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君を忘れたふりをした―記憶を失った僕に、彼女は友達だと嘘をついた―  作者: ズッキー


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第9話 知らないふり

あの日から、圭太はずっと考えていた。


美月の声。


『私、病気なんだ』


夜に聞いたボイスメモは、何度も頭の中で再生された。


でも。

圭太はまだ、美月に何も聞いていない。

聞けなかった。


あのときコンビニの前で見た、美月の笑顔が頭から離れない。

あんな顔をしている人に、


「病気なんだろ?」


なんて言えるはずがなかった。


——翌日。

圭太は一人で駅前の通りを歩いていた。


冬の風が冷たい。

足は自然と、ある場所へ向かっていた。


総合病院。

自動ドアが開く。


白いロビー。

消毒液の匂い。

胸が少しだけ重くなる。


受付の前まで行って、圭太は少し迷った。

でも、結局聞いた。


「あの……」

受付の女性が顔を上げる。


「美月って人、ここ通ってますか」


一瞬の沈黙。


「患者さんの情報は——」


「……知り合いなんです」


圭太は言葉を探した。


「大事な人なんです」


受付の女性は少し困った顔をした。

それから言った。


「お名前、フルネームは?」


「月島美月です」


女性はパソコンを操作した。

数秒。


そのときだった。

後ろから声がした。


「圭太?」


振り向く。

そこにいたのは——


美月だった。

圭太の心臓が大きく跳ねる。


ショートヘアが少し揺れている。

白いニットに、黒いコート。

首元の星のネックレスが静かに光っていた。


「どうしたの?」


美月は少し驚いた顔をしている。

圭太の頭の中は真っ白だった。


まさか、ここで会うとは思っていなかった。


「いや……」


言葉が詰まる。

受付の女性が言った。


「お知り合いでしたか」


美月は軽くうなずく。


「はい」


そして圭太の方を見る。


「どうしたの?」


圭太は一瞬だけ迷った。

でも。

結局、嘘をついた。


「検査」


「え?」


「事故のあと、ちょっと気になって」


美月はほっとしたように笑った。


「そっか」


それから少し首を傾ける。


「でも私に言ってくれればよかったのに」


圭太は何も言えない。

胸の奥が痛い。

本当は、お前のことを聞きに来たんだ。


でも言えない。

美月は言った。


「ちょうど終わったとこ」


「検査?」


「うん」


少しだけ笑う。

でも、その笑顔はどこか疲れていた。


「大丈夫なの?」


圭太が聞く。

美月は軽く肩をすくめる。


「いつものやつ」


その言葉に、圭太の胸が強く締めつけられた。

いつもの。

つまり。

もう前から続いている。


「なあ」


圭太は言いかけた。

でも言葉が出ない。


病気なのか?

どんな病気なんだ?

余命ってあるのか?


聞きたいことは山ほどあるのに。

美月は笑った。


「圭太」


「ん?」


「今日暇?」


圭太は少し驚く。


「まあ」


「じゃあ」


美月は少し考えた。

そして言った。


「海、行こ」


「海?」


「うん」


ショートヘアが風で揺れる。


「なんとなく見たい」


圭太はその顔を見た。

少しだけ寂しそうだった。


「いいよ」


圭太は言った。


「行こう」


美月は嬉しそうに笑った。


「ほんと?」


「うん」


その笑顔を見て、圭太は思った。


まだ言わなくていい。

まだ聞かなくていい。

今は。

ただ一緒にいよう。


でも。

圭太はまだ知らなかった。


美月がさっき受けていた検査の結果。

それが


余命一年。


という宣告だったことを。


そして。

その夜。

美月は一人で部屋にいた。


机の上に、スマホ。

ボイスメモの画面。

そこに表示されている日付。


0512


美月はその数字を見つめる。

そして、小さくつぶやいた。


「……まだだよ」


指が再生ボタンの上で止まる。

そして。

スマホをそっと閉じた。


「まだ」


静かな声。


「圭太には、聞かせない」


窓の外には、夜空が広がっていた。

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