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アラン=マクレナン

『アラン=マクレナン、34歳。

 卓越した戦闘能力と分析力を持ち、入隊3年目にして異例の副隊長に昇格。その二年後には隊長に昇格し現在に至る。国民からヒーローとして尊敬を集めるBIG7の一人でもある。

 強靭な脚力の持ち主で、ストレンジャーに対しては必ず先制攻撃を仕掛けて確保する。その姿がスーツの色もあいまって白い鳥が獲物に飛び掛るように見えることから”白きホワイトホークス”の異名を持つ。』


「なんだ、この完璧すぎるプロフィールは!」


 ランチの片手間に戦闘部の入隊案内パンフレットを読んでいたパーシーはそれを机に投げ出した。社員食堂は混み合っていて騒がしく、パーシーのそんな言動を気にする人はいない。投げ出したパンフレットはそのままに、パーシーは不機嫌そうな顔で残りのカレーを食べ始めた。

 パーシーの正面で一連の動きを見ながら食事をしていたリリーは、パーシーが投げ出したパンフレットを拾ってページをめくった。


「これ、養成学校のときに進路指導で配られたやつよね?まだ持ってたの?」

「第一志望だったから捨てにくくてさあ」

「……へたれ」


 自分の発言でむせるパーシーを無視して、リリーはアランのページを見つめる。広報を兼任しているBIG7なのに、写真慣れしていないのか無表情で写っているところがアランらしい。配属されて3日しか経っていないが、隊員の噂や日頃のアランの様子から愛想をふりまけるタイプでないことは把握していた。そんなところがまた女性の人気を上げている要因の1つとなっている。


「それに比べてアラン隊長は男前だし仕事はできるし素敵よねえ」


 うっとりパンフレットを見つめるリリーをパーシーはむっとした表情で見つめる。そして意地の悪い笑みを浮かべた。


「何?お前の好きな奴ってまさか隊長とか言わねえよな」


 リリーはパンフレットから視線を外してパーシーを見た。リリーがこちらを向いたことに満足感を覚えるパーシー。しかし、それも束の間のことだった。


「そうよ。それが何か?」

「……え!?ちょっ、お前、マジかよ?」

「本当よ。絶対に落として見せるわ」


 自信満々に意気込むリリーとは対照的に、パーシーは放心状態でリリーを見つめていた。

 リリーの恋愛には周期がある。毎年、進級などで環境が変わると彼氏が変わるのだ。ハーマンと別れたと聞いたとき、パーシーはチャンスだと思った。同期で同じ隊に配属となれば一番過ごす時間が長いのは自分だ。リリーと付き合うなら今しかない。だが、リリーの理想はもっと高かった。アランは国民からも部下からもヒーローとして慕われている。勝てるはずがない。


「あら、もうこんな時間。訓練が始まっちゃうわ。行きましょう」


 がっくりと肩を落としたパーシーには気づかずに、リリーはトレイを持って席を立った。アランは遠ざかっていく同期の背中を複雑な気持ちで見つめていた。


***


 アランは10年前と変わらず、部下の目線から見てもかっこいい上司だった。任務における指示は的確で戦闘もずば抜けて強い。時には部下に厳しい言葉を向けたり、難しい任務を与えたりもするが、そのフォローはそつがなかった。

 戦闘部隊の隊長は知能や戦闘の能力の他に、人の上に立つに相応しい人物かどうかも問われる。それだけではない。彼らは隊長であると同時に国民の希望となるための広告塔――BIG7という仕事も行う。正体不明の生物、ストレンジャーの侵略で不安になっている人々を安心させるために作られた役割だ。人々は彼らを”ヒーロー”として尊敬し、信頼している。それゆえ、彼らは人格者でなくてはならない。

 アランはそのBIG7の中でも三本の指に入るほどの人気だった。それは対世間だけのことではなく、隊内の人間からも慕われている。

 入隊して2週間が経ったころ。リリーは自分の目に狂いはなかったと確信した。


「私、隊長に告白するわ」

「ぶほっ!」


 突然の宣言にパーシーは飲んでいたコーヒーを吹きだした。リリーにかけなかったところは見事だが、周りからは冷たい視線を向けられ、被害のなかったリリーも「ちょっと!汚いわね!」とすっかり怒っている。

 リリーと周りの人々に謝りながらパーシーは机に備え付けてあった紙ナプキンで周囲を拭いた。


「そりゃ、リリーが突然驚くようなことを言うからだろ?」

「突然かもしれないけど、別に驚くようなことじゃないでしょう?私が隊長を好きなのはパーシーだって知ってるじゃない」

「それは、そうだけど……」


 それにしたって、あのアラン隊長だろ!?と思うのはパーシーだけじゃないはずだ。BIG7はたとえて言うなら超人気アイドルのような存在。いくら同じ部隊に属しているとは言え、恐ろしくて配属2週間で告白しようなどとは間違っても思わない。

 それだけリリーは自分に自信があるのだ。自分の魅力を知っていて、それをどう見せればいいかというところまで分かっている。そこがリリーのすごいところだ。そして、その魅力が計算されたものだと分かっている者は、彼女の賢さに惹かれていく。パーシーはその一人だ。


「……やめとけよ」

「は?何でよ?」

「だってあの人、上司としてはすげー尊敬できるけど、女性関係はひどいみたいじゃん」


 パーシーの言葉にリリーは一瞬言葉を詰まらせた。

 国民的ヒーローであり身内からも慕われる優秀な隊長は当然ながら女性にもモテた。普段から歩いているだけで女性の注目を集め、バレンタインや誕生日などのイベントには女性からのプレゼントが山積みになる。

 騒がれるだけでなく、実際に付き合った例もある。いずれも隊内でもいい女と評判の高い美人ばかりだ。しかし、付き合ってからもアランが仕事優先で恋人らしいことをろくにしないので別れる、というのがいつものパターンだった。

 

「大丈夫よ。今までの女性はみんな隊長の仕事に理解がなかったからダメだったのよ。私は一番近くで見ているんだから、隊長の仕事に対する姿勢だって受け入れられるもの」

「でも、そんなんじゃ後回しにされて恋人らしいことなんてしてもらえないかもしれないぞ?」

「そこは私の腕が試されるところね」


 リリーは悪戯っぽく笑って自分の腕を叩いて見せた。パーシーは「あっそ」とだけ言って残りのコーヒーを半ばやけくそで飲み干した。少しぬるくなったコーヒーはいつもより苦く感じた。

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