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恋をした  作者: 珀志水
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閑話休題




 殺人方法。もとい、人体解剖というものは、なるほど、さほど知らなくてもレパートリーは色々とあるものだなと、今日も今日とて実体験を通して感心している。頭を撃ち抜かれても生きてはいる私の体だからなのかもしれないが。

 どうでもいいが、取り出した腸を壁に飾りつけるのはやめてほしい。ホルモンが食えなくなってしまうほどの、軽いトラウマになりそうだ。

「できた」

 満足、したのだろうか。わからないが、どうやらやりたかったことはできたらしい。

 体とつながったままのそれは、なんとも歪に壁を彩り、小腸の長さを強調していた。その中央にある下半身は、逆さまにされて、足首を太い釘で壁へと打ちつけられている。右足の裏の上には、ちょこんと、取り出された右眼球が置かれていた。気持ち悪い。

「見える?ニエ。……きれいだね」

 何をどう見てきれいだというのだろう。感性の問題だろうが、絶対にこの感性は私には合わない、……と思いたい。

 〝慣れ〟というものは恐ろしくも可笑しなもので、気持ち悪いとは思うものの、初見の時に感じられた絶大な吐き気は、どこかに置き去りにされてしまった。見るに堪えないそれらから、視線を逸らし続けていたはずなのに、今はそれらを何の感慨もなく見つめ、観察し、自分の体の変化を認識することもできるようになっていた。

「ニエ、ニエ」

 切断された首を抱き、彼は何度も呼んだ。眼球のない、ぽっかりと空いた穴に舌を這わせ、愛しげに髪を撫でた。

 閉じられる左目と共に、心地良い闇が飛来する。

「だいすき」

 幼い言葉は、どこまでも残酷に、翳りなく透明で、痛いほど闇に響いた。

 彼にとって、この殺人行為にどれほどの意味があるのだろう。

 突発的に始まり、何らかの感情を吐露する形で終わることが多いこの行為。普段の彼からは、到底考えられない冷たさを持ち、けれど、脆さを窺わせる表情に、最近は胸を締め付けられる。

 わからない。

 わからないから知りたいかと聞かれれば、答えは否だ。

 無知は罪だというけれど、知らなければいいこともざらにある。知るという代償は、知ってしまった後には戻れないということなのだから。

 それこそ、そんなことを知ってしまったら、私は後には退けなくなる。この閉鎖的空間に、いつまで居続けるかなんて知らないが、出て行く時まで知らないままでいたい。

 それが無理だということも、今はよく理解している。だって。

「すきだよ」

 好きだよ。夢のような空間で、何一つ現実味を帯びない想いだけれど、確かに知ってしまった。

「すきだよ…」

 日が陰り、闇へと堕ちようとしている部屋の中で、一人、元に戻った体を縮込めて、ひっそりと泣いた。

 胸の内に生まれた想いを隠し、何かに縋るように泣き続けた。


こういうのなんていうんだっけ……



ストックホルム症候群?


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