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囚われのリリー

 上層部の会議でストレンジャーを支援している人間がいると報告されてから一ヵ月後


 事態は急変した


「リリー=ターラント。任意同行願いたい」


 3番隊だけの戦闘訓練を行っているところへ厳つい顔をした二人の男がのりこんできた。隊員たちが警戒の色を強める中、アランだけは冷静を迎える。そして二人と二、三言話すとリリーの名を呼んだ

 アランたちの所に駆け寄ると、二人の男は身分を示すIDカードを提示した。そこに書かれた職業を見て息をのむ

 彼らは刑事だった。それも普通の刑事ではない。主にストレンジャーの事情聴取を行う特別課の刑事だ

 リリーは不安気にアランを見上げた。いつもどおりのポーカーフェイス。その顔からは何の感情もうかがえない


「……何でですか?」

「今朝、アイザック=ターラント氏がストレンジャーと共謀した容疑で逮捕された」

「え!お父様が!?」


 ただならぬリリーの叫びに訓練中の隊員たちが振り返った

 リリーは刑事の腕を掴んで必死に問いかける


「嘘ですよねえ!?何かの間違いでしょう!?お父様がそんなことするはずありません!だってお母様はストレンジャーに殺されたんですよ!?」

「ターラント、落ち着け」


 アランの手が肩に置かれ、それを合図にリリーは力なく崩れ落ちた

 告げられた事実に頭がついていけていない。何が起きているのか理解できていなかった


「詳しい説明は署の方でする。よろしいですね?」


 最後の問いかけはアランに向けられたものだ。アランは無言で頷いた

 リリーは魂を抜かれたように立つこともできず、二人の刑事に支えられながら訓練場を後にした


※※※


 綺麗な柄の入った白いカップが目の前に置かれた。淹れたばかりの紅茶はまだ湯気を立てている

 警察署の一角に設けられた応接スペースに連れて来られたリリーは、ソファに腰掛けたまま心ここにあらずといった様子で虚空を見つめていた


「君の父親、アイザック=ターラント氏は10年以上前からストレンジャーに資金援助を行っていた」


 リリーを連れてきた刑事が説明を始める。リリーはそれでも刑事の方を見ない。刑事は気にした様子もなく淡々と話を進める


「我々は以前からターラント氏を疑っていた。氏が毎月大金を他の口座に振り込んでいるのが気になっていたからだ。その額は正直言って一個人が使用するレベルを超えていた。調べてみたところ、彼の振り込んだ先の銀行は存在しなかった。架空口座というわけではない。銀行そのものが存在しなかったんだ。これは怪しいと本格的な張り込みを開始したところ、氏がストレンジャーと接触する場面を目撃したので現行犯という形で逮捕に至った」


 リリーは何も反応しない

 刑事は溜息を一つつくと本題に入った


「君を任意同行にしたのは、あの場で混乱を起こさないためだ。本当は君を任意同行しようとしたわけではない。君にも逮捕状が出ている」

「え?」


 ようやくリリーが返答した。ゆっくり顔を上げて刑事を見つめる

 刑事はリリーの反応を確認すると言い聞かせるように一言一言をはっきりと説明した


「君も共謀した可能性がある、ということで逮捕状が出ている。容疑が晴れるまでの間、君にも留置場に入ってもらう」

「私、何も知りません。父だって何もしてません」

「それはこれから調査して判断することだ」


 反論も空しくリリーはそのまま留置場まで無理やり連れて行かれた

 通常、二人で一部屋を使うのだが今回の件は特殊ケースに分類され、リリーは一人で一部屋を使うことになった。もともと狭く作られているので、一人が生活するにはちょうどいいぐらいの大きさだ

 部屋は思いのほか生活に困らないよう整えられていた。リリーは牢屋のようなところを想像していたので少し拍子抜けだった。それでも今までの生活よりも不便なことに変わりはない。何よりもリリーは未だに現状を受け入れられず、留置場に入ったことですっかり生気を失っていた

 部屋の片隅で虚ろな目をしたまま過ごしていると、翌日になってアランが面会に来た。面会室に行くことすらできないほどリリーは気力を失っていたため、仕方なく特例としてアランが直接リリーの部屋まで赴いた

 部屋の外に配置された二人の警備員の視線を感じながらリリーの部屋に入り、アランは愕然とした。たった一日しか経っていないにもかかわらず、リリーはすでにやつれていた。心なしか頬もこけているように見える

 アランはゆっくりとリリーに近づいた。リリーはアランに気づいているのか、いないのか分からないが、アランの方を見向きもしない


「ちゃんと食事はとっているのか?」

「……」


 憔悴しきったリリーから返事はない。その痛ましい様子にアランは顔をゆがめた

 名前を呼びながらゆっくりと体を自分の方に向けさせる。ようやくリリーの目がアランを捉えた。しかしその目は闇に沈んでいる


「ターラント……」

「隊長もお辛いですよねえ」


 入り口の方から声がした。アランは声の方を振り返る。ドアの陰に隠れて声しか聞こえないが、話しているのは警備員のようだ


「いずれは捕まるかもしれないと分かっていても、育ててきた部下には愛情だってわきますよね。それを自分の手で留置場に引き渡さなきゃならないなんて……本当に酷な話ですよ」

「な……」


 アランが腰を浮かせた時にはもう遅かった。警備員は心から同情しての台詞だったようだが、リリーに更なるダメージを与えるには十分だった。


「……今のどういう意味ですか?」


 リリーの焦点がアランに定まった。アランは臍をかんだ。


「捕まるかもしれないって分かってたってどういうことですか?」

「それは……」

「……隊長もグルだったんですね」

「……」


 アランは言葉に詰まった。その様子を見てリリーはアランから視線を外し、そのまま背を向けた。その背中ははっきりと拒絶を示していた。アランが何を言っても聞く耳を持たないといった風で、仕方なくそのまま部屋を後にした

ここまで読んで下さりありがとうございます


次回更新はしばらくお待ち下さい

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