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ストレンジャーのアジト

「……黒幕を探すってどういうことですか?」


 しばしの沈黙の後にリリーが口を開いた。リリーの声を聞いたのは最初に面会した日以来だ

 アランは一度入口に控えている看守の方に視線をやってから小声でリリーに説明を始めた


「君のお父さんは脅されて金を渡していただけで、ストレンジャーについては何も知らないと供述している。だが、警察はその話を信用していない。このままいけば、お父さんの事情聴取は厳しいものになってくるだろう」

「厳しいもの……」


 リリーは息をのんだ。アランの言わんしていることを想像して体が震えた。厳しい取調べ――拷問とまではいかないまでも精神的に苦しい聴取を受けるのだろう

 アランは震えるリリーの腕をしっかりと掴んだ


「だから、取り調べが厳しくなる前にストレンジャーのボスを見つけるんだ。君のお父さんの話が本当ならそれをボスに証言させれば少しは罪も軽くなるかもしれない」

「……無駄ですよ」


 信じられないほど冷めきった声。リリーのものとは信じられず、その感情を探ろうとするも顔を伏せていて表情が読み取れない


「無駄ですよ。組織ぐるみで私やお父様を罪人に仕立て上げたんですから、どう足掻いたって意味ないですよ。どうせ揉み消されるに決まってます」

「そんなことはやってみなければ分からない!任務だって最後の最後まで諦めずに取り組むことで地球の平和を守れるんだって常々……」

「そう教えてきたSFDが信じられないんです!」


 アランの言葉を遮り、顔を上げたその瞳には涙が溜まっていた。その涙はアランをも責めている

 アランはリリーの瞳と正面から向き合った


「確かに組織の命令とは言え、私は君の好意を踏みにじった。だが、これはSFDとは関係ない。私自身の意思だ」


 リリーの探るような目つきは変わらない。一度失った信頼を取り戻すのが難しいということは重々承知している

 アランは思いを精一杯込めてリリーを見つめる。自分の思いが伝わるように


「俺を信じてくれ」

「……」


 思いを伝えようとする視線と真意をはかろうとする視線が交差し、二人はしばらくの間見つめあった

 おそらく時間にすればほんの一、二分の出来事。しかし、アランには倍以上の時間に思えた

 リリーは一度目を伏せ、下からうかがうようにアランを見た


「……どうすればいいんですか」


 リリーの同意の言葉を聞いて、アランは表情を緩ませ安堵の息をはいた。しかし、すぐに顔を引き締め隊長の姿に戻る

 ここからは二人だけの任務の始まりだ


「まずある程度の目星をつけなければ、ここを出ても意味がない。何かお父さんの行動で変わったことはなかったか?」

「変わったこと……」

「そう。脅されていたということは、ストレンジャーのボスにお父さんも一度は会っているはずだ。ストレンジャーが出現し始めたのが15年ぐらい前。その前後で何かお父さんに変化はなかったか?」

「15年前っていうと9歳の時……私が小学生の時……」


 リリーは手を口に当てて、懸命に脳の奥底にしまわれた過去の記憶を探した。母親が亡くなって以来、なかなか向き合うことのできなった思い出たち


「……そういえば」


 リリーがふと口を開いた。アランも身を乗り出す


「何か心当たりがあるのか?」

「はっきりした年はわかりませんけど、私が小学生の時、お父様とお母様が喧嘩をしたんです。すごく仲のいい二人だったから意外で……二人が喧嘩したのはそれが最初で最後でした」

「喧嘩の原因は?」

「詳しくは覚えていないんですけど、お父様がお母様に黙って何かを買ってきたからだったと思います。その日からお父様は頻繁に中古品販売店に足を運ぶようになりました。たぶん喧嘩の原因になったのもそこで買った物だと思います」

「中古品販売店?」

「はい。たしか”ソグード”というお店だったと思います。お父様がそこで何を買っていたかは結局わかりませんでしたが」

「”ソグード”か。怪しいな……行ってみよう」

「行ってみようって、どうやって行くんですか?」


 リリーの質問には答えず、アランは静かに立ち上がり入口のほうへ消えていった。リリーは不安気にその後ろ姿を見送る

 しばらく看守と話す声が聞こえていたかと思うと、突然鈍い音と何かが倒れる音がした。咄嗟にリリーが腰を浮かせるとアランが戻ってきた


「今のうちに出るぞ」

「はい」


 戦闘用のスーツを中に着ているアランと寝巻のような普通の布を身にまとっているだけのリリーでは身体能力に差がありすぎる。なかばアランに抱きかかえられるようにして、リリーは留置所の非常口から外へ逃げ出した


「隊長ならもっとスマートに逃げ出すかと思ってました」

「急な計画だったからな。じっくり作戦を練る暇がなかった」


 リリーを抱えて走りながらアランは答える


「適当なところで戦闘スーツに着替えろ」

「え、スーツは留置所に入る時に回収されて……」

「調べ終わったんで私のところに返ってきた」


 そう言ってアランは腰に付けてあるポーチを叩いた

 しかし、時間がなかったとは言え、こんな単純で強引な脱獄ではすぐに追手が放たれてしまう

 アランとリリーの任務に時間はなかった


※※※


 首都の中心部から離れ、少し寂れた商業地域にソグードという看板はあった。リリーの曖昧な記憶を頼りにたどり着いた店は、営業しているのか分からないほど暗い建物だった。店自体も壊れた個所が多く、建っているのがやっとというような廃れぶりだ

 中に足を踏み入れると、奇妙な道具の入ったガラスケースたちが二人を取り囲む。工具のようだが、ほとんどが年代物で実際に使用されている場面を見たことがないような物ばかりだ


「誰かいないのか!」


 アランが声をかけるも物音一つ返ってこない

 不審に思いながら二人は店の中を見回した

 埃にまみれ蜘蛛の巣まで張っているこの店に人がいたとは思えない。アランはしゃがみこんで床に積もった埃の厚さを確認し、その考えに確信を持った

 アランが床を調べている間にリリーは奥へと進み、レジカウンターの裏に回った。旧式のレジは長らく手をつけた形跡がない

 カウンターの引き出しを調べようと身を屈めたところで、不自然に軋む音に動きを止めた。足元の床をよく見てみると、埃の積もり方が他の面に比べて薄い。指を軽く舐めて床にかざすと、わずかだが風が流れてくるのを感じた


「隊長!こっちです!」


 リリーに呼ばれアランもレジカウンターに近づく


「ここに風の流れがあります」

「地下室か」


 護身用のナイフで床を削り指の入る隙間を作ると、アランはそのまま板を剥ぎ取った。出てきたのは鋼鉄の扉。おそらく地下室への入り口だろう。しかし開けるための取っ手も何もついていない


「どうやって開けるのかしら……」

「鍵穴もパスワードを入力するところもないな」


 そう言いながらアランが扉に手を触れた瞬間、突然電子キーボードが浮かび上がった。キーボードにはアルファベットが並んでいる


「パスワードか……。何か心当たりはないか?」


 懸命に記憶を手繰り寄せるリリーだが、当てはまりそうな言葉は出てこない

 その様子を見てアランは溜息をついた。何か他に手がかりを探すほかない

 アランは立ち上がり、改めてガラスケースを見回した。写真などで見たことはあるが、使ったことはないような古い工具しかない

 視線をレジカウンターに戻したところで、アランはレジスターに目を留めた。近づいて確認すると、横についている取っ手の部分だけ何回も使われた形跡がある

 取っ手を回してみると、勝手に数字ボタンが動き出した


「何ですか!?」


 驚いてリリーも立ち上がる

 ボタンは何個かの数字が順番に動いてすぐに止まった

 アランはもう一度取っ手を回す。レジは再び同じ数字を動かして止まった


「……何ですか?これ」

「おそらく、これがパスワードだ」

「え?これ数字ですよ?」

「このボタンは横4列、縦10列で横にすればさっきのキーボードと重なる。動いた数字と同じところたどると……”A・L・E・X・E”」

「ALEXE……アレクシ?」


 アランがキーボードを打つ。打ち終えるとキーボードは消え扉がスライドした。現れたのは地下へと続く階段だ。思っていたよりも下の方は明るい


「行くぞ」

「はい」


 地下に下りるとひんやりした空気に包まれる。肌寒さを感じながらも奥へと歩を進めると大きな部屋のような空間に行き当たった。ゆっくりと足を踏み入れ様子を観察する。部屋の前方中央には大きな機械が置かれており、その横にはマントを羽織った人影が見える

 リリーとアランはストレンジャーを想定して身構えた。人影がリリーたちの気配に気づき、ゆっくりと振り返った


「……っ!嘘!」

「どうした?」


 その顔を確認するなりリリーは悲鳴を上げた。ただならぬ様子にアランも思わず顔だけ振り返りリリーを確認する

 リリーは前を見つめたまま口に手をあて言葉を失っていた


「まさかリリーがここまで来るとはね」


 人影の声にアランは再び正面へと顔を向ける

 なぜリリーの名を知っているのか、アランがそう口にしようとしたところで、その疑問にはリリーが一足早く答えた


「お兄様……」


 驚きのあまりアランは再びリリーに振り向く

 二人を待ち受けていたのは冷酷に微笑むエルマーだった

ここまで読んで下さりありがとうございます


次回更新はしばらくお待ち下さい

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