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10年越しの再会

 ターラント家の惨劇は国中を震撼させた。地球外生命体が突如として地球に降り立ち、破壊行為を始めたのが5年前。しかし、今回のように特定の人物を徹底的に狙った襲撃を行ったことはなかった。

 郊外に住む資産家ターラント家に起きた突然の悲劇。当主であるアイザックは妻を失ったショックから従業員全員に暇を出し屋敷に閉じこもってしまった。娘も息子も学校では腫れ物を触るかのような扱いを受け、次第に姿を消した。

 なぜターラント家は狙われたのか――SFDによる調査は遅々として進まず、時間だけが流れていった。


 そして10年後の春。今年もSFDに新入隊員が配属される季節がやってきた。


 SFD施設内にある訓練場のだだっ広いエントランスは新入隊員で溢れかえっていた。壁にはそれぞれの配属先が書かれた紙が大きく貼り出されている。紙にはエリート集団と言われる戦闘部隊から順に名前が書かれているため、誰もが自分の名前の他に戦闘部隊に所属する者の名前には目を通す。その中で一際目を引く名前があった。


 リリー=ターラント/戦闘部3番隊


 新入隊員たちが様々な憶測を飛ばす中、リリーは自分の名前を確認すると小さく微笑んだ。


***


 「おめでとう。3番隊配属だってね」


 その夜、リリーは最上階の高級レストランで彼氏のハーマン=アンソニーとディナーをしていた。顔を横に向ければ首都の夜景が一望できる。


「第一志望だって言ってたもんな」

「ありがとう」


 同期の中で一番人気があるハーマンの祝いの言葉にも、リリーはディナーを食べる手を止めることなくそっけなく応える。そして興味もなさそうに「ハーマンはどこに決まったの?」と尋ねた。


「俺は情報部。戦闘部隊も憧れるけど、やっぱ俺はこっち使う方が向いてるからさ」


 そう言ってハーマンは自分の頭を指差した。リリーは「そう」とだけ言って食後の紅茶に口をつける。


「そうだ、これ俺からのプレゼント。配属祝い」


 ハーマンはジャケットの内ポケットから小さな箱を取り出した。それをテーブルの上に置くと、そっとリリーの方へ差し出す。リリーはそれを見るなり、丁寧に差し出された箱を押し戻した。


「いらないわ」

「え?」


 リリーは静かにナプキンで口を拭くと、予想外の反応を受けて間抜けな顔をしているハーマンにはっきりと告げた。


「私たち今日で終わりにしましょう」

「なっ!どういうことだよ!?」


 思わずハーマンはテーブルに手を着いて腰を浮かした。店にそぐわない雰囲気に周りの客や店員からの視線が集まる。視線に気づいてハーマンはすぐに腰を下ろした。そして、説明を求めるようリリーの表情をうかがう。しかし、リリーの表情からは何も読み取れない。


「SFDの3番隊に配属されたんだもの。これからは忙しくて会えなくなるわ」

「そんなの働いてみなきゃ分からないだろ?さすがに休みだってあるだろうし……」

「働き始めは仕事に専念したいの。先輩たちに迷惑をかけたくないし。そういうわけだから……」


 そう言うとリリーは鞄を持って立ち上がった。


「さようなら」


 突然のことにハーマンは呆然としたまま追いかけることができなかった。


***


「お前、ハーマンと別れたんだって?」


 初出勤の日、任命式を終えた新入隊員たちは2列になってそれぞれの隊室へ向かっていた。まだ学生気分の抜けない隊員たちの間からは小さな話し声が聞こえる。背筋を伸ばして歩いていたリリーにも隣を歩く同期が話しかけてきた。パーシー=オスメント――同じ3番隊配属の新人だ。


「そうよ。それが何か?」

「いやいや。またか、と思ってさ」


 パーシーとはSFD養成学校に入学した頃からの付き合いで、リリーの恋愛遍歴もよく知られている。またか、と言われるのももう慣れていた。詮索されるのも面倒くさいので前を歩く隊員の背中に視線を移す。


「学生の時から学年が変わる度に男も変えてたよな」


 しつこく食いついてくるパーシーにうんざりしてリリーは無視を決め込んだ。パーシーは一人で勝手に喋っている。他の隊員も近くの人と話しているからパーシーの語るリリーの恋愛遍歴を聞いたりはしていないだろう。

 パーシーはいい友人なのだが、人の恋愛ごとになると女以上に食いつくのが欠点だ。誰と誰が付き合っていて、誰と誰が別れて、誰が誰のことが好きなのかという情報はほぼ掴んでいる。ただし、それを軽々しく他言しないという点で信頼が保たれていた。


「ところでさ、リリー。ハーマンは何でダメだったんだ?」

「え?」


 自分の名前に思わず反応してから後悔した。パーシーが興味津々といった目で見つめている。どう説明しようかと考えていると「夜の方が下手だったとか?」と下品なことを囁いてくるので持っていたクリップボードで思い切り頭を叩いてやった。気持ちのいい音が響き近くの隊員の視線が集まる。


「痛ってぇなあ!」

「あんたが下品なことを言うからでしょ!」


 パーシーは愛想笑いで周りの注目をかわすとリリーの耳元に顔を近づけて同じ質問を繰り返した。


「んで?ハーマンは何がダメだったんだ?」


 全く懲りないパーシーの顎を指で持ち上げるとリリーは悪戯っぽく微笑んで言った。


「他に好きな人ができたの」

「へ……?」


 足を止めたパーシーを置いてリリーは歩を進めた。いつの間にか隊員の数は減り、目の前のドアには「戦闘部3番隊隊室」と書かれている。リリーも小走りで追いかけてきたパーシーもドアの前で姿勢を正した。


「いくわよ」


 リリーの掛け声にパーシーはしっかりと頷いた。リリーがドアをノックする。


「失礼します!」


 気合を入れた声と共に部屋の中へ足を踏み入れた。目に付いたのは長方形に並べられた事務机とその上に置かれているパソコンに向かっている先輩たちの姿。リリーたちの声に反応して一斉に顔がこちらを向いた。その中でもリリーの視線はある人物で留まる。


――やっと辿りついた……


「ようこそ、我が3番隊へ。私が隊長のアラン=マクレナンだ」


 忘れもしないその顔、その声。10年前よりも大人の男らしさが増しているが、見間違えはしない。ようやく会えた命の恩人。そして……


――私の運命の人……

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