【第2話:烈火の炎と一滴の水】
【第2話:烈火の炎と一滴の水】
カイロンが自らの砕け散った剣の柄を悲痛な面持ちで見つめ、その顔に敗北の色を濃く浮かべていたその時、祖父の温もりある言葉が彼の耳に届いた。
「見事、的に命中したぞ、我が子よ。ワシの疑念は晴れた……お前は合格だ!」
カイロンは驚愕に目を見開き、未だ悲しみに喉を詰まらせた声で問い返した。
「どういう意味だい、おじいちゃん? 剣が折れ、勝負に負けたこの僕が、どうして合格なんだ?」
祖父は威厳に満ちた、しかし深い誇りを滲ませた笑い声を上げ、語りかけた。
「お前は全エネルギーを集中させ、まだ『水の聖痕』を宿していない身でありながら、純然たる水の猛攻を放ってみせた! そして何より、決して屈しなかった。それこそが、お前が勝つための唯一の道だったのだ。もし平凡な一撃であったなら、ワシとて容易く防いでいただろう……だがお前は、ワシの予測を超える力で奇襲を仕掛けてきた! 信じるがいい、もし我らが本物の鋼の剣で刃を交えていたなら、お前はワシの剣を叩き折り、完膚なきまでに打ち負かしていたはずだ」
祖父は両目を輝かせながら言葉を続けた。
「さあ、約束を果たそう。明日の朝、お前にこの『水の聖痕』の半分を授ける」
カイロンの唇に大きな笑みが浮かび、体中の血の巡りが速くなるほどの歓喜が駆け巡った。彼は感謝を込めて言った。
「ありがとう、おじいちゃん! 期待を裏切らないよう、この大いなる責任を背負い、常に弱き者を守り抜くと誓うよ」
祖父は愛おしそうに彼の肩を優しく叩いた。
「お前ならそう言うと信じておるよ、我が子よ……。さあ、支度をして村へ行き、食料を買い込んでおいで」
カイロンは興奮気味に深く頷いた。
「うん、行ってくるよ、おじいちゃん!」
少年は軽やかな足取りで扉へと向かい、素早く靴を履くと、振り返って声を掛けた。
「じゃあ、行ってきます!」
そう言い残し、扉を閉めて勢いよく飛び出していった。
カイロンが家の一歩外へ足を踏み出した瞬間、祖父の表情は一変した。その拳を強く握り締めると、彼の全身から「水の主」としての真の正体を誇示するかのような、恐るべき威圧感が放たれた。その刹那、彼の手の甲に刻まれた聖痕が鮮烈な青い光を放ち、そこから純粋な水で形成された剣が具現化して、その掌に収まった。
祖父は低い声でぽつりと言った。
「まずは都市の様子を確かめに行かねばな……。それに、現・火の聖痕の使手である『ヒマル』に、ワシの引退の件を伝えておかねばならん」
次の瞬間、祖父の姿は閃光のごとくその場から掻き消え、大気中にいくつかの水滴だけが蒸発していくように残された。
その頃、カイロンは村へと続く道を歩いていた。だが突如、あまりの恐怖の光景に彼の身体の血が凍りついた。氷の力を操る「エレメンタル・インカーネイト(元素の化化身)」の一人が、人間に向かって残虐な襲撃を仕掛けていたのだ! その化身は氷の刃を振り上げ、恐怖にすくむ村の少女の命を刈り取ろうとしていた。
しかし、氷の刃が彼女の首筋に届くほんの一瞬前、凄まじい勢いで放たれた燃え盛る炎の剣が、突如としてその化身の背後を貫き、胸元からその灼熱の刃を突き出した! 化身には悲鳴を上げる時間すら与えられなかった。炎の剣がその「魂の核」を完全に破壊したため、彼の氷の肉体は凄まじい速度で融解し、霧散していった。
炎の剣は空中を舞いながら反転し、主の元へと帰還した。その男の名は――「ヒマル」。現・火の聖痕の使手であった。
彼は二十歳前後の、一見すると標準的な体格の青年だったが、その放つ威厳は圧倒的だった。彼の特異な髪は、頭頂部から漆黒の闇のように流れ落ち、毛先に向かって燃え盛る残り火のような鮮血の赤へと変貌していた。ヒマルは、エレメンタル・インカーネイトの溶けかけた残骸を極限まで見下すような冷徹な眼差しで見つめ、冷淡な口調で吐き捨てた。
「まったく……どこまでも脆弱で、憐れな存在だ」
この凄惨な光景を遠くから驚愕の面持ちで見つめていたカイロンは、突如として激しい頭痛に襲われた。彼の脳裏を、未知の記憶の断片と不気味な幻影が駆け巡る! その記憶の中で、彼は自らが「氷の聖痕」を宿し、冷酷無比に「クリスタルの恩恵(結晶の使手)」の者を屠っている姿を目撃したのだ。
カイロンはよろめきながら一歩後退し、荒い息を吐きながら己の頭を抱え込んだ。そして、恐怖に怯えながら自らに問いかけた。
「なんなんだ、この奇妙な記憶は……!? 確信を持って言える、こんなこと僕の人生で一度だって起きたはずがない……。なら一体、これはどこから紛れ込んできたんだ?!」




