の文字』が光っているんだ」
少女はまだ少し恥ずかしいのか言葉に緊張が見れる。そんな少女とは別に青年は未だにかなり緊張している。
「そんな顔を離していては見えんだろ? もっと顔をこっちに近づけろ……あ、待て逃げるな!」
しかし青年は顔を近づけようとせずにカーテン内から逃走を計ったが少女に服を捕まれあえなく失敗した。なので青年は顔をさらに離し視線だけで本を見た。
「これでは話が進まんだろ!」
イライラしていた少女は青年の襟を掴み、強制的に顔を本へと近づけさせる。
「見ろ。私の言ったとおり本の文字が光っているだろう?」
青年はチラッと文字を見て確認して首を縦に振る。
「この現象が残りの五冊でも起こる」
少女は青年に告げる。
「ふむ、そうだな。何が言いたいかと言うとな。それは夜まで待ってろ。日が落ちたら私が何が言いたいのかを教えてやる」
少女はカーテン出て本を元の位置に戻した。
「夜になるまで君はここで好きに過ごすといい。また外を散策をしてもいいし、寝て待つのもいいだろう」
少女は一方的に青年に言うと階段を下りて行ってしまった。
そんな少女を見届けている青年は呆然としていた。
◆
「感心だな。こんな所まで来ても剣の鍛錬を怠らないとは。気になってはいたが君は君の世界では『剣士』だったのか? 腰に剣を携えているし。どうなんだ?」
少女は外に出て扉の前の階段に座る、そして木の棒を上下に降る青年を見て簡単な感想を述べた。
そして、少女の質問に青年は一言返すだけだった。
「わからんか。まぁ、そうだろうな。私でも自分が何者か思い出せんのだから。ところでひとついいか?」
少女の言葉に青年は木の棒を振るのをとめて袖で汗を拭い、少女を見た。
「なぜ、君は自分の『剣を使わない』のだ? 腰の剣を実際に振った方がそんな木の棒よりよっほど鍛錬になるだろうに?」
その疑問を持った少女に青年はひとこと答えた。
「使いたくても使えないだと? どう言うことだ?」
少女の問いに青年は腰に携えてある剣を鞘から抜く。
「なんだそれは……剣の部分が無いではないか?」
青年が抜いた剣は柄の部分だけで『斬り伏せる刀身の部分が無い』剣だった。
「そんな剣の存在意義が不明なモノを持っていてどうするのだ? それでは戦えないだろう? まぁここでは戦う理由はないがな」
青年は少女の言葉を聞いてニヤっと口の端をつり上げた。
「なんだ、その顔は? なんだかイラっとする顔だな。なにかあるならさっさと解を言え」
青年は鞘に剣しまったり出したりの動作を繰り返し答えを言うのをじらしていた。
「わかった。見せる気がないならそれでいい! そんな意味のない剣なんて私は興味なんて無いのだからな!」
ほおを膨らませ、怒気を含んだ顔で少女は手に持っていた本を開き、視線を文字に落とす。
青年は少しほほえみ、再び木の棒を上下に、さらに左右の動きを加えて、振り出した。
◆
チラッ チラッ チラッ
剣を降る青年を少女はチラチラと見ていた。いや正確には青年の腰に携えてある『刀身の無い剣』を見ていた。
「な、なんだ? べ、別に君の剣なんて興味ないんだからな! 見てないんだからな!」
青年と目があった少女はそう弁解して視線を本へと落とす。
チラッ チラッ チラッ
「……」
青年は少女の『熱い視線』に耐えかねて、木の棒を置き腰の剣を抜いた。
「ど、どうしたのだ? もう鍛錬は終わりか?」
少女は目をキラキラさせ青年の剣を凝視する。
「なっ! 剣なんて興味ないと言ってるだろう! ならチラチラ見るなだと? な、なにを言うか! 私は剣なんて見てないぞ!」
「……」
そう弁明しているが、少女の視線はしっかりと青年の剣を捉えていた。
青年がひとつため息を付き、自分の刀身のない剣の事を語りだした。
「それは『光の剣』だと……そんな剣あるわけ……っ!」
青年の剣から光が発光し収束して一本の光の剣状となる。そしてその光が刀身となり光が固着していた。
「そんな事が……いや、なるほど光の剣か……言い得て妙だな」
青年の持つ剣は刀身が光の立派な『光の剣』になっていた。
「私にも持たせてくれ」
階段を駆け足で降りて青年の元へと近づく。
「む、なんだ? 光が消えてしまったぞ?」
青年から剣を半ば強制的に奪うと光は急激に霧散して消えてしまい、元の『柄だけの剣』になってしまった。
青年は少女から剣を受け取り再度光を発生させて光を刀身へと固着化させる。
「どれ。貸してくれ」
再び少女は青年から剣を奪う。
「むぅ? なぜ私が持つと光が消えてしまうのだ?」
少女がふたたび剣を持つと光が消えてしまう。
「……ふむ。もしかしたらこの剣は君にしか使えないのかもな? ……いや、違うか? 君の世界の人間なら使えると言った方がいいのか?」
少女は指をアゴに当ててあれこれ思考しているようだった。
「もし、この剣が君しか使えないなら、この剣は君の事を知ってる事になるな。ならこの剣に君の素性を聞けばわかるがそれは無理だろう。『言葉を話す剣』なんて無いからな」
青年は光を納め剣を鞘にしまう。
「しかし、腑に落ちないな。君はその剣の事を『覚えて』いたのか? 光の剣だということ?」
その少女の問いに青年はハッとした表情を浮かべたがその表情は悩む顔に変わり、そして首を捻った。
「なるほどな。もしかしたら『何かのきっかけ』があれば『思い出す』のかもな。君が羨ましいよ。何かを覚えているというのは心の支えになる。その点私はまったくなにも『覚えていない』のでな。……すまん。下らん話だな」
少女は踵を返し、悲しそうな顔で図書館へと戻っていった。
その顔が青年にはひどく心に刺さった。そしてなにも出来ない自分を悔やんでいた。
なぜ、そんな気持ちになったのかは青年はわからなかったが……
◆
太陽が沈み、月が空を支配する時刻。
少女と青年は図書館の三階にあがり昼と同じく六冊の本が置かれているテーブルで話していた。
「よし、ついてこい」
少女は『宝箱設置隊』の本を持ち、フロアの奥へと進む。
「ここだ」
そこは窓と壁だけがある一角。しかしその壁にはとても不自然なモノがあった。
「そう、扉だ。あの扉はなんであの場所にあると思う?」
青年は少女の言葉に疑問を持ちながらも『扉』へと向かった。
扉の前に立った青年は扉に手をかけようとしたが扉には取っ手がなかった。
引き戸かと思い手をかける場所を見渡して探してみたがそれもなかった。
なので青年が扉に手のひら全体をかけ扉を押してみた。
開かない。
ならばと今度は横にスライドさせてみた。
開かない。
青年は一瞬悩み、そして今度は扉を引こうとしたがやはり取ってもなければ掴める所がない。青年は引くことは諦めた。
「そうだ。『今は開かない』まぁ、開いたとしても開いた先は外だろうがな」
青年の問いを少女はそう返した。
青年は扉の横にある観音扉の窓に手をかけ押して開けた。確かに少女の言うとおりそこにはバルコニーやベランダといった足が地に付く面はない。窓の横には風に晒された扉がある。
青年は窓を閉め少女に問う。
「ああ、確かに私は『今は開かない』と言った」
青年の思ったとおりの答え。『今は開かない』それは逆言うと開くときがあると言う事。青年は少女の言葉でそれを感じ取っていた。
「たぶん君が思っているとおりこの扉は『開く』だが、それには『これ』が必要だ」
少女は持っていた本を開いて見せる。
「この不思議な本がこの扉を開く鍵」
「……っ」
青年は文字が輝いている本を凝視する。
「なぜ私が何年もひとりでここで耐えられたと思う? この不思議な光る本たちのお陰だ」
青年は口を開き少女にその言葉の意味を訊いた。
「そうだな……率直に言うと、この本の中に入れる。この文字が光ってる状態の本は、その扉は物語へ入るための『扉』だ」
「……っ!!」
その問いに青年の顔は驚きと疑心と言った怪訝な表情を浮かべていた。
「そうだろう。信じられんだろう。だがな私はこの不思議な本の中に入り、ひととふれあって正気を保つ事ができたのだ。記憶もなくただひとりでここにいたら私は発狂して精神はいつか崩壊していただろう」
少女の言葉は青年に重くのしかかっていた。もしここ着いたときにこの少女がいなかったら自分はどうなってたのだろう? いつまでもひとりっきりとはどんな気分なのだろうと? と、思い浮かんでいた。
そしてきっと自分は壊れてしまうだろうと結論づけた。
「そして、私はある日ある好奇心に捕らわれた」
青年が少女の『好奇心』という言葉を口にしたとき少女の口の端が吊り上がった。
「ああ、もし物語に入り結末を変えるだけの行動を起こしたらこの本の物語はどうなるのか? 私はそれがどうしても知りたくなった。しかし私では戦うことができず微々たる事しかできない。そして、今日。君がここに来た」
少女の目は窓から入る月明かりでキラキラと輝いていた。
「君がここに来たのが偶然か必然かは知らん。だが君はここに来た。そして君は剣を……光輝く剣を持っている。君は戦える。君は私の好奇心を満たしてくれる。しかし、それは君の選択次第だ。君が物語に入ることを否定するなら私は無理強いはできない。そして物語の中で君は死ぬかもしれない」
「……」
青年は黙って少女の言葉に耳を傾けている。
「それでも君は私の好奇心を満たしてくれるか? もしかしたら死ぬかもしれないがそれでも君は物語の中に行ってくれるか?」
少女の自分勝手な好奇心に青年は言った。
「退屈は嫌いだと? それは私の願いに肯定すると捉えていいのか?」
青年はひとつ頷く。
「本当にいいんだな?」
少女の確認の問いに青年は力強く頷いた。
「……ありがとう」
少女は俯き小さく青年には聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「な、なんでもない。で、では物語に入る説明をするぞ」
少女は本をめくる。
「君が入るのは『宝箱設置隊』という物語だ。そしてこの主人公であるカリン・エルヴァートと六大魔王がひとりのブラムとの戦いに介入してもらう」
開いた本のページ内容を青年に説明し本を渡す。
「いいか、魔王は強い。戦いに介入してヤバいと思ったらすぐに逃げろ。倒そうなんて思うな。こいつヴァイスの『真魔の瞳』でやっと倒した魔王だ」
青年は本を読み進め、少女に問う。
「君はよく物語を読みこんだ方がいいぞ。ヴァイスはあっと言う間にブラムを倒しているが、それはさっきも言ったが『真魔の瞳』という一種の身体能力強化魔法のようなものを使ってだ。それを使わなければこのピンチは脱せられなかったのだろう」
青年は感心した顔で『へぇ〜』と言った。
「軽い返事で返すな。それとこれを持っていけ」
少女はポケットから水の入った小さな小瓶を青年に渡す。渡された青年は小瓶を見て月明かりに照らす。水は月の光に照らされキラキラと輝く。水はまったく濁りが無く透き通るくらい透明でいて不純物が一切入っていない純水。一瞬、見ただけでは水が入っていることがわからないくらいの透明度を誇っていた。
「その水は私が精製した強力な治癒魔法が籠められている。どんな傷も一瞬で治るぞ。ピンチになったらそれを使え。それとこれもだ」
同じくポケットから三枚のカードを青年に手渡す。
三枚のカードを眺めて青年は手渡されたカードについて訪ねてみた。
「その三枚のカードの内、先端が細長い楕円形の板が描かれているカードがあるだろう? それは原子レベルで分解した『ウイングボード』を再構成させる術式をカード状に施したものだ。握りつぶすと『ウイングボード』が即時に再構成される。まぁ、わかりやすく言えば召還器だな……ああ、すまない『ウイングボード』は『聖夜幻想物語』に出てくる低空を疾走する乗り物だよ。まぁ私が作ったからまがい物だかな」
青年は『乗り物?』と疑問を口にして少女に返す。
「ああ、物語上では風の術式が籠められたボードと言うものらしい。乗り方は板の上に乗れば風の術式が自動的に発動して浮かび前進する。止まるときは後ろに体重をかければスピードを落とすことが出来る。逆にスピードを上げたければ前に体重をかけろ」
青年は少女の説明を聞いていたがポカーンとしていた。
「おかしな顔をするな……まぁ、向こうに行ったら実際に乗ってみるがいい。ただし、一度カードを握り潰したら二度とカード状に戻らないからここぞという時に使え」
青年の顔はさも残念そうな顔を浮かべ少女を見る。少女は『そんな顔をするなと言っておろう!』とイラっとして青年に声を荒げた。
青年は荒ぶる少女をなだめて、残りの二枚のカードについて問いた。
「半透明のカードがあるだろう? それも私が造った『アナライザー』と言うものだ。効果はカード越しで相手を見ると戦闘レベルとポテンシャルレベルを計ることができる。まぁ、モノは試せだ。私をカード越しで見てみろ」
青年は言われるまま左手でカードを左目の前でかざし、カード越しで少女を見た。
「よし、そのままの状態でカードを軽く叩いて見ろ」
青年は左手の人差し指で軽くカードを小突く。
「……!」
「どうだ?」
青年がかざした半透明のカードから矢印や文字が踊り出てくる。青年は躍り出る文字をそのまま読んだ。
「戦闘レベルEか……まぁ、私は戦闘はできないからな。最低ランクだろう。で、ポテンシャルはどうだ?」
青年は言われるままポテンシャルレベルを言った。
「ふむ、SSか……まぁまぁだな。どれ、君も計ってやろう」
少女は青年から半透明のカードを受け取り右手で右目にかざす。
「ほぅ……戦闘レベルAか。ポテンシャルもレベルAと来ている……私のひとを見る目はなかなかだな」
少女は青年に半透明のカードを返した。受け取り青年は少女にひとつ訊ねた。
「そうか、すまない説明がまだだったな。戦闘レベルとポテンシャルレベルとは計った相手がどれだけ強いかわかる目安のようなものだ。ふたつのレベルは共通して最高がSSSでAときてB。そして最低がEだ。戦闘レベルがSSSに近づくほど相手は強い。それと、ポテンシャルは潜在能力のことだ。これがSSSに近いとたとえ戦闘レベルがEでも気をつけろ。その相手は『強力な切り札』を持っている可能性がある。まぁ、君が剣の達人なら相手と戦っただけで強さがわかるだろうがな」
青年は半透明のカードをおもむろに見た。
「君がこれから戦うであろう魔王ブラムはたぶん両方のレベルがSクラス以上と見て間違いない。だからこちらも保険を君に預ける」
少女が『扉が描かれているカードを見ろ』と青年に促した。
「そのカードは時空と事象を歪める術式が施してある。いわば強制帰還のカードだ。もし治癒薬を使いきり、死に至る場面になったら迷わず使え。使い方は『ウイングボード』と同じで握りつぶすだけでいい。使った瞬間に君はここに戻ってこれる」
青年は三枚のカードを服のポケットに入れた。
「それと、その扉のカードを使わなくても物語の中にいられるのは約二時間弱だ。二時間経ったら君は問答無用で強制的にここに喚び戻される」
青年は『そうなのか?』と言葉を吐いた。
「ああ、わたしが実際に体験したことだからな。もし、この制約がなければ私はきっとどこかの物語の中で生きただろう」
少女は遠くを見て青年につぶやいた。その目は何かとても悲しそうに青年には写っていた。
「さて、私からはだいたいの話は終わったが、君からなにかわからないことなどはあるか?」
少女の問いかけに、青年は質問を投げた。
「ふむ、カリン・エルヴァートの身体的特徴か。そうだなやはり一番の特徴は瞳だろうな」
青年が言葉を返すと少女は言葉を引き継ぐ。
「ああ、そうだ。カリン・エルヴァートは左右の瞳の色がが『蒼と紅』で左右違っている。……ふむ、君の言うとおりオッド・アイと言うヤツだ」
青年はさらに身体的特徴を聞き出す。
「他にか? 他には性別は女性で十代くらいか。それに髪の色は金で腰には君と同じように剣を携えている。それに『バイブル』と言われる情報蓄積端末を持っているくらいか」
青年は『バイブル?』と今、生まれた疑問を少女にぶつける。
「ふむ、バイブルと言うのは物語上でも詳しく言及されていなくてな。よくわからん。だが、宝箱の設置にはなくてはならないものだけはわかる。なんせ、そのバイブルというものから宝箱を召還するのだからな。それにバイブルはアイテムの検索や対モンスターロックと言ったものや通信機能など多彩な機能を備えている」
青年は少女がなにを言ってるのか理解できず、口をあけ呆けていた。
「すまんな余計なことまで話したな。では、以上で説明は終わりだ。他にはないか? 無いならさっそく『物語』に行ってもらうがいいか」
青年は力強くうなずく。
「では、扉を開くぞ」
少女は文字が光る本『宝箱設置隊』の物語を扉の脇にある小さいテーブルのくぼみに背表紙を上に向けてはめ込む。
光が扉全体に流れて、小さくカチャっと音が鳴る。
そして、扉が中央から左右両側から同時に対照的に開く。
「……すまないな。私は自分の興味のために君に危険を押しつけている」
少女は物語に向かう青年にすまなそうに告げる。
青年はそんな少女の髪をくしゃくしゃになるまで、なでて言葉を少女の言った。
「ちょっ、やめろ! ……なんだと戻ったらうまいモノを食わせろだと? わかった。腕によりをかけて作ってやろうではないか!」
青年は少女ににこっりと微笑みかけ、扉の奥へと進んでいった。
「死ぬなよ君がいなくなったら私は……またひとりだ……」
少女は願いように言葉を漏らしていた。
続く。




